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「丁寧な暮らし」とはなんだ

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:辻村 佳代子(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「50歳になって、丁寧な暮らしをやめました」
 
えっ!? そうなんですか? 美容院で渡された雑誌の字面に、思わず心の中で問いかけた。もうやめるんだ、50歳を超えて久しい私は、「丁寧な暮らし」をまだ始めてもいないのに。少なからずのショックとともに、読み進める。なるほど、50歳を超えると負担に感じるのか。それよりも、シンプルな暮らしで快適さのほうが重要なのか……。
 
いつ頃からだろうか、「丁寧な暮らし」というワードを目にするようになったのは。「丁寧な暮らし」という響き。大人のゆとり、心も体も、経済的にも満たされた者のみが味わえる世界。手間を惜しまない素直な性格と、よいものをよいと感じる自分軸。それを取捨選択できる知的さ。こだわりの食材と広いキッチン、窓からは太陽が心地よくふりそそぎ、こだわりのコーヒー豆でコーヒーを淹れる。観葉植物に話かけながらお水をあげて、お気に入りの音楽をかける……。素敵、素敵。私もそんな生活がしたい! 妄想を掻き立てられる。「丁寧」の本質は何だろう? ふと疑問に思う。わからないけど、そんなことはどうだっていい。とにかく自分のイメージの中で憧れの世界となった。そしてついに、窓が大きく明るいマンションに引っ越し、観葉植物を手に入れた。コーヒーミルとコーヒー豆を購入し、準備万端。さて、丁寧な暮らしを始めよう。ここまでは思い描く暮らしを手に入れたと思っていた。
 
これからは、リモートワークが中心になっていく。だから、生活する場所は大事にしよう。引っ越しにあたっては、そんな思いもあった。しかし、リモートワークが可能な職場環境ではあるものの、ウィズコロナとなってからは推奨されるものではなくなった。仕事の調整となると、やはり対面がスムーズに進んでいく。そんなことで、やはり出社が多くなる。50歳を超え、体力に合わせ穏やかな仕事をするイメージを持っていたが、なかなか許してもらえない。プレイングマネージャーの世界にどっぷりである。人もまばらな真っ暗な中、重い足を引きずって帰宅する。この時間からコーヒーで一息……なんて絶対にありえない。一刻も早くお風呂に入って、一刻も早くベットに入る。そんな生活が続き、「丁寧な暮らし」は意識からどんどん遠ざかっていった。大きな窓からは朝日をかろうじて見るくらい。コーヒーミルは、元気な週末に登場するかしないか。観葉植物だけはカーテン越しの光と主の疲れた気を栄養にして、すくすく育っている。おかしいな、こんなはずではない。「丁寧な暮らし」に対して私に足りないものはなんだろう……。そうか、ゆとりだ! 何よりも時間のゆとりが必要なのだ。定年退職して時間できあれば、私は「丁寧な暮らし」を楽しめるはず。それまでは、我慢するしかない。心の底からそう思った。
 
そんな思いの中で見た、雑誌のフレーズ。まだスタート地点にも立っていないのに、私は完全な周回遅れではないか。焦りとともに憧れを打ち砕かれる気持ちがあった。しかし、よく考えてみると、実際に「丁寧な暮らし」をすると負担に感じることは多いだろう。ましてや、私はかなりの面倒くさがり屋。本当に楽しめるかは眉唾ものである。
 
翻って、今の生活を考えてみる。朝はそこそこの時間に家を出て、帰宅はかなり遅い。仕事場ではあちこち引っ張りまわされ、自分のペースで仕事をするなんて、夢のまた夢。ごく簡単なお手製弁当を食べ、自販機のコーヒーを飲み、チョコレートがないと落ち着かない。夜はお風呂にダイブし、ベットにダイブする生活。どう考えてもストレスフルで、健全とは思えない。しかし、である。この歳になっても、これだけのお仕事をいただける。色々な人が相談に来てくれる。仕事場に行けば仲間がいて、議論ができる。健康にさえ留意すれば、これはこれで、よい生活、よい人生なのかもしれない。何度も言うが、憧れとは違う。でも、こんな時間の過ごし方もとても貴重なものなのかもしれない。そんなふうに思えるようになった。
 
カーペ・ディエム。今を楽しめ。この瞬間を大切にしろ。古代ローマの詩に出てきたフレーズである。大学時代に教授が、若者の私たちに贈ってくれた言葉であるが、当時はその重みをよく理解できていなかった。今を楽しむのは当然のこと。そんなふうに思っていた。長く生きると色々な情報が入り、憧れと比べて今を残念に思ったり、先のことを考えて不安になったり、してしまうのかもしれない。憧れに近づく努力はいいことなのかもしれないが、憧れは憧れ、今の生活は今の生活として、それぞれに楽しむ心を持つことが、豊かな人生につながるのかもしれない。それはある意味、「丁寧な暮らし」ならぬ「丁寧な生き方」なのではないか。実像がない世界の中で色々な思考を巡らせた、美容院での一コマであった。
 
 
 
 
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2023-03-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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