メディアグランプリ

半径5Mの世界を優しくする想像力のすゝめ


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:沖 明香(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
朝、通勤の電車に乗っているとまあまあの確率で遭遇するのが、扉付近から動こうとしないオジサンと、人波に乗じてぶつかってくるぶつかりオジサンである。いや、必ずしもオジサンだけではないし、風評被害になっては申し訳ないのだが、わたしが見かけるのはオジサン率が高い。普段、いい気分で楽しく過ごしているわたしだが、もっともイライラするときはいつかと問われれば、電車でこのオジサンたちに遭遇した時といっても過言ではない。
 
先日もこんなことがあった。
 
その日の朝の電車は比較的混んでいて、わたしの目の前には40代くらいの女性、その斜め横には推定50歳前後の会社員風のオジサンが座っていた。わたしの後ろにも人が立っていたので、まるでサンドイッチの具のように人に挟まれつつ通路が塞がった状態だ。東京都内の電車ではよくある風景である。
 
あ~今日も誰も途中の駅では立たなかったなと思いつつ、コトはわたしが降りる一駅前に起きた。その駅に到着した時、斜め前に座っていたオジサンが立ち上がり降りようとした。それはいいのだが、出口に向かうためにわたしに鞄をぐいぐい押し付けて通ろうとしてきたのだ。
 
この場合、オジサンの一番スマートな降り方としては、出口に向かって降りる人たちの流れを見つつ、わたしの後ろ側を通って降りていくのが一番平和的である。しかし、そのオジサンはリレー競争でいうなれば、外周に人が多くて早く進めないから、内周に入り込み人を倒しながらゴールしよう、そんな感じだったのだ。
 
ちょ、待てよ! キムタクならそう言うだろう。わたしの心の中のキムタクもそう言っていた。ぐいぐい押して出ようとするオジサンに驚いたものの、ここで負けてなるものか、と内周に入り込もうとするオジサンを外周へ戻すべくその場から動かなかったが。
 
日本の朝の満員電車には、暗黙のルールがある。法律で決められたルールではないが、本来調和と思いやりを大事にする日本人らしい暗黙のルールだ。
 
・整列して前の人から電車に乗ること。
・発車間際の電車に乗ろうとしないこと
・大きな荷物は体の前に持って、知らず内に人の邪魔になったりぶつけたりしないようにすること。
・出口に近い人から降りていき、できるだけ乗り降りする流れに逆らわないこと。
 
誰に教えられたわけではないが、みんなその暗黙のルールを守っている。なぜならそれを守らなければ、大小さまざまな弊害を引き起こすからだ。押し合いへし合いで、小競り合いが起き、扉にものが挟まり、たまに体調を崩す人が出て、電車は遅延する。都内、朝の満員電車に限っては暗黙ルールを破っていいことなんて何ひとつない。
 
いうなれば電車に乗っている人たちの流れは、大自然の川の流れのようなものなのだ。流れに逆らわず、流れを読んで乗っていけば大きな抵抗もなく目的地にたどり着ける。たとえ自分の降りる駅でなくとも、自分が扉の前にいれば、いったんホームに降りて降りくる人たちの流れを見送る。そしてまた乗ればいいだけ。
 
……なのだけど、たまにそこで杭になって流れをせき止める人や、川の流れに逆流する産卵前の鮭みたいな人が出てくるのである。そうして本人ならまだしも、なぜか本人ではなく周りが害を被ることがほとんどだ。
 
わたしには本当に不思議だった。周りの迷惑そうな空気を感じないのだろうか。申し訳ない気持ちにならないのだろうか。自分がされたら嫌な気持にならないのだろうか。ずっとその生態について理解ができなかったのだが、最近ある仮説にたどり着いた。
 
それは、もしかしたら彼らは、自分の行動によって周りの人がどんな気持ちになるのかをあまり想像できない、客観視できない人種なのではないだろうかと。
 
この仮説は、わたしにとっては大きなパラダイムシフトであった。
 
というのも、わたし自身は想像したくなくとも勝手に他人の気持ちを想像してしまい、自分と関係ないことであっても申し訳ない気持ちになるタイプである。そのため他者の気持ちを想像ができない人が、そもそもいるはずがないと思っていた。想像できないのではなくて、できるのに自分勝手でわざとしない嫌な人たちなのだなと思っていたのだ。
 
しかし遅ればせながら、彼らの生態を観察していて、世の中にはもしかしたら悪意なく相手の気持ちが、そもそも想像できない人も存在するのではと思うようになった。
 
不思議なもので、他者も自分と同じ感覚を持っているという前提があると、それから外れる人を信じられない、許せないと思う。しかし、動物にも草食動物と肉食動物がいるように、人間にも他人の気持ちを想像できる人と想像できない人というのが存在するかもしれないのだ。そう考えると、草食動物に肉は食べられないし、肉食動物は植物を食べられないように、人の気持ちを考えなさいと言われてもそもそも考えられない人もいるのかもしれない。
 
もちろんこれは極端な例えではある。しかし努力云々ではなく、そもそもの性質の違いによって行われていることであれば、自分とは違う価値観や性質をもつ他者への許容が生まれる。逆にいうと、彼らにしてみれば、わたしのように自分のことでもないのに、反射的に他者の感情を想像してしまうことの方が、意味が分からないのかもしれない。お互い様なのだ。
 
この想像が正しいかは分からないけれど、たまに遭遇するぶつかりオジサンは、自分とは全く違う性質をもつ人だから同じ倫理観を求めても仕方ないのだと、わりきれるようになった。
 
世の中には理解ができないことがいろいろある。しかし、最初から理解できない! 許せない! とはじいてしまうのではなく、ほんの少しでいいから想像力を働かせてみると、理解できることや、理解はできずとも許容できることはあるように思う。
 
そうできると楽になるのは、まず自分自身である。そして世界や相手を無理に変えようとすることもなく、自分は半径5Ⅿの世界に対してはほんの少し優しくなれる。そういう人が増えていけば、自然と世界全体が少しずつ優しくなっていくのかもしれない。
 
想像力は他者への理解と許容、さらには世界平和への小さな第一歩なのだ。だからちょっとしたことでも、人と関わるときは想像力を働かすことをおススメしたい。
 
 
 
 
***
 
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2023-03-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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