メディアグランプリ

地元嫌いな自分が、まさか地元にUターンするなんて


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:小笠拡子(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「こんな何もない徳島で一生を終える気はない!」
と、血気盛んだった高校生の私は、県外大学への進学しか考えていなかった。
 
徳島県生まれ、徳島県育ち。超がつくほどマジメな性格で、インドア派だった私は基本的に勉強をして過ごしていた。都会のようなおしゃれなカフェやショップはないし、テーマパークのような施設などもない。
 
「徳島なんてキライだ。だから絶対出て行くんだ」と高校1年生のときから大学受験を意識して猛勉強。努力とご縁で京都の私立大学に進学することができた。
 
大学生活の初めの頃は友達づくりで忙しかった。会う人全員に自己紹介をし、「徳島出身だ」と言うと、徳島って阿波踊りが有名やけど、それ以外に何があるの?」「徳島って四国のどこだっけ?」という質問を、必ずと言っていいほど受けた。
 
その質問を聞く度に徳島の知名度の低さに絶望し、「徳島は四国の右下。何にもない、田舎」と答える度に、魅力のない徳島にうんざりした。ますます故郷に嫌気がさしていたのだ。
 
しかし、その考えは、学食で食べた一杯のみそ汁で変わるのである。
 
大学生活が始まって数日。すっかりたくさんの友人ができて、学食で昼食をとる約束をしていた。いつもは丼と小鉢なのだが、この日は定食スタイルにしようとみそ汁を注文。受け取ったお椀の中には、小さい豆腐とワカメがみそ汁の中を泳いでいた。
 
「え? これがワカメ?」
みそ汁の中に入っていたワカメを食べた瞬間、本音がポロリとこぼれた。一緒に昼食を食べていた大阪出身の友人は「何いうてんの? ワカメやで」という表情でこちらを見ている。
 
私の知っているワカメは、こんなにトロトロではない。もっと鮮やかで、濃い緑色をしていて、肉厚で、歯ごたえがある。給食のみそ汁に入っていたワカメでさえ、そうだった。このみそ汁の中で泳いでいるワカメは、私の知っているワカメとは程遠かった。
 
私が食べ慣れていたのは、鳴門産のワカメだった。徳島県北にある鳴門市で生産・出荷されているワカメだ。鳴門の海は風が強く、潮の流れが早い。そこで育まれるワカメはどっしりと立派で、分厚く、コリコリとした食感なのだ。学校の給食も鳴門産のワカメだっただろうし、我が家のみそ汁も鳴門産のワカメが当たり前だった。
 
このワカメエピソードが、「 “当たり前” だと思っていたものが、実は “特別なこと” なんだ」と、身を持って知った初めての出来事だった。
 
それから少しずつ、地元に目を向けるようになった。帰省する度に徳島の各所へ出かけて、徳島を観光した。野菜の甘さや水の澄んだ味わい、新鮮な空気の美味しさ、少し移動するだけで触れ合える自然。「何もない」と思っていたけれど、本当は「何も知らない」だけだった。
 
「本当は、徳島っていい所だったんだな」と気づいたものの、それでおしまいだった。つまり、好きにはなれなかったのだ。
 
大学卒業後、故郷に戻る気持ちは1ミリも湧いてこなかった。食材や水が美味しい地域、自然がたくさんある田舎なんて、全国各地いたるところにあるからだ。
 
20代前半の若い時期に、わざわざUターンして徳島に根ざす理由が見つけられなかった私は、就職活動でも地元企業を一切見なかった。しかし、ワカメの原体験があったからこそ「地方の魅力や良さを伝えて、活性化に繋げたい」という思いはあり、都会の企業でそれが実現できないか、と就職先を探していた。
 
私は新卒で、とある離島の施設で働くことになった。東京で知り合った人が、「共に離島を盛り上げて欲しい」とSNSで求人をかけていたことがきっかけだ。勤務地は自然豊かな島。のどかな場所で東京の人と共に仕事できることが、とても魅力的に思えて後先考えずに飛び込んだ。
 
結果、2ヶ月で退職。人間関係が原因だ。身も心も疲れ果てた私が救いを求めたのは、故郷だった。ほんの休養のつもりで帰郷した。休養期間を終えたら、また再就職で都会へ行こうと考えていたのだ。
 
けれども、この休養期間で徳島の食べ物と自然に癒され、自分の奥底に眠る、”郷土愛” にうっすらと気づき始めた。いや、本当は、大学1年生の時に体験したワカメの一件を機に、郷土愛が芽吹いていたのかもしれない。
 
故郷とは親のようなものだ。その土地を離れたからこそ、その存在の偉大さに気づく。そして、本当は愛しているのに、なかなかその愛を言葉にしたり、伝えたりすることができない。
 
いまだに、私はこの郷土愛をうまく表現できない。だからこそ向き合っている。徳島のどういうところを愛し、何を魅力に感じているのか。そして、この愛をどう表現したらいいのか。一生答えは出ないのかもしれないけれど、私はこの地で暮らし、その愛を深く見つめていきたい。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2023-04-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事