広目天と村上宗隆選手
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記事:mopa(ライティング・ゼミ4月コース)
先日のWBC侍ジャパンの試合、最後まで楽しく応援しました。
普段は野球をまったく見ない「にわかファン」の私。大谷、ダルビッシュ、ろうき君くらいの名前は知っていました。新しく覚えたのは、村上君、源ちゃん、そしてヌートバー。
みんな楽しそうで、野球の神様ってほんとにいるんだな、って感じる大会でした。
あの試合中、ずっと苦しそうだった村上宗隆選手。普段の様子とはまったく違うそうですが、私は思い入れがないので、別のことが気になって仕方ありません。
バッターボックスから相手投手を睨む、そのお顔。画面のこちらから見ていると、どうしてもそっくりな仏像が浮かんできて仕方がない。
どの仏像だっけ……。
東大寺の戒壇堂、四天王のメンバー、広目天像。あれですよ、あれ。国宝です。天平彫刻の傑作として名高い仏像で、奈良時代に粘土で造られているんですよ。よくぞこの時代まで、崩れずに残されました。
広目天は、西の方位を守るガードマンで、眷属に龍王を従えます。あらゆるものを見通す能力が広目天のスキル。「特殊な眼を持つもの」という意味のサンスクリット語から「広目」という漢字が当てられました。
敵を見張るだけでなく、観賞する私たちの心の中をも、お見通しのはず。そうしながら、真実を見抜くための知恵を、私たちに授けてくれます。まさに、心の眼で観ているんですね。
四天王とは守護神ですから、仏様をお守りするのが役目です。そして同時に仏法の教えも守ります。広目天は筆と巻物を手に持ち、メモをとるのもお仕事。千里眼によって見極めた事象を記録して、報告する役割を担うんですって。閻魔帳かもしれません。武具は持たないインテリジェンス。そのあたり、村上選手はどうなんでしょうか。気になります。
ちなみに4柱のうち、武具を手にしているのは、東の持国天と南の増長天。激しくお怒りの形相なので、他の2柱の冷静さがさらに際立ちます。
最後に、北を守る多聞天は、別名「毘沙門天」。四天王の中でも最強ですから、リーダーはこの神。別枠で七福神のメンバーとしても活動されています。
広目天のまなざしには凄みがあり、見ていると震えあがりそうですが、これが村上選手の構えて立ち向かう眼に、そっくり。奈良時代にもそうやって、なにかに心血を注いだ人達がいたのでしょうね。もしくは、造った仏師の中にその気迫が息づいていたのか。そう思うと、今も昔も気迫というものには違いがありません。
さて、こうして広目天について考えていたら、思い出しました。フィギアスケート金メダリストの真央ちゃん。浅田真央さん。
そういえば、あの人は菩薩です。弥勒と書いてミロク。真央と書いてマオ。真央菩薩。
菩薩像はみんな女性的で柔らかいので、その中からひとつ挙げるとすれば、やはり国内最初の国宝、「宝冠弥勒」でしょうか。足を組んで座り、指を頬に添えて、微笑みながら思索する像。京都の広隆寺に行くと参拝できます。7世紀の制作で、一本の木から造られた像ですから、高さは120㎝ほどしかありません。対面すると、あんがい小さく感じる仏像です。
弥勒菩薩とは、未来に訪れる神なんですよ。将来、仏になることを約束された未来の仏。今はまだ、悟りを開いてはおらず、修行中。苦しむ人々を救うため、日夜、西へ東へと駆け回っておられるのが菩薩です。修行中という点では私と同じと思うと、親近感を持ってしまうけど、溢れるその母性、慈しみには心が静まり、圧倒的な安心感に包まれます。優しい。そして、美しい。
真央ちゃんも、きっとたくさんの苦い味を飲み込みながら、昇華してきただろう。素晴らしい人。かっこいいな。
そんな風に仏像写真に吸い込まれそうになっていた折、もう一件、面白い写真がSNSに流れてきました。機関車トーマスに出てくる運転手(人間)が源田選手にそっくりなんだって。並べて見てみると、確かにそっくり。生き写し。素朴な顔に、赤みのあるほっぺ。これはたまらん。
源田選手の華麗なグラブさばきには、野球に疎い私でも胸がときめきました。画面にはキラキラとしたエフェクトがかかっていましたもん。なんと、奥様は元乃木坂46。やっぱりあのキラキラは嘘じゃない。本物です。
大会中に右小指を骨折しながらも強行出場し続けましたが、それについて、栗山監督のインタビューを見ました。ケガを悪化させてはいけない、という迷いの中、本人の強い希望が後押しになったと。本人からは「出るのが当然」という意志を受け取ったとおっしゃっていました。
そういえば、村上選手も劇的サヨナラツーランの直前、走ってきたコーチに対して「なにしに来たんだ」と睨みつけたとのこと。代打やバントの選択肢もある場面だったのにも関わらず、「お前に任せた、思いきり行ってこい!」と伝えるために、走って来たのに(笑)。
オールスターの世界大会とは、そういうものです。気迫に満ちて試合に向かう姿を伝え聞くと、その影にある努力の量を想います。実現させるためにどれだけの練習を重ねてきたのでしょうか。想いを叶えるために、どれだけの技術を磨いてきたのでしょうか。
私は子どもたちに絵や工作を教える仕事をしていますが、最近はなにごとも無理強いを避けることから、どうしても安全で安心な道を提示します。もういいよ、無理しないでね、よくやったね、偉かったね、って。どちらかというと、菩薩寄りの対応です。
プロのアスリート達が持つ、気迫や負けん気は、泣く子も黙る説得力があります。たまにはそんな姿を身近で見せてあげられると、いい刺激になるかな、なんて思いました。いきなり広目天のまなざしで見つめたら、みんな怯えるだけかもしれませんが(笑)。
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