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上司に教えてもらった、アルバイトを辞めさせない方法

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ハタナカ(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
私は新卒で飲食業に就いた。 なお飲食はアルバイトすら未経験である。
何故入ったかというと面接で1番話が合ったし、社風も凄く良かったのだ。
 
「でも私、飲食全く経験なくてやっていけるかどうか……」
「いやいや、あなたはうちの会社に向いていると思う! あなたみたいな考え方出来る人が、もっとうちの会社には必要だから」
 
面接でそんな風におだてられて、いいなと思って入った。
……しかし入社すると一転、めちゃくちゃ大変だった。
私の入った事業部は売れてる上に毎日の営業がとにかく忙しく、ホールとキッチンに加えて事務仕事を覚えるので精一杯で、何も分からなかった。
しかも最初の配属先の上司がパワハラ&ブラック。 何を言っても通じず、怒鳴られながら休日も仕事をしてきた。
 
あ、入る会社間違えたな。
 
メンタルは半年で壊れた。 無事休職した。
そして1ヶ月後、別の店舗で復帰した。 もう次の店舗もめちゃくちゃだったら賞与だけ貰って辞めようと心に誓って。
そこの上司、すなわち店長は同い年でありながらアルバイトからずっと働いており、社歴は10年経ってきた。
体力があり、仕事ができ、頭も良く、何よりちゃんと教育をしてくれる…………あれ、めちゃくちゃまともな上司じゃん? となかなか驚いた。
 
「俺の前で勤務外労働なんて絶対許さないからな!」
 
癖で休憩中や退勤後に何か雑務をしようとする私をふざけ半分ガチ半分でいつも声かけしてくれた。
おかげで麻痺してた私の感覚も段々戻すことができた。
ヤケクソみたいに復帰したが、あまりの環境の違いに肩透かししたレベルだった。
 
そんな上司が何より誇りにしていたこと、それは「俺が店長でいる限り、アルバイトが辞めることはほとんどない」ということだ。
 
実際、その店のアルバイトは本当に途中で辞めない。 激務な上に時給も安くはないが特別高いわけでもなく、ほとんどがモチベーションも高くない小遣い稼ぎの学生なのに。 前の店舗も人集めでは相当苦労していたのに。
私が在籍中、合計で80人程度のアルバイトと出会ったと思うが、卒業や引っ越し等のやむを得ない事情以外で辞めた人は本当に数人程度だった。
 
しかし特別なことはしていない。
上司が私に「俺の部下ならアルバイトを大事にしろ」と言いながら私にさせていたのはこんなことだ。
 
アルバイトが出勤したら社員から挨拶に行く。
アルバイトが退勤の時も必ず一人一人に「お疲れ様」と言う。
初めてやらせる仕事をトレーニングする時、なかでも新人には慣れるまでは付きっきりで指導する。 (自分が無理なら教育係をきっちりつける)
トレーニングが終わったらフィードバックの時間を設ける。
提示した条件から外れた仕事はさせない。
 
……などなど。
 
また、その上司は面談なんかやる上司は俺からしたらダメだと評していた。 「どうしてですか?」と聞くとこう答えた。
 
「だって面談する時間を作らなきゃ話せないほど、普段コミュニケーション取ってないってことやろ?」
 
……なるほど。
確かにそうだ。 そうだけど、言うのは簡単、しかし実行するのは中々大変なことだ。 だってアルバイトは50人以上いるんだから。
しかしこの上司は本当にやる。 実際上司は休憩中も仕事の合間もどの人にも声かけを欠かさない。 そして恋愛やら仲の良し悪しやら、大所帯だからこそ生まれる人間関係のアレコレもほとんど把握していた。
そして仕事が終わればしょっちゅうアルバイトとご飯に行っていた。 それもかしこまった感じではなく、大体取り止めもない話をしにファーストフード店くらいに寄っていた。 多少仲良しメンツが固定されてるものの、それでも分け隔てなく接していた。
挨拶だってそうだ。 万が一退勤を見逃してたらわざわざ休憩室まで走って「お疲れ様」を言いに行く。 その姿を何度も見た。 店長業務は大変なのに、そうした心配りを欠かさない人だった。
 
しかし飲食アルバイトの経験がない私には、どうしてこれでアルバイトが辞めないのか分からなかった。
確かにどれも大事なことだとは分かる。 でも、それで辞めないのは上司の仕事の実力と、性格も大いに関係している気がしていた。
感性も実年齢も若いというのはあると思うが、あっけらかんとしつつも仕事には熱く、そして少しも偉そうぶらない上司は本当にアルバイトから慕われていた。
勿論上司に言われたことはきっちりやった。 それでも、アルバイトが辞めないのは私じゃなく上司の力がほとんどだろうと思っていた。
 
私は沢山教育してもらって随分成長した。 職場は大変だったが、それでもやっていけそうと思えるまでになれた。
だからこそ、退社する話を持ちかける時は申し訳なさでいっぱいだった。
その上司のもとで8ヶ月経った頃、結婚を見据えての、実質的な寿退社をした。
こんなに良くしてもらったのに不義理なことをしてしまった、そんな気持ちが募りに募って最後の1日は上司の顔を見ただけでぽろぽろ泣いてしまい、上司には「やめてよ何で俺を見て泣くのよ」と笑われた。
 
そうして退職後、私は全く別の飲食業でアルバイトを始め、そこがなかなかキツくて大変だった。
そしてさらに約半年後、またもう一つ飲食のアルバイトを始めた。 そちらは社員でやっていた頃の仕事に近く、条件が色々と自身の都合に良い為、前者のバイトを辞めようかなと最近検討している。
 
そんな辞めようかと考え始めた中で、ふと前職の上司が教えてもらったことを思い出した。
 
社員から挨拶する、新しい仕事をやらせる時のトレーニングは付きっきりでやる……そこまでのことを、私は両方のバイトで特にされていない。
 
自分がアルバイトとして働くようになって分かったことがある。
特に新人のうちは周りが知らない人ばかりで、仕事も出来ない自分自身について、本当に不安なのだ。
でもたった一言でも気遣いの声をかけてもらえれば随分楽になる。
仕事をしてて上手くいかなくても、フォローしてくれる人が側にいてくれるだけで安心感が違う。
そして仮に私が退勤した時、社員が私に「お疲れ様」を言う為だけにわざわざ来てくれたら、それだけでここでやっていけると思えるだろう。 それこそ多少条件が合わなくなっても不満があっても、前者のアルバイトを辞めようとはなっていなかったと思う。
勿論そうしたことを社員がしないからダメな職場だとは全く思っていない。 それらは本当に手間のかかることだと、社員だった私は知っているから。
ただ、上司が「アルバイトを大事にしろ」と私にやらせていたことの意味を、自分がアルバイトの立場になった今になってようやく理解出来るようになっている。
 
私が正社員として働いたのはたった1年半程度で、身につけたスキルは少ない。
それでも挨拶やコミュニケーションといった、とても基本的で、だからこそ見落としがちなことの重要性に気づけたのは大きいと思っている。
 
 
 
 
***
 
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2023-04-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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