上海ロックダウンで中国が好きになった話
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記事:上海太郎(ライティング・ゼミ4月コース)
2022年4月、上海。
深夜0時過ぎにマンションのドアをノックする音。
ドアを開けると、そこに立っていたのは白い医療用防護服を着た男性2人。
「上海は明日からロックダウン(都市封鎖)を行います。部屋から出ないでください」
と突然告げられ、まるで罰ゲームのような日々が始まった。
上海市当局は、新型コロナウィルスの感染拡大防止策として、市民2500万人を東と西の2地域に分けて、4日ずつの強制ロックダウンを実施。具体的には、外出制限・飲食店や宅配便などを含む全てのビジネスの制限・学校の制限などを行った。
ロックダウンの期限は事前告知では4日間だったが、PCR検査で陽性者が出る度にマンションごとに何度も何度も何度も何度も隔離延長され、最終的には60日以上続いた。
まず、困ったことは、「食べ物」だった。
事前告知では4日間の予定だったので、1週間分の食糧は確保していたが、
1週間が過ぎてもロックダウンは終わらなかった。
飲食店も物販店も宅配便も全ての機能が停まっているため、何も買いに行けないし注文もできない。すると、1週間に1回、上海市政府による食料支給が始まった。1週間ぶりの新たな食料にワクワクして、届いた段ボールを開けると、僕が大嫌いなチンゲンサイの山。そして、頭と足付きの冷凍ニワトリが入っていて、ニワトリと目が合った。
僕は料理が全く出来ないし、家族も日本に一時帰国していたため、途方に暮れた。
困った僕は、隣に住んでいる中国人家庭のドアをノックした。
「すいませーん。これ良かったら食べてくださいー」
併せて、生活物資の入手も困難な状況に陥った。
トイレットペーパーの在庫がなくなることを恐れて、普段なら3巻のところを1巻で使用した。サランラップの在庫もなくなっていった。一度使用したサランラップを水洗いして、洗濯バサミで挟んで干して再利用もした。
普段は当たり前の何でもないようなことが幸せだったと実感した。
次の日、ドアをノックする音。
ドアを開けると、「すいませーん。これ良かったら食べてくださいー」
隣に住んでいる中国人のおばちゃんが満面の笑顔で、りんごとバナナと手作り冷凍餃子を持ってきてくれた。
そこから、毎日のように物々交換が始まって、手作りの冷凍焼売や卵が余ったからと言って、届けに来てくれた。
僕は、毎週届く大量のチンゲンサイをおばちゃんに渡し続けた。
いつの間にか、おばちゃんとめちゃくちゃ仲良しになった。
こんな温かいやり取りは、僕とおばちゃんだけでなかった。
上海市当局からの要請で、僕らはPCR検査などの一斉連絡目的で、マンションごとにウィーチャットグループ(中国式LINE)の作成が義務付けられていた。僕のマンションでは134世帯が同じグループで繋がっていた。
グループチャットの中では、今日の料理を見せ合ったり、深夜に音がうるさいと喧嘩したり、食料の一斉配達の商売が始まったり、あちこちで温かい交流が始まっていた。中国人は協調性がない、と言われることもあるが、全くそんなことはなかった。
また別の日、ドアをノックする音。
ドアを開けると、「すいませーん。明日の夜19時からライブやるので参加してください」
とお誘いを受けた。
最初は状況が全く飲み込めなかったが、「子どもたちも含めてみんなが部屋の外に出れなくてストレスが溜まっているので、マンションの住人全員がベランダに出て、みんなで一緒に大声で歌を歌ってしまおう」、という企画らしい。
翌日、ベランダに出てみると、大音量で流れるマイケルジャクソンのWe are the worldに併せて、無数のペンライトがキラキラと輝いて、マンション全体がライブハウスのようだった。
一見、大人も子どももみんなが大声で絶叫している異様な光景だが、
僕にとっては一体感と多幸感に溢れた空間だった。
会社の同僚にも聞くと、こんなやり取りが、上海のほとんどのマンションで行われたらしい。
余談だが、1週間に1回の上海市政府による食料支給の中身は、マンションごとに頻度や中身が違うことが問題になった。
隣のマンションの食料支給の頻度は、2週間に1回しかなかったが、その隣のマンションは1週間に2回も来たなど。また、食料支給の中身も、あるマンションは牛肉が入っているが、また別のマンションでは野菜ばかりなど、住んでいる地域やマンションでバラツキがあることが分かり、市民たちが怒りまくった。
中国の皆さんの情報収集能力と自分たちの意見をはっきりと主張する力の強さを実感した。
コロナが落ち着いて街を出歩けるようになったある日。
ふと不動産屋の前を通ると、こんな張り紙が書いてあった。
「このマンションは、ロックダウン時の食料支給の頻度や内容が充実しています」
中国の皆さんの逞しさを実感した。
最初は罰ゲームと思って始まった上海ロックダウンだったが、
終わった頃には、中国の皆さんのことを好きになっていた。
「人生良い時もあれば悪い時もある」という考え方ではなく、
「起こる出来事の全てをポジティブに上書き保存していく」方が幸せになれる気がした。
***
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