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初体験を想い起こして <<心の処方箋>>


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:あき(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
見慣れた空間がまるで異質の世界のようだった。
ここは一体どこなんだろ?
 
カラン、カラン、カラン。
いつものようにドアを開けると普段より薄暗い店内に、あれっという違和感を感じた。
 
その正体は普段テーブル席が並ぶ、入ってすぐ左手の床に「こたつ」が置いてあったからだ。
そこに1人の男性が心ここに在らずといった表情で、時折指を動かす仕草をしながら、我が家のように居座っていた。
 
店内に続々と入ってくる人の姿が彼には見えているのだろうか?
受付を済ませながら、その姿が気になりチラチラ横目でつい覗いてしまう。
 
「お兄さん、こんなところで何してるんですか?」
きっと呼びかけても、その言葉は彼の耳には届かないだろう。
目の前の「こたつ」は次元と空間を飛び越え、突如現れたかのように異彩を放っていた。
 
ポロン、ポーン、ポロン……。
どこからか聞こえるカリンバの優しい音色が店内を包み込む。
まるで自然な出来事のように現実と不思議な世界の境界線が少しずつ消えていく。
音色は意識に直接訴えかけるように広がっていき、何だか温かい余韻を残していった。
 
子供のころ初めてポケモンのゲームソフトを買った帰り道のようだ。
これから始まる新しい冒険の高揚感とワクワクが止まらず、開演が近づくにつれ、心躍る期待が胸いっぱいに広がり続けた。
 
2022年11月6日。
福岡天狼院書店はいつもと違う顔を見せていた。
いや、もしかするとこれが本来の姿だったのでは? と今では思えてきた。
本のその先の「体験」、ある種それは情報の発信と受信がさまざまな形へ変えたもの。
 
人生初めての生演劇を、まさか書店で観ることになるとは夢にも思わなかった。
福岡天狼院書店ではこの日『極楽こたつ』という演目が行われ、それが劇団天狼院『いぶき』の旗揚げ公演となったのだ。
 
言葉って不思議なものだ。
いぶき。新しい命が芽吹く瞬間をそっと後押ししてくれるようであり、この先の未来を明るく照らしてくれる前触れのようなものにも感じられた。
 
人は何かを求めて書店に足を運ぶんだと思う。
知識を得るため、娯楽のため、そしてときに背中を押してくれる何かに出会うために。
 
読書も演劇も受け取り方は人によって様々だ。
何を感じるのか、その人の立場や経験、気分、状況によって当然変わる。
もちろん、それでいい。決まった形など初めから存在しないのだから。
 
私にとってこの演劇は、きっとこれからも記憶の片隅に残るものだろう。
この先いつか立ち止まった時、ふと思い出せるよう温かい感情がしおりと変わり、脳裏の隙間にそっと挟まれた。心のタイムトラベルで舞い戻る「こたつ」の世界では、自分の人生をどう生きるのか、ずっとこれからも問い続けてくれるだろうから。
 
不思議な異世界へ手招きするように、ゆったりと物語冒頭のナレーションが始まり、ついに開演を迎えた。初体験はいつだって心が躍るもの。期待と不安を織り混ぜながらも。
そして、私は『極楽こたつ』に夢中になった。
 
この日店内には二つの空間が確かに混在していた。
「繰り返す日常」と「現世と極楽浄土の狭間」
 
30分の短い公演で感情が何度も波打った。
性格が正反対な兄妹二人のシンプルな構成でありつつ、俳優さんの鬼気迫るような迫力が観客をその世界にグッと引き込み、ときに繰り広げられるコミカルな演技、不思議な演出によって、冒頭からクライマックスまであっという間で目を奪われ続けた。
 
そして「こたつ」の存在。
予想を裏切る演出もありながら、誰しも馴染みがある温かさの象徴といえる舞台で繰り広げられる兄妹のテンポの良い会話と内に秘めた葛藤、そして大きな、大きな愛情と決心。
 
