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「あなた」を曖昧なまま捉えることで。

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:まつもとみう(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
多様な考え方を持った「他者」を尊重し合う社会を目指したいと、真剣に思っている。
でも、数分後に街に出ると、その考えはポロポロと崩れていく。
自転車のベルをやたらと鳴らす人、車の窓から火種のついたままのタバコを捨てる人、駅で歩いている時にぶつかってくる人、そんな人たちにイラっとし、他者なんて全く受け入れられない気持ちになる。
 
概念上の他者なら愛せるのに、現実の、目の前の他者はそうはいかない。
すれちがっただけの人に対して、大きな苛立ちを感じてしまうこともある。
その矛盾が、喉に刺さった小骨のように心に引っかかっていた。
 
嫌だなぁと思う人に出会ったとき、私はいつも、その人が地球に誕生した瞬間に思いを馳せる。
駅で明らかに、わざとぶつかってくるおじさん。
瞬間的に生まれる嫌悪感を打ち消すように、目を閉じて時間を巻き戻す……。
 
きっと、彼がおぎゃあと産声をあげてこの世に誕生した時、母親はさぞ嬉しかっただろう。
看護師さんは「おめでとうございます、元気な男の子ですよ」と声をかける。
父親は涙ぐみ、祖父母は待合室で声を聞き、安堵の表情を浮かべただろう。
いろんな経験をして大人になった彼は今、何か辛いことがあるのかもしれない。
会社で理不尽に怒られたのかもしれないし、娘から無視され続けているのかもしれないし、妻から離婚を言い渡されたのかもしれない。
そんな苛立ちを、「若く弱そうな女」である私に、ぶつけたくなったのかもしれない。
 
でも、もしその人が、同じように私のことを想像していてくれたなら。
私は生まれた時から髪の毛がフサフサだったので周囲を驚かせたりした。
言葉をすぐに覚え、誰にでもすぐに話しかけに行く赤ちゃんだった。
初めて挫折したのは小学校四年生のときのそろばんの授業だった。
いろんな経験をして大人になって、社会人として必死に働いている。
 
私は決して「若く弱い女」という側面だけでは語りつくせない。
歴史があり、様々な人と繋がってきた、多面的な存在だ。
そんな「私」として捉えてくれていたなら、その人は私にぶつかってきただろうか?
 
人が人を見る時、その一瞬、一面としか関わることができない。
嫌なことをされたら、「嫌な人だ」と思ってしまうし、初対面で優しくされただけで「いい人だ」と思ってしまう。
決めつけたくない、と思っていても、なかなか難しい。
 
よくわからない曖昧なものを曖昧なまま受け入れる訓練を、私たちはあまりしていないと思う。
「1+1=2である」
「この時の登場人物の感情はこうである」
子供のころ、私たちの前に出される問題には、ほぼ全てに1つの答えが用意されていた。
2ではないかもしれない1+1について、そうではないかもしれない登場人物の気持ちについて、考える時間は用意されていなかった。
他者に対しても、要するにこの人はこういう人だ、という答えがある状態に、私たちは安心してしまう。
 
でも、片手で持てるようなわかりやすい言葉で表した他者は、そう呼んだ瞬間、中身が失われるように思える。
女は、男は、外国人は、若者は、年寄りは、フェミニストは、ネトウヨは……。
これらの言葉は、一体、彼らの本質の何を表すことができているんだろうか?
 
街を歩いている時、選挙ポスターを見つけるだけで、嫌だなと思ってしまう政党がある。
ニュースで報道されている政策や発言が全く受け入れられず、嫌悪感で心がいっぱいになるのだ。
でも、「見るだけで嫌」という感情は人と人との間に断絶をもたらすだろう。
だから、「嫌い」から一歩進んで「批判」するために、私は知らなければならない。
ニュースで見るだけじゃない背景や根拠を知って、考えて、批判する部分は批判したい。
政党というラベリングされた他者ではなく、その人が政治に携わる本質を見たい。
「要するに」を捨て去って「あなた自身」をわかろうとすることは、難しい。
 
誰もが多様性を認め、尊重しあえる社会。
大きな言葉で語られる理想の社会は、とても美しい。
そんな社会を実現するためには、一面的に他者を見る思考から、抜け出さなければいけないと思う。
 
小さな、ひとりひとりの、立体的な「あなた」を尊重すること。
目の前の他者を、概念にせずラベリングせず、唯一の「あなた」として見ること。
そのような見方は難しく、人はどうしても決めつけてしまう。100パーセント実現することは夢物語かもしれない。
でも、その積み重ねこそが、「他者」を尊重し合う社会の実現に繋がると信じて、忘れないでいたいと思うのだ。
 
 
 
 
***
 
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