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私の大好きなぶどうの話

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:深山(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
宮崎県の山奥出身です。
 
近所に、父の友達が経営するぶどう屋さんがありました。
父の友達ということで、初夏から秋にかけてのぶどうの季節、実家ではお歳暮と言ったらぶどう、お礼と言ったらぶどうでした。
節約家の母にとっては大盤振る舞いでぶどうを買いに行っていました。ぶどうを買いに行くと、私たち3人姉妹にひとり1房ずつ商品とは別にぶどうをくれるので、それはもう買いに行くのが本当に楽しみでした。
「ちょっと待ってて」
と言って温室にぶどうを取りに行く父の友達の姿を、内心やったー! と見送っていたのを覚えています。
 
「アルバイトしたい!」
私がそう言いだしたのは高校1年生の時。
自分で自由になるお金が欲しくて両親にそう言いました。そうしたら、父のつてでその近所のぶどう屋さんでお盆の1週間だけアルバイトをさせてもらえることになりました。
 
ぶどう屋さんはお父さんの友達と、そのお母さん、パートさんで切り盛りしていましたが、お盆はお歳暮や人が集まったときのデザートでぶどうが売れるようでした。
 
初日。人生で初めてのアルバイト。
仕事はぶどうの傷んだ部分や葉っぱを取り除いてパッケージの袋に詰めることでした。とにかく初めてのことで緊張していて、それに1日中立っているのがとてもきつかったです。そして食べ物独特の匂いをずっと嗅いでいるのも少ししんどくて途中で吐いてしまいました。その後、なんて言ったのかはあまり覚えていませんが、吐いたことを誤魔化して仕事を続けていました。
 
初日にそんなことがあったから次の日からとても心配だったものの、吐いたのはその日だけでそれ以降は楽しく働いていました。
 
高校生の頃はあまり自分から積極的に話す方ではなかったので、アルバイト先の方が振ってくれた話に答えることで精いっぱいでした。そして慣れてくると単純作業も楽しくて、おしゃべりしながら手を動かしていました。何を話していたかはあまり覚えていませんが、とてもかわいがってもらったのを覚えています。今にして思えば、忙しい時期にアルバイト初めての高校生が入ってむしろ邪魔だったんじゃないか……。
 
なによりも!
仕事終わりには父の友達が
「持って帰りな」
と、ぶどうを1~2房取ってきてくれたのです。毎日です。
ぶどう大好きな私は、自分で働いて稼いだお金以上にそのぶどうが嬉しかったです。
 
アルバイト最後の日、なんと段ボール箱いっぱいのぶどうを貰いました。アルバイト中に覚えたぶどうの品種が全部入っていたと思います。なんて贅沢。もうそのぶどうだけでアルバイト代以上の価値があったと思います。本当にうれしくて、「どれから食べようかな~」なんて箱の中をニヤニヤと眺めながら抱えて持って帰りました。
 
ひとり暮らしをするようになってから、ぶどうが高級品であることを知りました。スーパーで安く売っているものもありますが、美味しいぶどうを食べようと思うと3000円は出さないといけません。それまではぶどうの季節になると湯水のように食べていたので学生の一人暮らしで美味しいぶどうを食べようと思うとかなり苦しいことが分かりました。これまでの生活が贅沢でした……。
そのため毎年ぶどうの季節になると実家に
「ぶどう送って! 送って!」
と急かすように連絡していました。
 
そんなとき、お父さんの友達は亡くなってしまいました。
まだ4,50代でした。
ぶどう屋さんは跡を継ぐ人がおらず、なくなってしまいました。
 
お父さんの友達が亡くなった後の8月、そのぶどう屋さんの最後のぶどうをいただきました。
 
大好きだったシャインマスカット。
それもそのぶどう屋さんでしか売っていない特別な品種でした。
 
綺麗な薄い黄緑色で、実が大きくてきれいでツヤツヤしていました。
1粒食べるごとに、こんな美味しいぶどうなのにもう食べられないんだなと悲しくなりました。
 
そのぶどうを食べたのはもう何年も昔のことですが、最近果物屋さんで売っていたシャインマスカットが、あのぶどう屋さんのシャインマスカットと同じ色でツヤツヤしていて美味しそうで、通りすがりに一瞬目を奪われました。値札を見ると5000円。じっと見ていると、最後に食べたあの味を思い出しました。
 
でも私はその5000円のシャインマスカットは買いません。
ふん、と思ってその場を立ち去りました。
分かっているんです。どうせあのぶどう屋さんの最後に食べたぶどうの方が美味しいって。
いくら高級なぶどうでもかなわないんです。
 
はぁ、もっと食べておけば良かったなぁ。
 
 
 
 
***
 
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2023-02-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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