おいしいご飯の記憶は経験の中に生き続ける
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:飯髙裕子(ライティング実践教室)
蓋を開けると、湯気の中につやつやと光る白いご飯。お米が立って本当においしそうだ。
そんなご飯を見て食べた人は、おそらくその味が忘れられないだろうと思う。
日本人は、お米を食べてきた民族であり、今でもご飯が好きな人も多い。
けれど、60年ほど前と比べると、その消費量は半分くらいまで減っているようである。
手間のかからないパンや麺類に移行しているというデータもあるくらいだ。
そんなお米を見直すべく、ご飯としてだけでなく、米粉だったり、お米の加工品なども見直されてきている。
そんなご飯を私が初めて炊いたのは、小学校の頃だった。
うちでは、母がずっと使っていた羽釜でご飯を炊いていた。
土星のように釜の真ん中に羽が付いていて、蓋は下駄をさかさまにしたような分厚い板でできている。
昭和のレトロな調理器具としてよく知られているのではないかと思う。
今のようにタイマーで炊飯の予約ができる炊飯器もなく、家にいなければご飯を炊くことができないので、母が出かけて遅くなる時はご飯くらい炊いておいてねと私がその役割を担うことになったのであった。
その頃炊飯器がなかったわけではないけれど、今ほど普及していなかったし、父はご飯の味にこだわっていたので、母も昔からの炊き方を実践していたのだろうと思う。
さすがにかまどではなくガス火ではあったが、直火で炊くご飯が一番おいしいのは、今も変わらないようだ。
高温で、加熱することによってお米の対流を促し、全てのお米がふっくらと芯まで炊き上がることができるからだという。
けれど、そんな羽釜で炊くご飯は、小学生の私にとって、最初はどきどきするような代物だった。
母に教えられたとおりにお米を研ぎ、水加減をして火にかける。
沸騰してきたら火を弱めて大体の時間と音にも気を付けないといけなかった。
水が早めに無くなって、焦げ付いてきたらピリピリと音がするのである。
そうなる前に火を止めなければならなかった。
実を言うと、それで少しご飯が焦げ付くことは何回かあった。でも、そのおこげが私は結構好きだった。
香ばしい香りと少しカリッとなった味わいもまた直火で炊いたご飯ならではの副産物であった。
火を止めて、少し蒸らした後にふたを開けると、つやつやのカニ穴と呼ばれる空気穴ができて、何ともおいしそうなご飯が目に入る。
何回かやっているうちにご飯を炊くことは私の役割分担の一つとなっていた。
母に認められたようで、ちょっと嬉しかった記憶が蘇る。
この経験が私の役に立ったのは、それからそんなに先のことではなかった。
小学校で、行った林間学校では、その頃たいていカレーを作った。
野外でグループに分かれて分担しながらカレーを作るのだ。
その時飯盒でご飯を炊くのだが、私はその役を買って出た。
普段からご飯なら炊けるという自信がきっと胸の内にあったんだなと思う。
羽釜とは勝手が違ったけれど、手順としてはそう変わらないはずだった。洗ったお米と、水加減、あとは火の調節だ。
いくらいつもやっているとはいっても、やはり火からおろした飯盒のふたを開けるまでは気が気ではなかった。失敗したら、夕飯が台無しだ。
けれど、蒸らした後にふたを開けると、そこにはいつものようにつやつやの白いご飯が現れてホッとした。友達と食べるご飯は格別の味になった。
初めてのことは、誰にでもあって、最初の一歩は結構ドキドキするけれど、そのドキドキは、やがて自分の中に積み重なって、経験となり自信になる。
ほんの小さなことでも自分でできたことは大切なその人の隠し味になる。
たくさんの初めてを経験することで、人生が豊かになるとすれば、それはチャンスがあればぜひともやってみたほうがいいのではないかと思っている。
ずいぶん昔に経験したことも体が覚えて自分のものになったらしめたもの。
現にその良さが忘れられなくて、うちには炊飯器がない。
羽釜はないけれど、もう少し手軽な鍋でご飯を炊いている。
おいしいご飯があったら、実はおかずはそんなに手間のかかるものがたくさんなくても十分満足できるものだなという気がする。
今は性能のいい炊飯器がたくさん出ているし、おいしいご飯が炊けるようになっているけれど、どんな所でも火があればご飯が炊けるという安心感が一番のメリットかなと思えるのだ。
お鍋で炊くご飯は蒸らす時間も入れて30分ほどなので、時間がない忙しい方でもおかずを作っている間に出来上がるのである。
おいしいご飯を食べてみたいと思ったら試してみてはいかがだろう。
お鍋で炊くご飯を食べた人の9割がおいしいと感じたというデータもあるくらいなので、間違いないのではないだろうか……。
***
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
お問い合わせ
■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム
■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
■天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)
■天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
■天狼院書店「京都天狼院」
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00
■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」
〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168
■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」
〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325