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見えないアソコで私の白髪が主張する


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:田盛稚佳子(ライティング実践教室)
 
 
あなたが「なんだか年を取ったなぁ」と感じるのは、どんなときだろうか。
衣食住のどれに関しても、日々生活を送る中で、誰しもが何らか「その気配」を感じたことがあるのではないだろうか。あの頃とは違う、と。
 
若い頃、私は服装に限らずかなりイキッていたと思う。
学生時代は髪をオレンジ系に染めてみたり、グルングルンにパーマをかけてみたりした。
そして、その一風変わったヘアスタイルのまま、真っ赤なカットソーに黒のライダースジャケットをはおり、ミニスカートで通学していた。
今考えると「大学デビュー」と呼ぶには、甚だしいほどの痛さだった。当時の自身の写真を見ると超絶恥ずかしい。
 
就職してからも、その痛さは変わらなかった。
新卒で入った会社は制服がなかったため、自由な服装だった。プチバトーのピタピタなTシャツに、ボブソンのベルボトムを履いて出勤していたくらいだ。とにかく体のラインをアピールすることに必死だった。
自分でも不思議だが、当時はなぜか自己主張が強かったのである。
目立ちたい! ちょっとでも注目されたい! という承認欲求が強かったのだろう。
 
しかしどんなに着飾ったとしても、年を重ねるにつれ、どうしても抗えないものがあった。
「白髪」である。奴らは勝手にいろんなところに生えてくる。
転職して、人材サービス業に就いてから約10年の間に、ごっそりと白髪の大群が顔を出し始めたのだ。まるで伸びかけのカイワレ大根のようにも見えた。
人材サービス業は、モノではなくヒトを扱う仕事であるがゆえに、何かと気苦労が絶えない業界でもある。
「こんな仕事、やりたくありません」
「昨日からスタートしましたが、もう1日で辞めたいです」
「派遣先のあの同僚が、どうしてもイヤなんです!」
そんなスタッフの相談や愚痴の数々を毎日、電話や対面で聞かされながら思った。
「ハゲそう……」
いっそのことハゲてくれたほうが堂々と会社を休めたのに。良くも悪くも「白髪」という形で出てきたのである。
 
カラーリングしてブラウン系に染めても、日に日に根元の黒髪が伸びてくる。仕事が忙しく、なかなか美容室に行けない間に、その黒い部分がいつの間にか白髪化するのだ。
そのうち黒、白、茶色にくっきり分かれてしまい、「おいおい、新種の毒キノコかよ」と、鏡で自分の頭を見てゾッとしたものだ。
そんな白髪が、眉毛や鼻毛にも少しずつ転移し始めたのが30代。
出勤前のメイク中に「ひぃっ! おじいちゃん化してる」と驚き、鼻毛カッターでお手入れ中に「うわっ、ここにも奴らが!?」と叫び、じわじわと主張してくる白髪たちに太刀打ちできなくなってきた。
 
そして極めつけは、アソコに「白髪」を見つけた40歳手前のこと。
その日の私は、考え事をしながら職場のトイレへ向かっていた。トラブル続きでとりあえず一人になりたかったのだ。まずは深呼吸しよう。個室でふうーっと一息つきながら、ロダンの「考える人」のポーズになっていた。
「ああ、またか。スタッフ同士のトラブル、どう処理しようかな……」
とふと下を向いた瞬間、目が点になった。アンダーヘアに白くてそこそこ太めの奴が一本、主張しているではないか。
「いやぁ! ここにまで現れるなんてっ! もうバカバカバカ!!」
その場で泣きたい気持ちになった。
スタッフのことよりも、自分が確実に老いてきているという事実、そのショックがあまりにも大きく、その日は帰ってから寝込んだ。
でもなんとかしなくては! その事実を払拭すべく、勇気を出して毛抜きを取り出してきたものの、手が震えて思うように抜けない。ああっ、もうどうにでもなれ!
体の中心に生えている毛というのはなぜか頑丈で、商魂、いや毛根たくましい奴だった。
 
そこで、人生の先輩である母親にこっそり相談した。
「あら、そんなの当然じゃない。そりゃ白髪も生えてくるってもんよ、あっはっは」
軽く笑いとばされた。ダメだ、解決策にならない。
脱毛に詳しい友人がいたので、彼女にも相談してみた。
「あのね、毛抜きで抜くのは一番ダメ! 肌に負担がかかると次に生えてこようとする毛を塞いで埋没毛(埋もれ毛)にさせちゃったり、毛抜きで傷ついた毛穴から細菌が入って皮膚に炎症が起きたりするんだから。気になるのはわかるけど、頭だろうとアンダーヘアだろうと、抜かずにせいぜい目立たない程度に切ることね」
ぐうの音も出なかった。
白髪が生えてしまったショックのあまり、今後の自分の体や皮膚のことを、まったく考えていなかった自分が恥ずかしくなった。
 
何も大病をしなければ、今や女性は80歳までは軽く生きる時代だ。
白髪ごときで右往左往していたら、心身ともに持たない。
彼女の言葉のおかげでスッキリして、自分の身体への愛着がわいてきた。
そうだ、毎日頑張っているこの身体を痛めつけるんじゃなくて、ヨシヨシしてあげるくらいの気持ちを持てばいいじゃないか、と。
それ以来、お風呂で主張する白髪を見つけても、極力見ないふりをして湯舟の中で「おつかれ、私」と身体を撫でることにしている。そうすると、気持ちも落ち着くことに気がついた。
今日も明日も、白髪は私の見えないところで主張している。
でも、それも私の一部分。一緒に仲良く年を取ればいいじゃない。今ではそう思っている。
 
 
 
 
***
 
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