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メディアグランプリ

朝、田んぼにベンツが転がっていた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:赤羽かなえ(ライティング実践教室)
 
 
思わず二度見した。
田んぼにベンツが転がっている。
助手席を下にして横転していたのを目撃してしまった。
 
田んぼと田んぼに挟まれた細い一本道を踏み外してしまったようだ。ガードレールもないし、少し高くなっているところだから衝撃も相当のものだっただろう。住宅には囲まれているけれど、人通りは少ない道なので事故がいつ起きたのかもわからない。でも、登園するのに時間がなかったので、気になりつつもベンツの横をすり抜けて一本道を通り、園まで娘を送り届けた。
 
どうしよう……。
駐車場でエンジンをかけながら迷った。あの車の中にはまだ誰か人がいたんだろうか。帰りは、寄らなければいけないところがあって、別の道を通って帰るつもりだったけど、もしもあの車の中に人が残っていたら? ひとけがないから誰にも助けてもらえなくて、そのまま苦しい思いをしていたら?
 
見事な横転だったから、運転していた人は、助手席側に転がっただろう。打ちどころが悪かったら意識がないかもしれない。そんな状況で、私が一人で行ったとして、なにか役に立てるんだろうか。でも、あの場所で仮に私が警察を呼んだとしたらすごく時間がかかるだろう。このあと約束もしているし、家には今日たまたま休校の娘が待っているから時間がかかるのは困る。
 
ほんの1分ほどの間に、いろいろな感情が駆け巡った。小雨がフロントガラスにぶつかってちいさな水玉ができているのを迷いながら眺めた。
 
でも、もしも、あそこに人が取り残されていて、後で、その人が手遅れになった、なんて知ったら絶対に後味悪いよね。正直、怪我している人をみるのもホントに怖いし、下手したら意識がなかったら命にも関わるかもしれない。それを見た時の恐怖感を想像して胸がぎゅっと締め付けられるのを感じながらも、現場に戻ることにした。
 
逆側から、田んぼと田んぼに挟まれた一本道に戻る。するとさっきは気づかなかったけれど、窓が開いているのがわかった。邪魔にならないところに車を停めて、近づいてみると、エアバッグだろうか、水色の風船のようなものがしぼんでいるようにも見える。近づいて、
 
「あのー、大丈夫ですか?」
 
と声をかけた。なんとまぬけな質問なんだろう、大丈夫なわけがないのだけど、適当な声のかけ方がわからなかった。
 
けれど、返事は予想外にも右後ろの方から聞こえた。振り返ると、現場の斜め前の家から女性が声をかけてくれた。
 
「もう、車の中には誰もいませんよ。昨日のことだから」
 
「あ、ああ、そうですか……それはよかったです」
 
何がよかったんだろう……また、まぬけなことを言ってしまった、と思いながら、車に戻った。怪我した人などを見なくてすんで、正直ホッとした。
 
「そりゃあ、朝から大変だったねえ」
 
寄った先で、友人にことの顛末をまくしたてると、彼女はゆっくりと相槌を打ってくれた。妙にアドレナリンが出ているようなソワソワした気持ちがその一言で少しだけ収まった。
 
「そうなんよー、ドキドキしたわ。自分の無力さを感じたというか」
 
友人もうなずく。
 
「わかる。私も前に目の前でバイクが転倒したのを見てね、気になったけど、通りすぎちゃってね。どうなったかなって思うことあるもん」
 
確かに、事故の現場に出くわすことはたまにあるけれど、止まることもできずに通り過ぎてしまうことってある。戻ってきて助けること自体迷惑かもしれないとやり過ごしてしまったことは、私も経験したことがある。そういう時に限って、あの事故に遭った人は大丈夫なんだろうか、と後々心に残ってしまうものなのかもしれないな、と友人の話を聞いて思う。
 
今回、自分に何ができるか、役に立てないかもしれない、怖いシーンを見てしまうことになってしまったらどうしよう、用事もあるし……など、現場に戻る前に行きたくない理由も沢山考えた。それでも、もしかしたら、何か役に立てるかもしれない、自分が戻らなかったら大変なことになるかもしれないと思い直して、現場に戻ると決めた。結果、既に事故処理はされていて何の役にも立つことはできなかったけれど、自分の気持ちが整理できたのはよかったんだな。
 
今日も明日も送迎するたびに、現場を通りかかるだろう、その度に、その後どうなったのか気にかかるし、しばらくは落ち着かない気持ちにもなるだろう。それでも、私は、今回現場に戻って良かったんだとその度に言い聞かせよう。
 
後悔しないように行動した自分にちゃんと〇をつけてあげるんだ。
 
 
 
 
***
 
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2023-02-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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