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ちがうそうじゃない、夏


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:藤沢邦洋(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
いつもではないが、暑い日はかならず死んだようになる。暑さに弱いからというわけではない。走る習慣があって、気分が乗らない日に気温が高いと、それだけでやる気が失せてしまうからだ。
 
気分が不快でも塞がっていてもまず着替える。そしてとにかく出発する。
それはなぜか。毎日走っているからだ。
毎日走ってかれこれ8年以上になるが、やめられなくなった。
本を読んでいたら、なんとなく走りたくなった。何の気もなく続けていたらやめられなくなった。
 
走るときはランニングシューズを履かない。ランニング用のサンダルか裸足だ。なぜかというと靴だと必ず怪我をするからだ。靴のせいで、今まで膝痛になったり、爪を剥がれたりして痛い思いをした。サンダルや裸足だとそういった怪我はほぼない。
怪我しない効率的な走りをしているので靴より裸足のほうが速い。3分/km台で走れるし、10kmは50分を切るほどだ。
 
走るのは喫煙のように楽しい。気分転換になる。タバコは吸えば吸うほどやめられなくなるし、吸うなと言われても吸いたくなる。やめろと言われてもやめられない。
走るのも同じだ。毎日走っているとやめられなくなる。悪天候でも気分が乗らなくても走る。怪我をしても走る。雨が降っても走るし、槍が降っても走る。もうね、骨が折れて医者が止めても、たぶん走る。
 
喫煙中毒ならぬランニング中毒だ。
 
そんな私は公園を走ることが多い。
そこは整備が行き届いていてサンダルでも裸足でも走りやすいうってつけの場所だからだ。
公園は一周が4 kmあり、ちょうどよい距離だ。大きな池と小さな神社があって景色がきれいだ。気が向けば参拝ランもできる。
 
公園は土日や天気が良い日は人が多い。みどころがたくさんあるからだ。
春は桜で花見ができる。夏はフラワーガーデンで色々な花を見れる。秋は落葉樹があるので紅葉を楽しめる。冬は渡り鳥たちが飛来してくる。春夏秋冬いつでも楽しめるのだ。
 
そんなところを何千回も走っているといろいろなことが起きる。
 
4年前の7月の暑い日、暑さで気分が萎えていたものの、私はいつも通り公園へ走りに出た。その日は29度あってなかなかの暑さだった。
 
公園の緑は春の萌葱色から新緑色へと移っていた。春先までいたカモたちもいなくなって、鳩と猫が暑そうに道端でたむろしていた。
その日は人が多かった。おじいちゃんおばあちゃんと子供連れの親子がたくさんいた。
その中をゆっくりと走っていた。だんだん気持ちよくなってきて、タバコを吸うような感覚で走った。3 km ぐらい走ったところ、公園最長のバックストレートであることを思い出した。
 
日時指定で荷物が届く。
 
何時に持ってくるか思い出した。たしか、18時〜20時。いまは17時45分、あと15分ほど余裕があった。
 
私は真面目なところがあって宅配便でも遅れるのが嫌だ。以前、時間指定したにも関わらず帰れないことがあって申し訳なかった。それから再配達が気の毒に感じるようになった。
 
「どうにかして間に合わせたい」と思った。
 
近年、宅配便の再配達に関する問題が増えている。
利用者が配達時間を守らないことが多く再配達が発生している。
最新のデータによると現状の再配達率は11.8%で、国の目標7.5%に比べるとまだ差がある。《国土交通省調べ 2023年4月5日放送 TNCスーパーニュースより》
 
その頃は配達する方も時間通りに配達しなかった。
家に配達してくる業者は18時〜20時到着となったら、18時前か18時ちょうどに持ってくることが多かった。
 
時間的には3kmを15分で走ればよいので、5分/kmで帰れば18時にちょうど間に合う。しかし、いつものことを考えると気持ち早めに走らねばなるまい。
 
「いまから引き返せば大丈夫だ」
 
そう思いながら戻っていった。しかし、その日は近くでイベントがあったのか、公園にいる人がさらに増えていた。そのため速く走れなかった。
 
やばい、時間が刻々と過ぎる。
 
飛ばせずに1kmほど走ったところで、のこり2km、10分しかなかった。
神社のトイレを過ぎたところで人が少しだけ減った。全力で走れそうだ。
一気に飛ばすことにした。
 
そのときは裸足だったので、自分が持てる限りの力を使えた。3km走って体がほぐれているのでいきなり全力でも大丈夫だった。
 
裸足で速く走るとき、遠くで見てるとジョグぐらいのゆっくりしたスピードにみえるが、近くに来るとすごい迫力でかなり速くみえるという現象がある。後ろから速いスピードで追い抜くとき、たまに「はやっ……」とか声を出される。
多分、あなたの予想を超えるのでびっくりすると思う。
 
その時は、そんなダッシュで走っていたら、前の方から突然、可愛らしい拍手が聞こえた。なにが起こったのかみてみると、八十歳ぐらいでピンクの半袖を着た白髪のパーマのおばあちゃんがおじいちゃんと一緒にベンチに座って、こっちに向かって拍手をしているではないか。拍手をしていたのはおばあちゃんで目を潤ませていた。
 
近づくと感動の一言。
 
「よう走っとるねー。かんばっとるやん。しゅごーい」
 
私が裸足で全力で走っているもんだから、たぶん感動していた。
天気が良かったので表情がよく見えた。少女のような潤んだ目だった。
 
私は思った。
 
「違うんです!荷物が来る10分前でピンチなんです!遅れるのが嫌なんですーー!間に合わせるために走っています。その拍手ちがいますからーーーーーーーーーーーーーーーー!」
と、心の声を出した。しかしその声を、そんなことを見ずしらずの人に、しかも感動している人に口に出して言えるわけがない。
 
いきなり言われたし、間に合わせるために走っているのだから止まれないので、私は、すこしだけスピードをゆるめて、口パクで(ありがとうございます!すごくうれしいです!しかし複雑です!)とそれに合わせた表情でおばあちゃんの前を通り過ぎた。
 
通り過ぎたあとも、おばあちゃんの拍手は鳴っていた。
 
「騙したみたいになってすまん、おばあちゃん」
 
 
7月の夕方に全力で走ると汗で股間が濡れておもらししたみたいになる。必死の形相で股間を濡らしながら走っているとみている方は、「すごいねー」となる人と「この人、なんなん……」と思う人がいるだろう。しかも裸足なのだから始末が悪い。
 
私が傍からみている人だったら後者の人になる。だから、そのときはとても恥ずかしかった。
 
裸足で必死。股間がビシャビシャって怪しすぎるわ。
 
どうにか時間前に帰り着いた。
 
荷物はいつも通りには来ず大分待ってから届いた。いつも時間より早いのにこういう時に限って遅く来る。なんなん……ガクリ。orz
 
とはいえ、送料無料で荷物を届けてくれるだけでもうれしい。感謝。
 
しかし、同時におばあちゃんと宅配業者と私の走りをみていた人に言いたかった。
違う、違う、そうじゃないよ。
 
平成の名曲、鈴木雅之の「違う、そうじゃない」が頭の中で流れるのだった。
 
さあ、知っている人はサングラスをかけて一緒に歌おう、「違う、そうじゃない」を。
 
 
 
 
***
 
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2023-04-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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