メディアグランプリ

父に教えてもらったチーズナンは凄かった


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記事:岩間愛(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
インドカレー屋によく行くようになったきっかけははっきり覚えている。
チーズナンの存在だ。カレーの記憶はほぼないが、チーズナンをはじめて食べた時の衝撃だけは今でも覚えている。少し甘みのあるとろけたチーズの塊に、スパイシーなカレーをつけて頬張るのだ。すべてが新しかった。
 
「チーズナン食べたことあるか?」
 
父のこの一言が、後々の人生を変えることになると想像できただろうか。
それも10年くらい時間をかけてゆっくりと、確実に人生を変えたきっかけになったのだ。

その後、いろんなチーズナンと出会ってきた。はじめての感動が忘れられず、選ぶ店は自然とインドカレー屋に変わっていった。同じチーズナンでもお店によって結構違いがある。甘かったり、しょっぱかったり、チーズの種類の違いもある。
私のはじめてのチーズナンは、とにかくチーズが凄かった。
 
当時、父との外食は珍しいことだった。仲が良いとも悪いとも捉えられない距離感。少しむず痒さもあったが、お腹は減っていたので断る理由もなかった。
 
「チーズのナン?」
「そうだ、チーズが凄いんだ」
 
当時、カレーといえばCoCo壱番屋だった。家カレーと給食のカレーと、ココイチ以外のカレーを自分の人生に介入させた記憶がない。そうだ、ゴーゴーカレーは一度食べたことがあった。カレーとの距離感はその程度である。
 
だからといって、インドカレーを食べたことがなかったわけではない。当然ナンも知っている。大きくて三角の平べったいパンのことだ。だからまあ、そこにチーズが使われているんだろうくらいの想像はできる。「チーズが凄い」なんて語彙力のなさを素直に信用しようと思わなかったし、正直あまり興味はなかった。
 
向かった先は家からだいぶ近いインドカレー屋だった。インド人っぽい人がいて、店内の装飾もインドっぽい感じである。よくあるインド料理屋と言ったらそれで説明が終わってしまうくらいに量産型のお店だ。父はよく来ているのか、妙に店員に馴れ馴れしく接しながらチーズナンを頼んでくれた。
 
「ほら、来たぞ。凄いだろ」
 
なんとチーズナンは丸かった。大きくて三角の平べったいパンの姿のかけらもなく、円盤状のナンの中にたっぷりとチーズが入っている様子。それは4等分されていて、チーズが大量にはみ出した扇型が重なるように並べられていた。ナンからはみ出しているチーズは下のナンが支えている。それも耐えきれず、お皿にチーズが流れていた。もはやチーズに溺れたパンとも言える代物だった。父の言う「凄い」は本当だった。
 
日本人にとって、大量のチーズが使われている食べ物といえばピザをイメージするだろうか。宅配ピザでなかなか体験しない溢れたチーズがそこにはあった。
チーズナンは生地よりも、チーズの方が多いように感じた。チーズのピザといえば有名なクアトロフォルマッジだが、隣に並んでいたらチーズ代表として自信をなくしてしまうのではないだろうか。それくらいにはチーズ量に差がある。
 
しかもチーズは抜群に柔らかかった。よく伸びもした。通常のナンとは違ってちぎりながら食べることができない。ピザのように4分の1ごと持ち、まずはそれにかぶりつく。遠くに感じるほのかな甘みとチーズの塩味、ナンの香ばしさ。単品として既に完成していた。
 
「これにわざわざカレーが必要だろうか」
そんなことを思いながら、スプーンでカレーをすくってチーズナンの上に乗せて食らうことにする。口の中を柔らかく満たすチーズにカレーというパンチが加わる。
なるほど、これがチーズナンか。
 
もちろんデメリットはある。これの良くないところはボリューム感だ。2切れ目を食べているうちに、残りのチーズが完全に冷めて固まってしまう。早食いでは解決にならない。2切れが美味しく楽しく温かく食べられるタイムリミットだと思った。
もちろん冷めていても美味しいのだが、夏祭りの帰り道で食べる冷めたたこ焼きのようで少し寂しい。
 
最近では食べやすいサイズのチーズナンを見かけることがある。だが、あの溢れるチーズのボリューム感で現れてくれないと、少し物足りないのもまた事実なのだ。
そんなデメリットも含めて、チーズナンの基準は父親をきっかけにしっかりと植え付けられた。
 
チーズナンを求めて私はインドカレー屋に通うようになった。そのうちスパイス料理全般に興味を持ち、世界の広さを知ることになる。もっとカレーを知りたいと思う頃には、いろんな人に自分で作ったカレーを食べてもらうようにもなっていた。カレーがたくさんの人との出会いと経験に繋げてくれている。自分の世界の狭さが凄いチーズの如く伸びていく。
私の記憶に刻まれたチーズナンの種は、10年以上もの時間をかけて小さめの樹木くらいに育っていた。それに気づいたのはここ最近の話である。
 
父が教えてくれたチーズナンは確かに凄かった。
私の中のチーズナンが、いつか大木になるのを楽しみにしている。
 
 
 
 
***
 
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2023-02-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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