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受験に失敗した過去の私にかけてあげたい言葉


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:鈴村文子(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
「やっぱり、ダメだったか……」
高校入試の合格発表の日、私は、呆然と掲示板を眺めていた。第一志望の高校に、落ちたのだ。そこからどうやって帰ったのか、良く覚えていない。ただ、これから、どうやって生きていったらいいのだろう、とそればかり考えていた。
 
今から思えば、大袈裟だな、と思うけれど、その頃の私にとっては、その高校に入ることが、人生のすべてだったのだ。体が小さくて、背の順はいつも一番前。運動も出来なくて、運動会では邪魔者扱い。合唱コンクールでは、変な声で下手なくせに、大きな声で歌うな、と気の強いクラスメイトに言われたこともある。とても不愉快だったけれど、大人しい性格のせいで、何も言い返すことが出来なかった。コンプレックスばかりの自分が嫌で仕方がなかった。ただ、勉強だけは出来たので、県内でも有数の進学校の、その高校に入りさえすれば、自分に自信が持てるのではないか、また、他の人から、不愉快なことを言われることも、なくなるのではないかと思っていた。
 
そんなふうに、強く思い過ぎていたのだろうか。第一志望の高校入試の何日か前から、良く眠れなくなった。試験当日も、ひどく緊張していて、いつもだったらスラスラできる問題が、全然、出来なかった。「心のキンセンに触れる」のキンセンの漢字が書けなかったことを、今でも覚えている。
それまでの模擬試験の判定では、A判定だったし、学校や塾の先生からも、まあ合格するだろうと思われていた。私も、絶対その高校に行くんだ、という気持ちでいたのに、落ちた。
それは、好きな人と両想いだと信じていて、周りの皆からも、お似合いだよね、なんて言われていたのに、いざ、告白してみたら、振られてしまったような気持ちだった。彼と付き合えさえすれば、世界が変わると思っていたのに、そうならなかった。第一志望の高校へは、行けない。もう世界は終わったのだ。
 
それからしばらくは、何もする気が起きず、家でぼんやりと過ごしていた。私が変な気を起こすのではないかと心配した母は、私のベッドの横に布団を敷いて、寝るようにしていた。父は、「第二志望の高校に行けるのだから、いいじゃないか。勉強ができる子がたくさんいる学校の中で、下の方の成績になるより、ほどほどの学校の中で、上の方の成績を取っていた方が過ごしやすいと思うよ」と言った。学校や塾の先生はただ、残念だったね、と言うだけだった。何を言われても、私の心には響かず、まったく気は晴れなかった。
 
そんな中、友達が、高校の通学用に、新しいカバンを買いに行こうと誘ってくれた。私は、第二志望の高校なんて行きたくないという気持ちだったが、せっかく誘ってくれたのだからと、一緒に行くことにした。そこで、とても気に入ったカバンが見つかったのだ。この、お気に入りのカバンを使いたいから、ちゃんと高校に行こう。少し気持ちが前向きになった。
 
そうして迎えた入学式の日。お気に入りのカバンのおかげで、出席することはできた。ただ、心の中では、本当は第一志望の高校にいるはずだったのに、なんでここにいるのだろう、という気持ちでいたので、入学式の間中、ずっと、むすっとしていた。第一志望でない高校で、楽しい高校生活なんて送れるわけがない、と諦めたような気持ちで、私の高校生活は始まった。
 
ところが、実際に行き始めてみると、意外にも、楽しい毎日が待っていた。最初に私に話しかけてきたのは、入試の面接で一緒だったという女子だった。声が特徴的だよね、と言われて、私が、そうかな? なんて話していると、他の人も、なになに? みたいな感じで集まってくる。そこで名前や出身中学をお互いに教え合うと、あっという間に、友達同士の会話になる。「部活どうする?」「私、中学の時、バレーやってたから、そのままバレー部かな」という学校生活のこと。「好きな芸能人はいる?」「〇〇さんが好きなんだ」「あーあの人、いいよね、私も好き」という趣味の話。そして、それを聞いた人が、「同じ中学の人が、〇〇さんのファンだから紹介するね」というように、どんどん、友達の輪が広がっていく。それはまるで、水にインクを垂らして、広がっていくような感じだった。取り立てて頑張らなくても、自然に友達が出来ていった。気づいたら、休みの日に一緒に出かけられるような、仲の良い仲間が出来ていた。不愉快なことをいう人なんて、誰一人いなかった。あれ? 別に第一志望の高校でなくても、私、楽しく過ごせてる。それは、嬉しい驚きだった。
 
あれから、もう30年近く経つ。本当は、声が特徴的だと言われた時、中学校の時を思い出して、不愉快に感じた。第一志望の高校だったら、こんなこと言ってくる人はいなかったのではないか、と自分勝手なことを思った。でも、あの時、怒ったりしなくて良かった。怒っていたら、ああやって人が寄ってくることもなかっただろうし、むしろ、怖い人と思われて、全然友達が出来ずにいたかもしれない。今となっては、そちらの方が恐ろしい。
 
中学校当時は第一志望の高校に合格することがすべてで、落ちた時は、人生が終わったみたいな気分だったけれど、今から思えば、たいしたことではないのだ。大事なのは、その後をどう過ごすか、なのだ。第一志望でないからといって、学校で、不機嫌な態度を取り続けていたら、友達も出来ないまま、つまらない高校生活になっていただろう。
 
当時は、大人の誰も、言ってくれなかったけれど、今の私が、タイムマシーンに乗って、第一志望の高校に落ちた時の私に言ってあげたい。今は、人生が終わったみたいな気持ちかもしれないけど、大事なことは、これからを、どう過ごすかなんだよ、と。
 
 
 
 
***
 
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2023-02-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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