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屋久島、ローカル温泉体験記


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記事:まつもとみう(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
ついに、私たちは最高の温泉を見つけた。
祖父の運転する冷房の効かない古い車で、窓を全開にしながら島の風を浴びる。
スパイスカレーを「辛い辛い!」と食べたのに、食べ終わったらもうまた食べたくなっているあの感じ。魅惑の体験。
やみつきになる。あぁ、あのお湯に浸かりたい!
 
私の祖父母は屋久島に住んでいて、幼い頃から夏になると、毎年屋久島を訪れる。
小学校1年の頃からなので、通い始めて17年。
17年間、毎年屋久島に行くにあたって、変化していったことがある。
それは、毎日行く「温泉」選びだ。
屋久島の大自然の中には、様々な温泉がある。
私の成長を追って振り返ってみるとしよう。
 
当初、私が小学校低学年くらいの時に通っていたのは、「平内海中温泉」だ。
海中温泉という名前の通り、この温泉、普段は海の中に沈んでいる。
海が干潮になると、岩でできた風呂の中に温泉がたまり、浸かれるようになるのだ。
見渡す限り岩と海の屋久島の海岸で、自然の恩恵に預かって浸かるお風呂は、最高の開放感。
子供だった私は、海水と混ざってぬるくなったところに浸かりながら、海藻が生えていたりカニがゆだっているのを見て、妹と一緒に遊んでいた。
 
ただ、ここは大自然、海の中。
脱衣所も存在しなければ、男女混浴である。
岩の陰に隠れながら着替え、女性は湯浴み着という、バスタオルで作ったワンピースのようなものを着て入浴する。
しかし、今はどうかわからないが、地元のおっちゃんたちはフェイスタオル一枚なので、大して隠れていない。というか、見えている。
私も妹も、成長するにつれ、気恥ずかしさも出てきた。
こうして、私の海中温泉通いは終わりを告げた……。
 
次に通っていたのが、「湯泊温泉」だ。
ここも海の目の前の温泉なのだが、海には沈まないのでいつでも入れる。
波が岩を打つ音を聴きながら、大空の下で入る温泉はやっぱり最高だ。
この温泉は、ガードレールくらいの幅の竹でできた柵で、男女の空間が分けられている。
一応男女別れているので、湯浴み着などは着ないで入るのだが、正直ここも丸見えだ。
竹の柵は隙間が透けているし、柵の下は空いているので、幼い頃は潜って男女風呂を行き来したりしていた。楽しかった。良い子は真似しないでください。
そしてやはり、成長とともに気恥ずかしくなり、足が遠のいていった……。
 
その後の約10年間は、大自然の温泉ではなく、JRホテルの温泉に通っていた。
脱衣所にも、浴場にも、天井と壁と床がある。建物の中の温泉だ。
海からは遠くなったが、丘の上にあるホテルの露天風呂からみる海の水平線は美しく、祖母や母と語り合う良い時間を過ごした。
 
コロナになってからはホテルの温泉にも行かず、自宅の風呂を使うことになったが、コロナも少し落ち着いていた昨年の夏、最高の温泉体験をした。
 
それが、「尾之間温泉」。
登山道の入り口にあり、昔、猟師に鉄砲で撃たれた大鹿が、傷を癒したという逸話が残っている。大きな木の柱に支えられた木造の建物で、瓦屋根の上にのっている渋い木の看板がその歴史を感じさせる。
建物の内外では地元の猫たちがくつろいでいて、頬が緩んだ。
 
この尾之間温泉、今までも祖父が一人で通っていたので、存在は知っていたが、通うことはなかった。
なぜなら、お湯がありえないほどに熱いからだ!源泉の温度は49度!
私が普段家で浸かるお風呂の温度は41度だ。
タレントの出川哲朗さんは、バラエティの熱湯風呂の温度を、インタビューで46度と答えたらしい。
尾之間温泉のお湯は、バラエティの罰ゲーム以上の熱さである。
このような類まれなる熱さのため、初めて来る人はだいたいお湯に入れない。
少し足をつけては恐れおののき、桶の中で水と混ぜて掛け湯をすることしかできないのだ。
 
しかし、これがハマると最高に気持ちがいい。
「熱っ」と言いながら浴槽に足を入れ、徐々に体も浸かっていく。
肩まで入ると、「あぁ〜」と思わず声が漏れ出る。疲れが一気に流れ出ていくようだ。
1分も入っているとのぼせて来るので、浴槽から出て水を浴びる。
ザバーン、と頭から一気に冷たい水をかける、この瞬間が本当に至福だ。
またその至福を味わうために、熱いお湯に浸かる。この無限ループ。
 
「そろそろ帰るよ」と祖母に止められたところでタイムオーバー。
着替えて外に出て、猫を触りながら父と祖父を待つ。
家への帰り道、車の窓をあけ島の中心にあるモッチョム岳を見ながら、風を浴びる。
縄文杉や滝が有名な屋久島だが、訪れた際はぜひ、このようなローカル温泉たちを楽しんで欲しい。
 
 
 
 
***
 
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2023-03-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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