「すごい、演劇ってこんなに面白いんだ……」
 
息を忘れ、舞台を凝視し続けた。
胸がときめく。心が奪われる。
 
「なんで、今度は映画なの?」
「楽しそうだから」
 
仕事を辞め、映画監督になると豪語した兄への疑問に対するたった一言。
しーん。一瞬、会場の空気が、時が止まったかのように感じた。
 
あぁ、そうだよな。楽しそうだから……。
それだけでいいんだよ。子どもの頃は何かを始める時いつもそうだった。
ずっと遠い昔に置いてきた純粋な好奇心と行動力。
 
失敗することを怖がった。周りから見られる自分を過剰に意識して空回りした。
夢や目標に向かって頑張る人を、言葉に出して行動する人を、新しいことにチャレンジする人を、ずっと「見ている側」だった。
 
そんな人が「かっこいい」と心の中で分かってた。憧れていた。
いつからだろう。自分に「できないもの」だと気持ちに蓋をするのが呼吸のようになったのは。
 
なりたい自分になれるのは、なろうとしたものだけ。
そうだ。僕自身もいつだってそうだったじゃないか。
 
5年前のあの夏、初めて真剣に転職を考えた時期を思い起こした。
日常に意味を見出せなかった当時の自分にとって、精一杯の大きな背伸び。
 
書類選考、一次選考、二次選考、最終面接。
それぞれのプロセスで「あ〜落ちたな」と毎回すごく不安だった。
それでも、あのとき僕は行動したから。
自ら手を伸ばし、がむしゃらに、無我夢中で掴もうとしたから。
だからこそ、生活が大きく変わった。なりたい自分に少しだけ近づけた。
 
もし、心から楽しい時間を増やしたいなら。
もし、人生を変えたいと願うのなら。
それが仕事であっても、趣味であっても。
小さな一歩でいい、まずは行動してみよう。
あなたの、たった一度の短い人生なんだから。
 
私にとって初めて体験した演劇は感情を大きく、根っこから揺さぶるものだった。
やっぱり「変わる」ことを恐れてたんだな。
自分の性格も、行動も。
今の仕事も、生活も。
 
舞台の余韻が残るほど、それは心が欲していた証。
自分の人生、大切にしてる?
素直な気持ちに蓋をしたまま、自分を好きになれるの?
自分自身に魅力を感じずに、今後の人生で他の人から好かれるかな?
 
無性にまた『極楽こたつ』を観たくなり、思わずオンライン配信チケットを購入し、再び演劇の世界に浸ってみた。たくさんの不安で押しつぶされそうな時期にこの演劇から勇気と決断をもらったから。
 
実は、この演劇『極楽こたつ』は小説家を目指している天狼院スタッフさんが未経験で初めて脚本にチャレンジされた作品だった。本当に初めてなのかとビックリするほどのものだった。
チケット購入サイトにある「旗揚げ公演ブログ」に書かれたご自身の経験や想いからも、普段の姿と同じように真っ直ぐで大きな熱量を、自ら行動する強い意志を感じ取れた。
 
私は演劇や文学に精通してるわけではないので的確な感想なんかとても言えない。
それでも、たった一言だけでも。
この演劇『極楽こたつ』は魅力が詰まったとても良いコンテンツでした。
大切にしたい想いを内側から呼び起こしてくれた、シンプルだからこそ訴えかけるテーマ。
素敵な作品をありがとう。心から感謝しています。
 
 
「さーて、今日は何しよっかな?」
 
カラン、カラン、カラン。
いつものようにドアを開けると、いつもと同じような明るい笑顔が聞こえた。
 
「いらっしゃいませ!」
 
また今日もふらっと天狼院書店に寄ってみた。
ここに来ると「なりたい自分」になろうと、自分も行動したくなる何かを感じるから。
まるで、この場所では変わり続けることが息吹であるかのように。
 
心の蓋を開けると、やりたいことは詰まっていた。
 
 
 
 
***
 
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2023-03-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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