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メディアグランプリ

長い長い反抗期が終わりを迎えた訳


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:加藤宏彬(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「テメェの価値観を押し付けんじゃねえ!」
閑静な住宅街で大きな声が響き、胸倉を掴み、拳を高く振りかざした。
「俺とあんたの考え方、価値観は全く合わない!あんが言うことは正しい。正論ではあるが、もう限界だ。自分の好きなようにやる!」
親父は言葉を発することなく、ジッと私の目を見つめているだけだった。傍に居た母を見ると泣き崩れていた。
この瞬間、振りかざした拳は重力を失ったかのように沈んでいった。
「俺は何をしているんだろう」
あの強かった親父をなぎ倒し、見下ろしている
「親父ってこんな小さかったっけ……?」
走馬灯のように様々なことが脳裏によぎり、自分がいましようとしたことに対して後悔をした。何も発することなくその場を立ち去り、静かに自分の部屋に戻って泣いた。
大学3年生も終わりが近づき、就職活動が思うように上手くいかず、苛立っていたのだ。就職活動が始まり、主にメーカー系を受けていたが全滅した。メーカーの関連会社を片っ端からエントリーシートを出し、書類選考が落ちるたびに一喜一憂する毎日。ここまで落ち続けると「自分は世の中に求められていないのではないか」 「もしかしたら社会不適合者なのかもしれない」という強迫観念に襲われた。
そんな絶望の中、親父にアドバイスを求めて、相談したのがことの発端だった。
親父は元々メーカーに勤め、その後は大学の教授をしていた。
研究室で学生に就活相談なども行っていたため、相談相手としては適任ではあった。しかし、いままで学生時代に父親に相談などしたことは1度もなかった。
なぜなら、私の考えや意見は全て否定されてきた。「大学を辞めて服飾の専門に通いたい」と言い出したときは、「有名なデザイナーになれる人間なんて、ごく一握りの人間だけだ」 「そんな不安定なとこに行っても将来が見えない、大変だ」
何を相談しても、「自分の意見は通らない。親父の思い通りの人間になるだけ」 この固定観念がずっと抜けずにいたため、一切相談することはなかった。
人生最大の反抗期まっしぐらだった。
 
そうは言ってもこのまま何もしなければ本当に社会からはみ出し者になってしまう。
追い詰められていた私は、あの晩出てきた親父のアドバイスを半信半疑で受け止め、選考を進めていった。
すると今まで全滅していた選考が通るようになり、ようやく1社内定を取ることができた。
認めたくはなかった。「親父の言うことはやっぱり正しいのか……」 ということを。認めてしまうと、自分の中で何かが崩れ去ってしまうような気がしていた。だが、内心はホッとしていた。「自分は社会に求められていない人間ではない」 「自分を求めてくれている会社がある」 この内定というものが、心の不安をどれだけ取り除いてくれたかは計り知れなかった。
正直、もう就職できればどこでも良かったのかもしれない。と心のどこかで思っていた。
「早く家を出たい」 「自由になりたい」ただそれだけが心に強く残っていた。
そんな思いを抱いたまま大学卒業まで親父と会話すること1度もなかった。
わだかまりを残したまま、私の社会人生活がスタートしたのだ。
社会人1年目はとても充実していた。同期にも恵まれ、休みの日には一緒に旅行や遊びにく日々が続いた。両親から離れ、何も縛られることなく時間とお金を自由に使うことができる。
この時は学生時代と違い解放感に満ちあふれていた。
相変わらず親父との距離は縮まってはいなかったが、「親父は親父。自分は自分」 と割り切っていた。何を言われようと自分が稼いだお金だから、文句言われる筋合いはなかった。
その後、9年務めた会社を突如として退職し、フリーランスをすることになったのだが、この頃から親父との確執に雪解けが始まった。
会社に勤めていたころは会社に守られていたが、フリーランスとなると全て自分で生活を回していくしかない。新規顧客の獲得で広告費は実費、ロビー活動、収入は入るものの経費で減り、生活費にも回す必要がある。自分が動けば動くほど収入は増えていく、当初はこれが面白く、やりがいも感じていたが、自分が動かないと収入が生まれないという恐怖が常にあった。
「これいつまで続けれるのだろうか」 歳と共に体力的にもきつくなったり、病気をしたら一発で吹っ飛ぶかもしれない。前職で蓄えていた貯蓄も底をつき始めてから、この不安でいっぱいになった。
フリーランス時代にロビー活動をしていたおかげで、縁がありマーケティングの会社に入社した。そこで多くのことを学んだ。副業OKな会社でもあるため、引き続き自分の副業も続けていたが、クライアントコミュニケーション、利益の出し方、マーケティングなど、自分に足りていないものを身につけられる環境だった。
早いもので入社して5年目となり、結婚もした。この頃には親父と仕事の話をするようになっていた。
「全然意見合わないわ」 と思いつつも、自分の身体で稼ぐことを経験したこともあり、親父の話も何か自分の身になるものはないか?という気持ちで受け取るようになった。
親父を張り倒したことをふと思い起こすこと、今では心がとても痛い。大人になり社会に出て自分で稼ぐようになり、生きていくことの大変さを体感した。
もし子供ができ同じような状況が起きたとき、子供に対してどんなことを想うのだろうか。親父も私の意見を受け入れようとしなかった訳ではなかったのかもしれない。
経験の浅い私に対して、先に経験してきた知識や知恵を自分なりのアドバイスとして伝えてくれたのだろう。可能な限り安全な道を案内してくれていたのではないか。
学生時代の就活で親父に言われた言葉が、今でも残っている。
「やりたいことじゃなくて、できることをやれ」
やりたいことだけを追い求めて就活に失敗した私にとって、「なんて残酷な親だ」と思った。社会に出るということは、夢や希望も何もない。働くことにやりがいがないと続けていくことは絶対に無理だと思った。
現実は違った。やりたいことをやってみたが、そう簡単に上手くはいかないのだ。フリーランスで好きなことをしていた時期があり、好きでやりたいことだが、それだけでは上手く行かない。それ以外の嫌いなことや向いてないやりたくないことも仕事としてやっていかなければ、生き残っていけないということが分かった。
親父は今までの経験からこのことが分かっていたのではないかと思う。
「やりたいことや好きなことをやってもいいが、それはとても大変なことだ」と、
親としては分かっているのに、わざわざ茨の道を歩ませはしないだろう。今の私にはあの頃の親父が行ってくれた言葉が理解できるようになった気がしている。
子供が生まれ、同じような状況になった場合、私が体験したことを踏まえてきっと話すだろう。それが子供の幸せだと思うからこそ、親としてできることなのかもしれない。
 
 
 
 
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2023-03-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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