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好きな人の好きな人は、僕の友達だった


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:都宮将太(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
メールの着信音が鳴った。
同時に制服のポケットから振動が伝わってきた。
 
日曜日の夕方、部活が終わり、部員同士で雑談をしている最中だった。当時はガラケーを使っていたため、ワンプッシュで携帯を開く。そこには「新着メール1件」と表示されていた。
メールの差出人と本文を見て、僕の心臓が跳ねた。相手は、僕の好きな人だった。
 
「明日、学校終わって時間ある?」
 
この時、僕の気持ちが想像できるだろうか?
「え? まさか告白される?」
「手紙を渡されるのか?」
「付き合ったら、この場にいる部員全員に自慢してやろう」
「相手が緊張して告白の言葉が出なかったら、その時は僕から告白しよう。なんと言ったらカッコいいだろうか?」
今こうして文章を書いていても恥ずかしくなる。この言葉たちが一瞬で浮かんできた。しかも、当時17歳、高校二年生だった僕は本気でそう思っていた。
 
メールの答えなど、悩む余地はない。
「時間あるよ! どうしたと?」と、こちらの緊張がバレないよう、あえてシンプルな文章を打ち込んだ。だが緊張して「送信」ボタンが中々押せない。さらにガラケーの時は、メールの送信ボタンを押しても、実際に送信されるまで2~3秒かかる。その間に、「送信取消」のボタンを押してしまう。そして未送信ボックスに移動したメールを再び送信。そしてまた送信取消。このやりとりを30分以上繰り返した。
最後は、送信取消のボタンを押さぬよう、送信ボタンを押して携帯を放り投げた。これで送信されたはずだ!
 
送信を無事完了した後も大変だった。
「絵文字を使った方がよかったか?」
「もうし時間を空けて返信した方がよかったか?」
そんな余計な考えが浮かんでくる。しかし、そんな駆け引きなど僕にはできない。
 
メールを送信してしばらくすると、彼女から返信が来た。返信を待っている間、何度「メール受信」のボタンを押したか分からない。
何通かのやりとりを交わした後、翌日の学校終わりに、少し離れた駅にあるファーストフード店で会うことにした。
この時点で、僕のテンションは最高潮だった! その日は終始ソワソワしており、夜もほとんど寝ていない。にもかかわらず、翌朝は目覚まし時計が鳴る前には起きていた。目覚めもいいし、まさに最高の朝だ。
 
自転車での通学途中、信号待ちの時間で携帯を見る。そこには彼女からメールが届いていた。
「おはよう! 今日よろしくね!」
確かこんな文面に、可愛い絵文字が入っていたと思う。文面を正確に覚えていないが、僕のテンションが更に上がったことは鮮明に覚えている。
 
彼女との出会いは、高校一年生の時、中間試験で赤点の者だけが行う追試の会場だった。内向的な僕でも臆せずに楽しく会話ができる。加えて終始笑顔でいてくれる。その笑顔もまた可愛かった。追試になってよかった。本気でそう思えた。
「付き合ったらどこに行こうか?」
「毎日メールするのだろうか?」
ショッピングセンターで制服デートをする二人の姿が想像できた。いや、妄想に近いかもしれない。
そんな妄想をしながら自転車に乗っていた時、一つ、重大な問題に気づいた。正確には昨日から気づいていたが、考えるのを後回しにしていた。さすがにそろそろ手を打たないといけない。そう思った。
学校終わりに会うということは、つまり、部活をサボるということだ。部活動生にとって、部活をサボるというのはかなりハードルが高い。好きな人と会うので休みます。なんて口が裂けても言えなかった。
迷った挙句、伝家の宝刀「仮病」を使った。部活をサボったのは三年間で、今回が初めてだった。
 
「ありがとうございました」
今日、最後の授業終わりを示すチャイムが鳴ると、教団に立つ教師が言った。
ついに来た。僕の緊張は昼休みから徐々に高まっていき、最後の授業が終わったことで、緊張はピークに達した。
仮病を使っていたため、学校の門を出るまでは体調不良を装い、そこからは浮かれ気分で彼女との待ち合わせ場所に向かった。彼女も部活に所属しており、最低限の予定を終わらせてから向かう。と言われたため、現地での待ち合わせとなった。
先にお店に入った僕の数十分後に彼女はやって来た。
「ごめんね。遅くなって」という彼女の言葉から、しばらくは雑談が続いた。楽しかった。付き合えたら毎日この状況を楽しめるのかと考えたらワクワクした。
しかし……。彼女の次の一言で、僕は現実に引き戻されることになる。
 
「A君かっこいいよね」
 
一瞬言葉が詰まる。どう言葉を返していいか分からかった。雑談の続きなのか、本気でそう言っているのか、区別がついていなかった。
A君というのは、僕と同じ部活に所属する同級生。僕と彼女、そしてA君はそれぞれクラスが違う。
そこからさらに話しが進む。
 
「A君、彼女いるのかな?」
A君について一通り話したあと、彼女が切り出した。
ここまで言われたら僕も気づく。
彼女はA君が好きなのだ……。僕とA君が同じ部活で仲もよかったため、彼女も僕に言いやすかったのだろう。
ショックだった。胸の奥が締め付けられる、そんな感覚だ。
彼女もA君の話し切り出すのが恥ずかしかったのか、一度話しを始めると、そこから話題の中心はA君だった。僕は、落ち込んでいる気持ちを隠すように平静を保つので必死だった。
A君に彼女がいないのは知っていたため、そのことを教える。
それからまたしばらく雑談をして、お店を出た。
 
お店を出てから家に帰るまでの記憶がほとんどない。気づいたら家に帰っていた。そんな感じだ。昨日の同じ時間帯とはテンションに天地の違いがある。そう思うと急に恥ずかしくなり、胸が締め付けられる感じがした。
僕は二日連続で眠れなかった。
 
 
「A君に告白する」
数日後、彼女からそう切り出されたが、僕は知っていた……。先日、A君から部活に遅れる日があると聞かされた。その理由を尋ねたところ、彼女に放課後会ってほしいと言われたそうだ。
「なんか知っとる?」A君に聞かれたが、「知らん」と僕は答えた。
 
 
それから数日後、ついにこの日が来てしまった。彼女がA君に告白する日、A君は部活に遅れてやってきた。「どうだった?」今すぐにでも聞きたい気持ちを必死に堪える。A君から言われるのを待っていた。
結局その日は、A君からその話題が出ることはなかった。モヤモヤしていたが、いざ聞こうと思うと勇気が出なかった。それに……。もし付き合っていたらすぐに報告するだろう。そうも思った。
 
 
部活が終わっての帰り道、ポケットから携帯の振動が伝わってきた。僕は自転車を止め、携帯を開く。彼女からのメールだった。
 
「振られたけど、スッキリした。ありがとう。A君から何か聞いた?」
 
振られた……。ということは、振ったのか……。
彼女とA君の顔が同時に浮かんだ。明日会ったら何を話そう。A君は、彼女が僕に相談をしているのを知っているのだろうか? それすらも分からない。
僕が告白したわけではないが、この日、高校二年生で初めての失恋を経験した。
悲しい。辛い。嬉しい。悔しい。全てが入り混じったような感情が、僕の心を埋め尽くしていった。
 
 
 
 
***
 
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2023-04-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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