メディアグランプリ

エノキ育て


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記事:圓島徹(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
先日からエノキを育てている。きっかけは、テラリウムのECサイトを閲覧していた時に、栽培キットを発見したことだった。テラリウムとは、ガラス容器の中で植物などを育てることをいう。コケのテラリウムの一覧を観ていると、中にエノキのテラリウム栽培キットが混ざっていた。エノキを育てる、そんな初めての体験を想像すると胸が高鳴って思わずカートに追加してしまっていた。
 
1週間後にエノキ栽培キットが届いた。ダンボールを開封すると、ガラス容器、黒い板とコケ、黒い粒が大きめの砂が入っていた。ふむふむ、この全くエノキが生えそうな気配が無い板からエノキが生えてくるのかと、感慨深いものがあった。
 
私はさっそくキットを組み立てることにした。まず、容器に黒い砂を敷き詰めた。次に、黒い板を砂の上に置いた。この黒い板が菌床と呼ばれるものらしく、ここからエノキが生えてくるそうだ。黒い板の周りにコケをちぎって配置していった。完成予想としては、このコケであふれたテラリウムの中からエノキが生えてくるということらしかった。
 
育て方は、朝に霧吹きスプレーで水をかけるだけだ。100均で購入したスプレーに水を入れて、毎日霧を吹きかけた。説明書にはエノキが生えるまでは1~2週間くらいが目安だと記載されていた。しかし、2週間経っても全くエノキが生える気配は無かった。説明書には但し書きとして、「エノキが生えてこない場合もある」と書いてあった。
 
私は疑心暗鬼だった。説明書の「エノキが生えてこない場合もある」という言葉に思考が引っ張られていた。説明書には「十分な光量を与えてください」とも記載されている。そもそも、光量が足りているか自信が無かった。十分な光量って何? 私は部屋の窓際でエノキを育てている。人によっては、専用のライトを設置して栽培されている方もいるそうだとネットで調べて知った。私はこのままエノキが生えてこないだろうと半ばあきらめた気持ちでいた。
 
そんなある朝、私は日課の水やりを行おうとエノキ栽培容器の中を覗いた。すると、そこには1本の小ぶりなエノキが生えていた。なんという成長速度。はっきりと分かる大きさのエノキがニョキッと生えていたのだ。昨日全く気配出してなかったよね、とエノキに問い詰めたくなったが、その可愛らしさの前には何も言葉が出てこなかった。1本だけ生えたそのエノキを1号と名付けた。
 
その日の晩、帰宅して栽培容器を覗くとエノキ1号の周りに大小さまざまなエノキが5本くらい生えていた。大きいものから順に2号、3号……と呼ぶことにした。中でも5号や6号は、生まれたての赤ちゃんキノコで、愛くるしさを振りまいていた。やはりどんな生き物も赤ちゃんは可愛らしいと改めて認識した。観賞用のエノキなため、収穫はしなかった。
 
それからとういもの、エノキはどんどん生えてきて、最終的に大小合わせて15本程度生えた。どうやら光量は十分だったらしい。エノキのテラリウムを観ていると、生命力を感じた。霧吹きを受けて、水に濡れたエノキは光沢があり輝いて見えた。水も滴る良いエノキだった。
 
そこからさらに2週間ほど経った。エノキは枯れ始めた。2週間程度で枯れると説明書に書いてあった。ああ、なんという諸行無常か。エノキ1号もどんどんしぼんできている。それでも、エノキ1号は力強かった。最初に生えてきて、今は最後の数本になっているのだ。2号や3号たちはとっくにしぼんでしまって、姿が見えなくなっている。しぼんだエノキ1号は、霧吹きを受けても身が固まったままで、小さな枝のような見た目になっていた。つい先日まで赤ちゃんだったのに、もうしぼんで枯れてしまいそうになっているのだ。しかし、それでも1号たちはまだ消えずに残っているのだ。エノキたちは、たくましかった。
 
私はエノキ栽培を振り返っていた。そして、エノキから小さな感動と癒しを与えてもらったことに気づいた。エノキは私に充実した素敵な時間をくれた。日々の忙しない生活の中でひと時でもエノキを観ることで、私はガラス容器の中の小さな世界に魅了され、癒されていた。赤ちゃんエノキは感動を、成長したエノキは美しさを、老いたエノキはたくましさを見せてくれた。エノキを育てて良かった。
 
私は今も毎日エノキのテラリウムに霧吹きをしている。そしてまたいつの日か、新たなエノキに出会えることを楽しみにしている。説明書の末尾には「エノキは上手に育てると、年に2~3回生えます」と書いてあるから。
 
 
 
 
***
 
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2023-03-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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