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「全く成績が上がらない子!?」

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:藤岡継嘉(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「助けてください!」
 
神奈川エリアのある教室の室長から電話がかかってきた。
 
「全く成績が上がらない子がいるんです。」
「とってもまじめな子なんです。K君と言います。小学1年生から通ってくれているのに6年になった今でも国語の偏差値が20台のままで全く成績が上がりません。おうちでも毎日3時間はちゃんと机に向かっているのに。」
「どうしていいかわからないとお母様も泣いてしまっていて……」
 
うちの個別指導塾に小学1年生から通わせてくれているというのは、いうなれば「上客」である。塾としては最も大切にしなければいけない生徒である。
小6から入塾してくる子も多いのに、小1から5年間も通ってくれていて偏差値が20台のままというのは正直かなりまずい。偏差値は50が平均なので、20台というのは最底辺ということになる。
しかもお母さんが泣いてしまっている。
ある意味怒ってクレームを言ってくるお母さんより、泣かれてしまう方がこちらとしてもつらい。
月謝だけを考えても個別指導の月謝は集団塾よりも割高である。
それを5年分ともなると国産の新型車が買えるくらいの額をいただいていることになる。
 
「私が行ったからといって解決できるのだろうか?」
「私が本当に助けられるのだろうか?」
 
そんなにも長い間取り組んでいるのに成績が上がらないのなら、このまま本当に上がらないのかもしれない……。
 
しかし、社員として行かないわけにはいかない。
とにかくその教室に行ってみた。
 
K君が個別指導のブースの席で白衣を着た大学生指導者と並んで座っている。
どこからどう見てもまじめに指導を受けている。
大学生指導者も教室の中で一番評判のいい先生である。
私が代わってK君に個別指導をしてみた。
とてもいい子で、先生に言われた通りにする素直な子である。
 
テキストの文章を音読する際も読めない漢字はあるものの、特段変わった様子はない。
文章内容をK君と入念によくよく確認した。
ここまで文章の内容がわかれば問題も解けるはず。
 
「じゃあ、問題を解いてみようか」
といっていかにも標準的な選択肢の問題を解いてもらった。
 
ところが、
不正解。
 
次も不正解。
 
その次も、そのまた次も全部不正解。
 
 
「んー」
 
私も唸ってしまった。
 
なかなかの難敵。
やはりこれは本物だ。
只者ではない……。
 
 
「どうしよう」
 
 
別の長文問題をやってみたが、結果はやはり同じだった。
 
「あきらめるしかないか……」
 
 
最後にダメ元でもう一度設問文を読み直してみた。
「---線①これはどういうことですか。次のア~エの中から最も適当なものを選びなさい」
とある。
まさかとは思ったが、一応勇気を出して聞いてみた。
 
「K君、『適当なものを選びなさい』ってどういうことかわかる?」
 
すると、
「間違っているものを選ぶってことでしょ。」
と彼。
 
「えっっ、……」
 
 
「最も適当なものを選びなさい」

「間違っているものを選びなさい」
だと彼は思っていたのだ。
 
5年間も……。
 
 
「適当にやっちゃった」
とか
「適当にごまかした」
とか言うように、
「適当」には「いいかげん」という意味がある。
 
 
これはウソのようで本当の話である。
 
 
このことをお母さんに言おうか言うまいか。
 
こんな基本中の基本のことも教えないまま5年間も通塾させていたなどとわかったら、激怒するにちがいない。
 
そうも思ったが、以前テレビで危機管理の専門家が
 
「都合の悪いことほど隠さずに正直に言った方がいい」
 
と言っていたのを思い出したので、勇気を出してこのことをお母さんに言った。
 
すると、
「そうだったんですか」
とあっさり。
意外にも怒られなかった。
 
 
それから個別指導は私が担当することにした。
 
「『適当なものを選ぶ』とは正しいものを選ぶ」
 
とわかった彼だが、だからといって全問正解できるようになったわけではない。
前よりは多少良くはなったものの、やはり間違いが多い。
 
 
実はもうひとつの問題があった。
それは、彼が異常にいい子であること。
先生から教えられることをよく聞くのはいいのだが、ずっと教えられっぱなしだとなんとなくわかったつもりになってしまい、いざひとり孤独にテストで解く段になると、とたんにできなくなってしまうのだ。
 
だから、先生が教える分量はほどほどにして、自分ひとりで考えて解く時間を意識して増やすようにした。
 
さらに家庭学習も工夫した。
彼がひとりで取り組んで手ごたえを感じられるように思い切ってレベルをグッと下げ、3年生のテキストをやらせるようにした。
読めない字はお母さんに聞いたり漢字辞典を引いたりして正しい読みを調べる。
文章中の意味の分からない漢字は必ず国語辞典を引いて意味を把握する。
間違えた問題は必ず解説を見てよくよく納得するようにする。
それでもわからなかったらフセンを貼って私に質問するようにする。
 
など、いろいろと具体的なやり方まで踏み込んで改善していった。
すると、国語の成績が徐々に上がり、それに伴い他の教科の成績も上がってきて、結局彼は第一希望の中堅校に合格できた。
本人やお母さんはもちろん、室長も私も飛び上がって喜んだ。
 
 
あれから7年。
なんと彼は今、件の個別指導塾で大学生指導者をしているとのこと。
 
 
「苦労した分、きっといい指導者になるだろう」
「あのとき、勇気を出してよかった。そしてあきらめなくてよかった……」
 
心からそう思った。
 
 
 
 
***
 
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