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盆栽とは、着せ替え人形である


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:岩田 真治(スピード・ライティング)
 
 
「奥さん、ご主人が盆栽に興味を持つと、夜遊びしなくなりますよ!」と言ったのは、盆栽園の職人さんだった。5年前の夏、まだ、群馬県で単身赴任を送っていた頃だった。この時、私は自分が盆栽を育てる側に回るとは、思ってもいなかった。
 
その年末には、妻と私は都内の盆栽教室に入会していた。盆栽を見て、妻は「カワイイ!」と思い、私は「夜遊びの疑いが晴れるなら!」と思っての入会だった。
 
「盆栽」と聞いて、どのようなイメージを持つだろうか。サザエさんの登場人物、波平さんがお庭で、枝や葉をチョキチョキ切っているシーンしか、思いつかないであろう。私も同じであった。
 
初回の講座で、そのイメージは覆された。枝や葉を切るのは、1年に2回が限度であった。切るという行為が、盆栽自体を痛めてしまい、すぐに枯れてしまうからだ。波平さんみたいなペースで切っていると、盆栽がいくつあっても足りなくなる。最も大切な仕事は、毎日欠かさず水をやることであった。
 
「盆栽って退屈そうだな……」というのが、私の正直な感想であった。盆栽の楽しみが、どこにあるか分からないまま、初めての盆栽作りがスタートした。
 
手順は次の通りだった。
1.柔らかなビニール製の鉢に入っている盆栽を根っこから取り出す
2.全員同じの陶器の鉢に土を敷き詰めて植え替える
3.余計な枝や葉を切って見栄えを整える
4.枝に針金を巻き付け、更に見栄えがするよう枝を曲げる。
5.土に苔を貼って完成させる
 
小学生の頃、夏休みの宿題の中で、工作が最も得意だった妻は楽しそうだった。一方、苦手だった私には苦痛だった。どの枝や葉を切ればいいのか分からない。針金が上手く巻けず、思った方向に枝が曲がらない。キョロキョロ周りの人を見ながら進めるため、人より作業が遅くなる。
 
夏休みの工作は、親や兄が助けてくれた。しかし、大人になってからの盆栽は誰も助けてくれなかった。見かねた講師が、ほとんどの作り上げてくれた。先生の手により、私の最初の盆栽は完成した。他の生徒より出来栄えは良かったが、私の心は晴れなかった。
 
「いつ、辞めようかな」という気持ちと「夜遊び好きの夫と思われたくない」という気持ちが、入り乱れながら、いつの間にか入会して1年が経過していた。一方、盆栽作りが好きで得意だった妻は、既に教室を辞めていた。
 
「昨年皆さんが作った作品を、植え替えしてみましょう」というのが、2年目に入って最初のテーマだった。植え替えとは、今まで使っていた皆と同じ鉢から、自分の好きな鉢へ植え替える。誰が育てても枯れにくい入門者用の鉢から、自分の美的センスを発揮する中級者用の鉢に変えることが、講義の目的であった。
 
「せっかくなので、誰も選ばないような鉢を選ぼう」と私は思い、教室の中にある鉢をすべて見て回った。そして、長方形で赤みの強い茶色の鉢を選んで、植え替えた。盆栽より鉢の方が目立っている。まるでレンガから木が生えているようだった。周りの人は、盆栽を目立たせるために、地味な鉢しか選んでいない。
 
「岩田さんの選んだ鉢は、クリスマスやお正月にピッタリの雰囲気ですね。今までとは違う木が植えられているみたいです」と講師が、私の盆栽をお手本として紹介してくれた。1年間通って初めてのことだった。しかも、褒められたのは、私が手入れした盆栽ではなく、私が選んだ鉢であった。当然、私は鉢の作成に携わっていない。
 
しかし、レンガ色の鉢のおかげで、私は盆栽を作ることではなく、盆栽を入れる鉢に興味を持った。「いつ、辞めようか」という気持ちはすっかり無くなり、盆栽教室へ通い始め5回目の春が訪れた。
 
何故、私がこれほどまで、鉢を選ぶことが楽しいのかを考えてみた。よくよく考えると、鉢を選ぶことは、着せ替え人形で遊ぶことに似ていたのだ。
 
男兄弟の次男坊として育った私は、お人形遊びをしたことが無かった。でも、近所の女の子が遊んでいる姿を目にしたことはあった。着せ替え人形で遊んでいるのが、羨ましかった。でも、仲間に入れてもらう勇気はなかった。もちろん、親に「着せ替え人形を買ってくれ」とねだることもなかった。男の子遊びと、女の子の遊びが、ハッキリ分かれていた時代であった。
 
子供の時に本当にやりたかった遊び。でも、できなかった遊びが、大人になって盆栽という遊びで実現した。洋服を変えると別の人形になってしまう。という遊びの代わりに、鉢を変えると別の盆栽になってしまう。という遊びを楽しんでいるのであった。
 
「着せ替え人形で遊ぶくらいなら、夜遊びしてよ!」と妻には怒られるかもしれないが、1年に1回の鉢の着せ替えの為に、まだまだ盆栽教室へ通い続けるつもりである。
 
 
 
 
***
 
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2023-03-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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