メディアグランプリ

自分の心を整える方法は幼い自分が教えてくれる

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:藤野宏隆(ライティング・ライブ京都会場)
 
 
「ここは何をするところなんだろう?」
 
お母さんが僕と妹を連れて入った部屋の中には、たくさんのピアノやエレクトーンが並んでいて、僕たちはその中の一台を前にして座る。部屋を見渡せば、他にも僕たちと同じように小さな子どもとその親が並んで座っている。部屋の隅には、カスタネットや木琴のように幼稚園のお遊戯会で見たことのある楽器もあれば、大きな竹とんぼみたいな道具やシンバルが縦に並んで付いているものもある。
 
すると、1人の女の人が部屋に入ってきた。あいさつをして、子どもたちをピアノの周りに呼ぶ。声を掛けられた子どもたちが、ピアノの前に座る女の人を囲むように輪になって並ぶ。妹もその中に入っているが、僕はお母さんの横でそれを眺めている。女の人がピアノを弾き始めると、子どもたちはその音に合わせて歌を歌いだす。
 
それを見て僕は、「幼稚園とおんなじだ! ピアノを弾いている女の人は先生なんだ!」と少しずつここがどんな場所なのか分かってくる。
みんなでお歌を歌っておしまいかと思ったら、今度は子どもたちが戻ってきて、それぞれのピアノの前に座る。そして、みんながピアノを弾き始める。幼稚園では先生しかピアノを弾かないのに、ここではみんながピアノを弾いている。幼稚園の先生みたいに上手じゃないし、歌のようには聞こえないけど、ここの先生はお歌だけじゃなくて、ピアノの弾き方も教えてくれるみたいだ。
 
母親が妹をピアノの音楽教室に連れて行ったのは、妹が幼稚園に入ったころで、2つ年上の私が幼稚園の年長の時だと聞いている。
女の子だからピアノなんかやってみたら良いね、と考えて、妹を連れてまずは近くの音楽教室に体験に行くことにしたらしい。しかし、まだ幼かった兄の私だけを家に残して行くことはできず、私も付き添っていくことになった。そこで、自分と同じくらいの子どもたちが自由にピアノを使って、音を出しているところをすごく楽しそうに感じたのだろうか。
 
「妹だけ、こんな楽しそうなことをするなんてずるい! 僕もする!」そんなことを言って、私も音楽教室に通うようになったらしい。
 
こうして私もピアノを習うことになったが、その当初、母親は私がどれくらい続けると思っていただろう。男の子だし、教室も女の子のほうが多いし、どうなるだろう。負けず嫌いな子だから、妹だけが新しいことをするのが嫌だったのだろうな。これから小学生になるし、どれだけ続くか分からないけど、やらせてみようか。そんな風に思っていたかもしれない。
 
週に1回のレッスンと家での練習、そして年に1度の発表会を私は高校を卒業するまで、およそ13年間続けた。学校や部活動など、ピアノ以外のことに関心が傾いていた時もあったから、家での練習がおろそかになっていた期間は確かにあったが、それでもレッスンをさぼったり、教室を辞めようかと考えたことは一度もなかった。
 
自分でその理由を考えてみるに、時間を掛けて何度も繰り返し練習をすることで、新しい曲や難しい曲が弾けるようになる。最初は右手だけでもたどたどしかった曲が、練習を繰り返すことで、体全体を使って表現できるようになる。そのコツコツと積み上げた結果、達成感が得られることが私の性格に合っていたのかもしれない。でもこれはおそらく後付けの理由だろう。ピアノに向き合う中で、目標に向かって地道に積み上げていくことを覚えたのだ。
 
それよりも、私はピアノを弾くことで自分自身の身体や心を調律していたのだ。イライラしている時はいつもより頭や体を大きく振って弾き、気分が落ち込んでいたら、ゆったりとした曲を演奏した後に、ハイテンポな曲を思いっきり何度も弾き直す。一日の終わりに体にエネルギーが残っていたら、できもしないのにジャズピアニストのように、思うままに鍵盤を叩くように弾いてみる。そんな風にして、自分の身体や心に溜まっているものを日々の生活の中で上手く消化する方法がピアノを弾くことだったのだ。
 
最近どうも頭や心の中にもやもやとした何かが溜まっている気がする。職場に行くまでの道順を変えてみたり、スーツを仕立て直してみたり、他にもランニングをしたり、旅行に行ってみたり、と普段と違うことを色々とやってみるが、その瞬間はリフレッシュできても、気付いたらまた最初に感じたもやもやが出来ている。
 
ちょっと久しぶりにピアノでも弾いてみようか。そう思って弾いてみることにした。楽譜を開くのも久しぶりだ。指が上手く動かない。流れるような演奏には程遠い。でも、気付いたら2時間も時間が経っていた。1つのことに没頭する体験が久しぶりで心地よい。幼心の直感で始めたピアノは今の私の中にもすっと馴染んでくれた。
 
もうすぐ春がやってくる。心機一転、新しいことを始めてみるのも良いが、小さい頃に夢中になっていたことを改めてやってみるのはどうだろう。流行りの運動や思考法なんかよりも優しく簡単に自分の心を整えてくれるかもしれない。
 
 
 
 
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2023-03-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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