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ドロップアウトでヒーローになる地方移住のススメ

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:吉居 大輔(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
幼稚園の頃からお受験の世界で長い間ライバルたちを相手に競争をしてきた僕は、ずっと劣等感のかたまりであった。というのも、いつもライバルたちに敵わない自分の不甲斐なさに失望を重ねてきたからである。
  
「自分は頭が悪いのかも」と思ったのは、県下で一番の中学校にはいってからだった。
 
朝から晩までサッカー部で部活をしていた僕は学年で200番代の成績をうろついていた。一方で、同じようにサッカー部で過ごしていた友人たちは皆、余裕で5番とか10番、悪くても20番あたりの成績をとっていた。おまけにサッカーもうまく、性格も悪いわけでもない。懸命に努力しても決して奴らには追いつくことはなかった。
 
その後、僕は高校受験で失敗し、県内一の高校に進学する奴らとは違う道に進むことになった。仲間で落ちたのはなんと僕だけだった。落ちこぼれ。負け犬になった。悔しかった。その後2年間は警察に補導されるほどグレた。自分の存在価値に失望し、その無念さが反抗に変わった高校時代であった。
  
そんな暗黒の高校時代を過ごしたのち、ある時また思い直して勉強し、なんとか一流大学に滑り込めた。それは返り咲きでうれしいことではあったが、同時に不幸の始まりでもあった。またしても僕よりも優秀なライバルたちと過ごすことになったからである。
  
今度こそ、もっと努力をして彼らに追いつきたいと思ったものだが、ある時ある事に気づいた。僕は奴らのようには決してなれないという現実を。
 
それは、奴らは大して勉強しなくても僕よりも何倍も身につけてしまう能力があるということだ。つまり、能力が先天的に優れている、まあ言ってみれば天才たちなのだと。間違いない。
 
そう確信したときにそれまでのことが腑に落ちた。だからあの大して勉強もしない中学時代のサッカー部の連中が、その後もみんな揃って東大や京大などを経て医者や教授になって活躍しているのも、まあ当然の成り行きなのだ。
  
しかし今まで天才たちを相手にして、自分がダメダメだったのはしょうがないと諦められたとしても、自分の劣等感が埋まることにはならない。
  
人は劣等感をどのように解決すればいいのだろうか?
人は人。自分は自分というふうに、簡単に割り切れるものでもないと思う。
 
ところが僕は、社会人になってからその劣等感から救われることになる。
 
大学を出てから、なんとか一流と言われる会社にも入社できて10年のキャリアを積んだが、僕は退社して自分の会社を起ち上げた。農業資材ビジネスだったので札幌に移住した。大会社での仕事は面白かったのに辞めたわけは、同期の連中たちとまた出世争いという競争をするのが嫌だったこともあった。もう競争社会に辟易として逃亡、ドロップアウトをしたのである。
 
考えてみるといつもギリギリではあったが、僕はそこまでの人生の大体において一軍の世界(環境)に身を置けてきた。たまたま持っていたある程度の能力と環境、そして運(または縁)によってそういう世界の底辺にいたことで、僕は常に自分よりも優れた奴らと競争する必要があった。だから自分がいつも小さく見えた。そうした世界の中で自分の存在価値を見出すことは難しかったと思う。
 
しかし、競争社会からドロップアウトし、地方に移住したことですっかり世界が変わってしまったのだ。一軍にしがみつくのをやめ、違う世界に出たとき、僕は自分の視野が狭かったことを知った。
  
自分のビジネスを始めて少ししてから、妻とともに子どもたちの教育に深く関わることになった。そこで我々は北海道の中でもより田舎町に移り住むことになり、今では人口4千人にも満たない小さな町に住んでいる。
東京、大阪、名古屋がプロ野球の一軍の世界だとしたら、人口200万の札幌はいわば二軍。人口数十万の都市は三軍。そして数千の田舎町はアマチュアチームの世界だろうか。
 
さて、この人口4千人の田舎町という世界……。
都会のみなさんはこの世界の生活を想像できるだろうか?
 
まず周りは7割が70代以上の年寄りという感じだ。
自治会では50代の自分も若手の類にはいる。
この町で生まれ育って一度も他の町で暮らしたことのない人たちが多勢を占める。
以前に札幌や東京で少し仕事をしていたことがある人たちもいなくはないが、基本的に外の世界での経験がない人たちで構成されている世界なのである。
 
そんな田舎町に10年ほど住み、僕ら夫婦はここで家を新築した。
えー!? なぜかって?
もちろん素晴らしい自然やおいしい旬の食べ物もそうだが、この町で「必要とされている人」になれていると思ったこともあったと思う。
  
お年寄りばかりのこの町での生活では屋根の雪下ろしや雪かき、神社のお祭りを手伝い、木に登って巣箱をつけ、スマホを教えてあげるだけで喜ばれる。自治会の仕事で少し難しい関数を使った簡単な出納帳を作り、「クラウド共有しましょうね」と提案するだけでも、みんなに「すごい」と一目を置かれる。
たまに来る外人相手に拙い英語で通訳をし、貿易実務やマーケティングの相談、町長にはまちづくりのプレゼンをし、昔の知識をベースに最近の世界動向や為替動向を適当にしゃべればもうヒーローなのである。
  
それであいつは何者だと話題に上がると、「どうやらK大卒の元エリート商社マンらしいよ」と噂され、多分彼らはそれが実際にはどんなものかわからなくても、なんか「スゴイ人」なのだろうと認識する。だって周りにそんな世界から来た人はいないのだから、多分意味不明のはずなのだ。まあ勝手にイメージ膨らませているのだと思う。
  
東京にいた頃、周りは一流大学出身や大手企業の人間ばかりで、自分はその中で埋もれた存在だった。出身校や会社名とかにも特に価値も見出せなかった。
 
しかし、こちらの世界ではそんな見せかけの経歴だけでも存在価値があるようだ。もちろん、「なんだ。全然だめじゃん」などと町の人たちに失望されないように、中身でもちゃんと期待に応えていくためには、少しばかりのプレッシャーはあるが、都会での競争に比べたらはるかに楽勝だ。つまり、こんな僕でも余力を持って「地域に必要な人材」でいられるのだ。
 
そんなわけで僕はこの小さな町で自分の存在価値を見出すことができた。それはこれまでの劣等感を埋めるとともに、今まで気づかなかった自分の環境や経験に感謝できるようにもなった。
 
人間、精一杯背伸びしてその世界でがんばるのもいいが、もしあなたがそこで自分に自信をなくしているのなら、思い切ってドロップアウトしてもいい。そこにはあなたが自分の能力・経験・若さを活かして活躍できるフィールドがあるはずだ。たとえ年収がずっと減っても、その分健康と余裕と時間をゲットしてお釣りがくるはず。そういうことを知ってほしい。
 
だから僕は都会しか知らない人たちに地方移住をおススメするのである。
 
 
 
 
***
 
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2023-02-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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