メディアグランプリ

ライス・イズ・ビューティフル


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:藤野宏隆(ライティング・ライブ京都会場)
 
 
「焼き上がりました~。うわ! すっごい美味しそう。これにお店直伝のタレを絡めて……、白ごはんと一緒に……、う~ん、美味しい!」
 
テレビでグルメリポーターが、焼肉店を取材している。恰幅の良い体で幸せそうに食べるその表情と、なぜか美味しさが伝わる奇抜な言い回しは、見ている側に思わず自分も食べてみたいと思わせてしまう。
 
「いや~、美味しい! そして、白ごはんのタレが付いたこの部分! まるで勝利の後のウイニングラン! たまりません!」
 
でもこんな場面があると私は、「それだけは一生食べられないだろうな」といつも思ってしまう。私が一生食べられないと考えしまうのは、焼肉のタレが付いたごはんだ。別に、「焼肉には岩塩でしょ!」みたいな食通を気取っているわけではない。
 
私は、白いごはんを汚すのが嫌なのだ。
だから、焼肉のタレでなくても、醬油やソースでも同じだし、液体に限らず、ふりかけやごま塩のような粉末のものも同様だ。食べるラー油や明太子のようなごはんのお供は、お供としての美味しさは認めるが、お供らしく側に控えているだけで、間違ってもごはんの上に乗るなんてことはしてほしくない。
 
「じゃあ、牛丼みたいな丼ものやカレーライスなんて絶対に食べられないですね」
 
そんな風に思われるかもしれないが、そんなことはない。お店で普通に牛丼もカレーライスも食べることはある。
「みんなごはんの上に乗ってますよ」というツッコミに対して、なにが違うのかと言われると、屁理屈かもしれないが、それらはすでにごはんに乗ってしまっているのだ。オン・ザ・ライスの状態で料理が完成している。もしこれを一度ごはんからどけようとすると、私がどけてしまうことで、ごはんが汚れている状態を作ることになってしまう。そんなことは余計に耐えられない。
 
私は自分のせいで、ごはんが汚れてしまうのが嫌なのだ。
だから、友人と焼肉を食べに行って、ほかの人が「焼肉のタレがしみた白ごはんの部分、サイコ~」と食べていても気にすることはないし、納豆をごはんに混ぜて食べていても「やめて! ごはんが汚れていく!」なんて思うこともない。しかし、自分がごはんを汚してしまうのは嫌だから、タレの付いた焼肉を白ごはんにバウンドさせることはないし、明太子のようなごはんのお供をごはんに乗せることもない。
 
この癖というか一種の信条は、子どもの時からずっと続いているものだ。
この癖のせいで何か影響を受けた人がいると考えるならそれは私の母親だろう。
 
例えば、夕食が麻婆豆腐の時に「最初からごはんの上にかけちゃってもいい?」と子どもたちに聞くと、妹と弟は「いいよ」と言うけれども、私は「ごはんと別がいい」と答えるのだ。母親は、「えー、じゃあ器もう1つ持って来て」と言って、麻婆豆腐だけを別の器に盛りつけてくれる。聞かれることなく、食卓に麻婆豆腐丼の形で出てきたら「今日は麻婆豆腐丼ね、美味しそう」と思うだけだが、ごはんにかけるか聞かれたのだから仕方がない。だって、これに「いいよ」と答えたら私は自分の手でごはんを汚してしまうのだから。それはどうしてもできない。こうして私の前には食器が他の家族よりたくさん並んで、その分、母親は洗い物の数が多くなってしまう。母親からすれば面倒くさいとも思うだろう。
 
しかし、この癖が母親にとって些細なお助けになっている場面もあった。
私が幼稚園に通っていたときのことだ。
 
当時、給食のごはんは園児がお弁当箱の空き箱を家から持ってきて、そこに盛り付けるルールだった。子どもだとごはんの上になんでも乗せてしまうこともあるだろう。すると、母親は子どもが持って帰ってきたお弁当箱の汚れを見て、「衣が付いてる。今日は揚げ物だったんだ」とか、「今日はふりかけがあったんだな」と我が子が何をどんな風に食べているのか思い浮かべるのだ。
 
しかし、母親たちにとって、悩みの種になっているものが1つあった。
それは給食で納豆が出る時だ。
子どもたちはかき混ぜた納豆を自分のお弁当箱によそったごはんにのせて食べる。そしていつも通り、食べ終えたお弁当箱を家に持って帰ってくる。母親たちがお弁当箱を洗おうと蓋を開けると、お昼から数時間、密閉した状態で保存されていた納豆のニオイが一気に吹き出してくる。
「うわっ! そういえば今日は納豆だった。ニオイが強烈! それに汚れもこべりついて全然取れない!」
これが母親たちにとっては共通の悩みであり、給食に関するあるあるネタになっていたようだ。
 
しかし、ごはんを汚さない私のお弁当箱は汚れることがない。その日のおかずが、揚げ物でも、納豆でも、朝、幼稚園に送り出した時とほとんど変わらない見た目でお弁当箱が戻ってくる。母親としては洗い物がすごくやりやすかったとのことだ。他のお母さんが話していた納豆の話はいつまでたっても分からなかったらしい。
 
そんな私だが、自分の意思でごはんにかけるものが実は1つだけある。卵かけごはん。白一色のごはんが、見事な金色で一色に包まれる。それはまったく汚れなどではなく、お色直しをした新しい美しさだ。つまり、私の癖はごはんを汚したくないということではないのだと気づいた。ひと言で表現するなら、ライス・イズ・ビューティフル。ごはんは均一さを持った美しいものであるべきだというなんとも面倒くさい信念なのだ。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2023-02-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事