メディアグランプリ

あの味を追い求めて <<心の処方箋>>


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:あき(スピード・ライティング特講)
 
 
ドキドキ、ドキドキ……。
カウンター席に座りながら、横目で店員さんの気配が近づくにつれ鼓動が次第と大きくなった。
 
「大丈夫かな? 食べられるかな?」
 
食べ物を口に入れる行為にこれほど緊張したことが人生であるだろうか?
決して腐ったリンゴは運ばれてこない。体に悪くもない。
アマゾン奥地の目玉が飛び出たビックリ料理などここでは出ない。
 
それは、ずっと、ずっと私の記憶が求めていた大好きな料理だった。
待ち焦がれたように食べに来た今日、この日。
大丈夫。大丈夫。
ふうーっと、一呼吸おいて自分に言い聞かせるようにお店のドアを開けた。
 
福岡市に私が引っ越してから、一番多く通ったと言っても過言ではない大好きなお店。
スリランカカレーの名店『東方遊酒菜 ヌワラエリヤ』。
店名を調べるとスリランカの地名の一つだったり、紅茶の名前だったりするそうだ。
地元で30年以上続いているスリランカ料理の老舗『ツナパパ』系列店の一つである。
豊かなスパイスの香りとエスニック音楽が広がる店内に入ると不思議と気分が高揚する場所だ。
 
最後にココに食べにきたのはいつだっけ?
そうだ、去年の夏のことだ。
 
あの時期の私は周りに人がいる場所でなぜが急に食事ができなくなることが何度もあった。
お腹は間違いなく空いてるはずなのに、食べ物が喉を全く通らない。
その時どういうわけか過剰に人の視線が気になりだし、心拍数と不安が爆上がりし続ける。
気持ち悪くなって吐きそうになる自分を意識して、喉は入ってくるものをさらに拒絶していくようだった。
 
まるでスポーツ選手のイップスのように、普段何でもないことが特定の条件で急に発動する。
体調は問題ない。それでもお店で席に着くと、私の体は意識から勝手に離れ、想いと違う行動を取り出すのだ。
 
「どうしよう、全然食べてないのに……」
心の中での葛藤が始まる。
 
「気持ち悪いけど、無理したら食べられるかな?」
いや、万が一ここで吐いたら、それこそ大迷惑。
 
でも、大盛り頼んどいてこんな残すなんてありえないよな……。
そうだ。いっぱい食べますよ! の代名詞「大盛り」を私は注文しているのだ。
 
食べるのが大好きで、20代中頃まで吉野家だと牛丼特盛2杯をいつも注文するくらい食欲だけは旺盛だった。同僚から「痩せの大食い」と呼ばれながら、流石に歳を重ねるごとに健康を考え、食べる量を減らすようにはしていたけども……。
 
そんな私にとって料理を残して席を立つ行為はお金を払わず店を出るようなもの。
どんな料理でも残さず食べることが当たり前の私にとって、朝起きたら火星に降り立っていたかのような大事件が起きたのだ。
 
不安は坂道を降りていくように加速して、さらに大きな形へ進化していった。
10分、15分カレーと睨めっこしては、少し周りの様子も伺う。
満席の店内は賑わいを残しながらも流れるように席が少しづつ回転していった。
 
「きっと、今日は少しだけ調子悪かったんだよ」
結局ほとんど食べられなかった。お店を出ると食欲が少しずつ戻る自分に違和感を感じながら、次は大丈夫、また来ようと自分の心を抱きしめた。
 
しかし、しばらく時間をあけて来店するも、やはりご飯を全く食べられない状態が続くこと3回目。最後も一口、二口しか食べられず、せっかく作って頂いた美味しい料理を全部残して帰ってしまった。
 
それ以来このお店に足を運ぶことはなくなった。
いや、できなくなったのだ。
そりゃ、何度も残して帰るくせにノコノコやってくるほど神経図太くはない。
 
大好きな場所でご飯を残す罪悪感が私を大きく包み込みながら、戸惑いが行ったり来たりする。
家では食べられるから病気ではないはず。
どうして食べられないのか自分でもわからない。
すごく、すごくお店の人にも申し訳なかった。
 
そんな記憶の傷はいつまで経っても残っていた。
それ以来、半年ぶりの来店。
 
どうしてまた同じお店を選んだのか?
新しい体験を求めて今年やりたいことを書き出していた時のことだった。
繰り返す日常に変化を与えるため、初めての場所や経験をしようとアイデアをたくさん出した。
今年は行ったことないお店ばかり回ってみるのも面白いかもな……。
 
その中で大事な場所もやっぱり大切にしたくなる感情を捨てきれない自分に気づく。
ふと、このお店の味が懐かしくなった。
もう一度、食べてみたい……。
 
この日いつもと同じようにテーブルに運ばれたお皿には黄色いサフランライスに色鮮やかなスパイスがまぜ合わさったスープの絶景が広がっていた。呼吸と共にスパイスの芳醇な香りが体に染み渡っていく。
 
「うわぁ、美味しそう……」
 
料理が運ばれ、感じた素直な気持ち。
自然と目がキラキラしてくる。
食べられるかどうかの不安より、真っ先に視覚と嗅覚が私の食欲を大きく押し上げた。
 
スプーンで優しくすくって、一口食べてみる。
 
「んー、美味しい!!」
 
二口目。
何種類ものスパイスの香りともに隠し味の魚介の出汁が口いっぱいに広がる。
刺激的な辛さの味がなんだかむしろホッとする。
 
そうなってくると食欲はもう止まらない。
この日いつもの習慣のように大盛りをつい頼んでしまった私だったが、ぺろっと食べ切れた。
 
「ご馳走様でした。美味しかったです!」
 
普段だとお会計で店員さんのお礼に対して、会釈を軽くするだけの冷たくそっけない私。
それが自然と「美味しかった」ことを伝えたくて出た言葉。
 
美味しいものを食べると元気になる。
だけど元気がないと美味しいものも食べられない。
 
好きなご飯を食べられるって幸せなことだった。
心で感じた想いを言葉で相手に伝えることも大切なことだったんだ。
 
一度好きになるとそればっかり大事にしてしまう自分がつまらない人間だなと最近思っていた。
新しい刺激をどんどん取り入れようと模索した。
それでもたまに戻ってきたくなるホッとする場所があるのもやっぱりいいな。
 
この味と、この日の感覚はこれからも大切にしたい。
そして、心の中の想いはきちんと言葉にして伝えてみよう。
 
 
 
 
***
 
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2023-03-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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