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台湾でタクシーに乗ったら神ドライバーに当たった話

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記事:うえひらまさ代(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
「国内線でも、外国人は搭乗するのにパスポートが必要です」
私はびっくりして言葉を失った。
ここは台湾、台北松山空港。
時刻はもうすぐ夜中の12時を回ろうかというところ。
 
……詰んだ。
明日の明け方に搭乗予定の台南行きの飛行機に乗るため前乗りしたのに、私ときたらパスポートは国外に行く時しか必要ないと思っていたのだ。
当時、台湾には電車が通っていなかった。
学生寮まで取りに戻るにも、深夜じゃバスなんて動いてないし、始発を待っていたら予約した便に乗り遅れてしまう。
寮にはあんなにいっぱい学生がいるのに、なんで誰も教えてくれないのーーっ!?
 
動転したし腹も立ったが、こうなったらパスポートを取りに行くしか道はない。
そして、どう考えてもこの時間は交通手段がタクシーしかない。
旅行前だったから、幸い現金は多めに持っていた。
空港から寮まで、たぶん往復1時間半くらい。
この時間は渋滞はないし、普通に考えれば飛行機の搭乗時間には十分間に合う。
しかし、だ。
 
私は2か月ほど前のニュースを思い出していた。
1人で台湾観光に来ていた日本人の女子大生が、タクシーの運転手に暴行されたうえ絞殺されたのだ。
幸い犯人はすぐ捕まったけど、同世代の日本の女の子が、自分が今いる異国の地で殺されてしまったことに、私はかなりの衝撃を受けた。
大学構内でも、学生寮でも、こと日本人の女子同士の間では、顔を合わせれば「タクシーには絶対、女子1人で乗らない!」をスローガンのように言い合っていた。
それなのに……。
事情があるとはいえ、こんな深夜に乗るはめになるだなんて、危険極まりない。しかも、何が起こっても自己責任だ。
 
すーはーすーはー。
どんな運転手に当たるかは運でしかない。
私は客待ちのタクシーの列の脇で大きく深呼吸してから、おもむろに先頭車両の後部座席のドアを開けた。
おおまかな地名を伝えて場所が分かるか確認すると、運転手は「分かる、大丈夫」と穏やかな口調で答えた。
私が乗り込むと、車はゆっくりと発車した。
 
タクシーが高速に乗ったところあたりで、私は寮のある場所をもう少し詳しく説明して、事情も話した。
明日の明け方の飛行機に乗りたいけど、パスポートを学生寮に忘れてしまったので取りに帰りたい。パスポートを取ってきたらすぐ車に戻るので、そしたらまた空港に戻ってほしい、と。
すると運転手は「分かった。その時間なら十分間に合うから任せて」と言ってくれた。
 
私の中国語がつたなかったから、運転手がどこから来たのか聞いてきた。
私は日本人で、台湾の大学に留学に来ている、と答えた。
それから私たちは、ぽつぽつとお互いの話をした。
 
私が明日から台南や高雄の友だちの家に何日かずつ泊まって、全部で3週間ほどかけて台湾を一周してから日本に戻ること。
2か月くらい前に日本の女子大生が台北のタクシー運転手に殺された事件があったから、こんな深夜にタクシーに1人で乗るのは本当はとても怖かったこと。
 
夜中のバックミラー越しで見る限り、その運転手は30歳半ばという感じだった。
自分のおじいちゃんが日本軍の人にとても良くしてもらったので、日本人には親切にするよう小さい頃から教えられてきたこと。
今はタクシーの運転手をやっているけど、いつかお金を貯めて日本に行ってみたいと思っていること。
奥さんも日本が好きということ。
最近3人目の子供が生まれたこと。
そんな話をしているうちに、タクシーに乗る前に持っていた恐怖心は全くなくなっていた。
 
タクシーは寮に着いたが、当然、門限は過ぎていて寮母もおらず、玄関付近は真っ暗だった。
当時は携帯電話なんてなかったから、道路から一番近い部屋の寮生に塀の外から声を掛けて、玄関のカギを開けてくれるよう頼んだ。
寮母に見つかったらめちゃくちゃ怒られるから、部屋まで猛ダッシュで駆け上がり、パスポートを手に取って玄関まで戻って、玄関で待っていてくれた寮生に施錠を頼んでお礼を言って、タクシーに駆け戻る。
運転手は、小太りな私の動きの素早さに大笑いしてたっけ。
 
無事空港に戻った私は、運転手に「後日、お礼の手紙を書きたいから連絡先を教えてほしい」と言うと、「そんなこと気にしなくていいのに」と言いながら、達筆な住所のメモを私にくれた。
それから10年近く手紙のやり取りをしていたのだが、私が引っ越したタイミングで手紙は届かなくなった。気になって、しばらく経ってから、私は再度手紙を書いたが、返事はなかった。
元気なら、返事なんて別にいいのだけど。
 
そろそろコロナも開けそうなので、一番に台湾に行きたいと思っている。
空港で、またあの運転手のタクシーに乗れるだろうか。
 
 
 
 
***
 
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2023-02-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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