メディアグランプリ

おしゃれ部屋を目指していた私の初めての推し活


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記事:友成彩千帆(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
家におもちゃがどんどん増えていく。赤ちゃんが喜ぶような、色鮮やかな原色のおもちゃたちが家のいたる所に置かれている。リビングは特に深刻なおもちゃ飽和状態だ。お気に入りのローテーブルは物置部屋に追いやられた。手押し車、メリー、ルーピング、ジャンパルー、型はめパズル、ボールプール、たいこ、積み木、絵本。一年前は全く知らない名前や見たこともない見た目のおもちゃたちばかりだ。赤ちゃんのおもちゃは本当に色んな種類があって、脳を刺激したり運動を促したり成長に不可欠だ。遊ぶことが仕事と言われるだけあって、赤ちゃんは新しいおもちゃを見つけるのがとても上手い。既製品だけでなく、紙コップやリモコンやハンカチなどもおもちゃになる。使い終わったケチャップの容器だっておもちゃの棚に並んでいる。少し目を離すとどこからか新しいおもちゃを探してきて、かじったりなめたりしている。赤ちゃん本人は家の中にある全てのものがおもちゃだと思っていて、親である私も赤ちゃんが喜ぶならできるだけおもちゃを増やそうと思っている。赤ちゃん用品の専門店や、電気屋さんなどおもちゃの売っている場所に行ったら必ず良さそうなものはないか見てしまう。おもちゃの売っていないお店でも知育に良いグッズや遊んでもらえそうなものはないかいつも探している。家の中にこんなに色が溢れているなんて、出産前では考えられないことだ。
 
お腹が大きくなってきた頃出産準備をしていた私は、リビングに新しく棚を設置した。赤ちゃんの服をしまったり、おむつを置いておくための棚だ。我が家のリビングは白をベースに茶色と黒でまとめたインテリアだ。色数を少なくしたほうが落ち着いてお洒落に見えると教えてもらってから、なるべく色は使わないようにしていた。結構こだわりを持って家具を選んで、収納もしっかり整えていたから部屋はいつも綺麗な状態を維持していたと思う。観葉植物も育てていて、リビングは特にお気に入りの部屋だった。赤ちゃん用の新しい棚も他の家具と同じようにウォールナット材で揃えて、これで出産後もお洒落な部屋をキープするぞ! と意気込んでいた。その頃の私は赤ちゃんのおもちゃもシックな色で揃えたいと思って、そういう色合いのものを調べていた。今はそんな親の気持ちをくんだものも結構売られていて、可愛いくすみカラーのおもちゃはすごくお洒落だった。素敵な子供部屋の参考になりそうな写真を探して見ては、絶対色は増やさない決意を固めていた。
 
ところがだ。いざ赤ちゃんが産まれてみると、赤や黄色や青などの原色のおもちゃの方が反応が良い。もう全然食いつきが違う。赤ちゃんがノリノリで遊ぶおもちゃは大抵どぎつい色をしている。最初に買った赤色のがらがらは家の中ですごく目立っていた。どこに落ちていてもすぐ見つけられた。それがあれば泣き止むし楽しそうに遊んでくれるから一個くらい仕方ないか、と思っていたらあっという間に家の方がおもちゃの色に馴染んでいった。今じゃおもちゃはあっちこっちに落ちているし、見つけるのも大変だ。片付けの手が間に合っていないから、家が綺麗なのは赤ちゃんが寝る前と起きる前くらいだ。徐々に寝る前の片付けも手が回らず、週末の夜一瞬だけ綺麗な時間があればいいかなと思い始めている。大事にしていた観葉植物は床に置けないから、階段や食器棚の上に狭そうに置かれている。
 
産む前と今では価値観がまるっきり変わってしまった。今のカラフルで散らかった家が嫌いかと聞かれたら、むしろ今の方が好きだと答えると思う。夫にも同一人物と思えないとよく言われる。あんなにおもちゃは買わないって言ってたのにね、と笑われた。もはやこれは推し活なのではないかと思い始めている。今まで推しに出会ったことがない私は推しを崇めた経験がないけれど、子どもに対してのこの感情はきっとそれに近いのではないだろうか。いつも推しのことを考えて、推しの幸せが自分の幸せで、推しの笑顔を見ればなんでも頑張れる。何よりも最優先にしてしまう。初めて出会った推しは最強だった。今まで推し活をしている友達をうらやましく思うことが多々あった。誰かに夢中になってその人を応援してすごく生き生きしていたから、きっとすごく楽しいんだろうなと思っていた。思いがけず始まった推し活は想像以上の楽しさだった。結果家は推し一色に染まったけれど、それがすごく幸せだ。推しがいる人はこんな幸せを得ていたなんて、知らなかった自分がもったいない。とにかく今は家がめちゃくちゃだけど、いつか家を占拠しているこのおもちゃたちが必要なくなる日が来る。そうなった時に寂しさよりも思い出が勝つくらい、存分に推させてもらおうと思っている。
 
 
 
 
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2023-03-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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