メディアグランプリ

ホワイトナイト症候群の闇


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記事:戸田そのこ(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「人助けには中毒性がある」と行動学の専門家が言っていた。人助けをすると脳は3つの幸せホルモンを分泌するのだそうだ。うつ病罹患者が不足していると言われている、多幸感を生み出すセロトニン、やる気を高めるドーパミン、そして母乳を促すおっぱいホルモン、オキシトシンだ。これらが組み合わさった結果として生じる幸福感を、人は当然、繰り返し感じたいと思う。この現象を心理学用語では「ホワイトナイト症候群」と言う。一度ボランティアを経験し、人助けをしたことに幸福を感じると毎週のように行ってしまうのもこの現象ゆえだろう。人を助ける、という一見良い行動に見えるが、実はそれは自分の幸福感を満たすための行動になっている。目的が変わってしまうのだ。
 
2011年3月11日。あの日世に存在していたすべての人が翻弄されたあの日、私は六本木の高層ビル25Fで働いていた。手で押さえておかないとPCが床に落ちてしまうほどの激しい揺れが襲った14:32。免震構造のビルの中に残った方が安全だったが、1Fの飲食店でボヤが起きたことによる避難命令。25階分の階段を下りて檜町公園へ避難。そのまま、執務スペースに戻ることもできず、都心から4時間歩いて帰宅したあの日。部屋に戻ると本がぎっしり詰まっていて自分の力では1ミリたりとも動かすこともできないほどの重たいキャビネットが30㎝ほど動いていた。食器棚を開いた途端、食器が雨のように降り注いで床に落ちた。TVをつけると、ビルの高さを超える巨大津波とその津波に流される人、家、車が延々と映し出されていた。とても現実の者とは思えなかった。何の悪夢だろう。六本木で感じたあの地震とこの映像が同じ原因によるものなのか。
 
山登り仲間が出してくれた車に同乗して2011年のゴールデンウィークから私は被災地でのボランティアを始めた。ありえない形にぐにゃりと曲がった電信柱、ビルの屋上に鎮座する洋式便器、田んぼの真ん中に船、路上に横たわる高さ10M を超えるだろう巨大タンク、そして自衛隊がざっと片付けてくれた累々たる瓦礫の山が迎えてくれた。最初のボランティアは宮城県のいちご農家のビニールハウスの瓦礫撤去。週末の三日間を要しても全く何もしなかったのではないかと思えるほど広大に広がった瓦礫の山はうんざりするほどの絶望感をもたらした。と同時に、涙を流して車が見えなくなるまで見送ってくれたいちご農家の家族の姿は東北中の瓦礫がひとかけらも無くなるまで現地に通ってやると私に決意させるのに十分だった。2013年に入るまでの約2年間、月1回以上は東北のどこかの被災地にいた。SNSの投稿もいかにボランティアで貢献しているか、いかに自分はすばらしい活動をしているか、を長々と書いていた。最初は瓦礫撤去だけだったものが、復旧から復興へ。支援の形は精神的なものに変化していった。
 
東北での支援が形として見えにくくなっていったのを感じた私は支援の場所を都内に変えた。ホームレス支援だ。路上を生活の場とし、行政から疎外されている「社会的弱者」の彼らへの支援は東北復興支援とは別の多幸感を私にもたらした。今でいうUber Eatsの無料版とも呼べるアウトリーチという名の食事提供や公園での炊き出し。主にNPOが主体となって提供するその行為はわかりやすく感謝されることはなかったし、拒否されることもあったが、「彼らは支援されることに慣れていないだけなんだ」。そんな勝手な認識の下、ただその行為を毎週末続けた。路上で生活する彼らが少しでも幸せになれるよう、路上から地上へ戻す、仕事を見つけ、給与を得ることで家に住み、安定就労に繋げてみせる、という間違った使命感と正義感の下に。感謝されることはない、ゴールの見えないボランティアを続ける中で、私はこれを仕事にしたいんだなと気がついていく。
 
ホームレスとの会話、そしてリサーチ研究を行った精神科医の発表からホームレスには精神障害者が多いことを知る。リアルに支援が必要な人達と認識した私は支援から得られる新たな多幸感を求めに、ボランティアではなく、自分の仕事の土壌を障害者支援に定め、福祉の国家資格と心理の国家資格を取得した。より専門的な支援ができるからだ。ホワイトナイト症候群の業なのか。そうかもしれない。
 
障害者支援を仕事にしてから8年が経過した。ホームレス支援時と同じように、感謝はされない。収入こそないが住む家はある障害者達は毎日事業所に通所し、就労準備性が高まったところで就職活動を開始し、企業に就職が決まれば、就労が開始される。支援者が支援したことは全部自分が努力したことに置き換わってしまう。1年ほど前から支援は徒労に置き換わりつつある。助けた事実は努力したことに障害者達の思考の中で変わってしまうからだ。
 
考えてみると私はずっと誰かに感謝されるために生きてきた。大人になるまでは母に、成人になってからは友人に、先輩に、職場の上司に、同僚に。そして支援の対象者に。誰からも感謝されることがなくなってしまった私はまた新たなホワイトナイトとなって、旅に出なくてはいけないのだろう。
 
 
 
 
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2023-02-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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