昔話が語り継がれているのには訳がある
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記事:堀越ひでき(ライティング・ゼミ2月コース)
「昔話は大人のためにあるって、本当?」
僕は、聞いてしまった。
「ホンマにホンマじゃ」
と爺さまは返してきた。
僕の目の前には、木々が芽吹き出した山あいの田園風景が小さく広がり、名前もわからない小鳥たちが囁きあっている。そんな風景の中の小さな一軒家の縁側に僕と爺さまは座っている。
僕は、昨日ここへやって来て、夜は二人して、しこたま酒を飲んで意識不明の朝をむかえた。僕が起きたのは正午近くになってからだが、爺さまは、野良仕事を一仕事終え、昼飯を作り始めたところだった。爺さま、おそるべしである。
昼ご飯を食べ、少し元気になった僕は、昨日の酒の話を思い返しながら、聞いてみたところだ。
爺さまの話によると、こうだ。
昔話は、大人が子供に声を出して読んで聞かせてあげている。この声に出すことが尊いものだと。
昔話には意地悪な爺さんとかヒールな業突く張りな大人も出てくるし、花咲か爺さんのようなヒーローも出てくる。大人たちは、声に出して読むことで、どうしても自分と昔話の登場人物を引き比べてしまう。これは純粋な子供達に、「自分は決してヒールじゃありません」と決意表明しているのと同じになるんだそうだ。特に声に感情をこめて読んであげるほど効果てきめんで、子供の前じゃなくても、ヒールな業突く張りなことはできなくなるのだそうだ。
それに、全ての昔話には真実が散りばめられていると。
だいたいこの辺りまでは、覚えているけれど、ここから先は、酒が回って全く覚えていない。
爺さまは、食後のお茶を美味そうに飲みながら、僕に語りだした。
爺さまによると、特に「浦島太郎」がいいのだそうだ。
浦島太郎は、助けた亀に乗せられて竜宮城へ行って、竜宮城でどんちゃん騒ぎをして、帰りがけに玉手箱を手渡され、浜に着いてから、その玉手箱を開けてしまい、老人に老人になってしまうという、昔話には珍しい悲惨な結末のストーリーである。
爺さまが言うには、若いうちは、だれでも「竜宮城」に行っているんだそうだ。つまり異性や金銭、そういった「欲」に溺れてしまうんだと。そういう欲の時期から、どれだけ早く現実の堅実な生活へ戻ってくることができるかで、人生は決まるんだとか。
なんだか、わかったようなわからないような……
じゃ僕は? 僕も、今、竜宮城へ行っている時期なんだろうか?
爺さまに聞いてみた。
爺さまは、昨夜のお前の話を聞く限り「お前も竜宮城におる」ということらしい。
「じゃぁ、どうやったら竜宮城から帰れるのか?」
「というか、竜宮城にずっと居たいよ」
と言ってみた。
爺さまは、鼻で笑いながら、新しいお茶を湯呑に注いで、話を続けた。
確かに竜宮城から帰ってこない人も居るだろう。その方が幸せかもしれない。でも、ここはよく考えるべきだ。なぜ、「浦島太郎」の物語が語り継がれているのかを。それは真実だから。少なくとも、物語が語り継がれる中で「ここには真実がある」と思った人が何人もいたから、こうやって話ができているのだと。
確かに、真実がないと、語り継がれることもないかもしれないとも、思うけど。
じゃ、ほかの昔話の真実って、何なんだろうか?
爺さまに聞いてみると。
「花咲かか爺さん」や「わらしべ長者」は、「得をしてやろう」という欲じゃなく、普通に目の前のことと向き合っておれれば、「すごいことが起きる」ということだと。
そして「得」じゃなく「徳」じゃ。と言って笑い飛ばした。
なるほどなぁ。じゃあ「かぐや姫」「鶴の恩返し」なんてどうだろう?
爺さまは、「ほう」と、声をあげて続けた。
「かぐや姫」と「鶴の恩返し」は、多様性。人間以外にも、大切な命ある生き物がある。自然界を、そういう眼差して見るのが正しい人の道と教えておる。
なんか、そうでもあるようだけど、だまされている感もなくはない。
そして、繰り返すように爺さまは、言った。
子どもは、よき聞き手よ。素直に聞いてくれる。そういう聞き手に話したことは、話し手の心に残る。だから業突く張りなことが「できなくなる」のだと。
今の時代は、昔話を大人がちゃんと子どもに語り聞かせることができていないから、問題も起きている。竜宮城に行ったままの人もたくさんおるのじゃないかと。
爺さまって何者なんだろう?
僕もよく知らない。だけどこんな昔話のような山の中で一人暮らしている。それに幸せそうだ。
爺さまも竜宮城から帰ってきたんだろうなぁ。
僕も、いつしか子供たちに昔話を語り聞かせ、孫たちに、昔話の効用を語るようになるのかもしれない。
そのためには、結婚せねば……
ってことは……じゃそろそろ都会という竜宮城へ帰ろうかな。
***
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