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45歳女子、アイドルと友達になる


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記事:赤羽かなえ(ライティング実践教室)
 
 
人生って何が起こるかわからない。
 
45歳にして、新しい出会いがあった。
 
アイドルと友達になったのである。
 
3月の初めころ、高校時代の同級生から突然連絡が来た。
 
『娘がね、広島に行くの。周りに頼れる人がいないからよかったら気にかけてあげてくれない?』
 
という内容だった。うちの子ども達はまだ小さいから、家から出るということはもう少しないけど、同級生の子がもう一人立ちして1000キロも離れた広島に来るといったら、母の気持ちはいかばかりのものなのか。なんとか同級生が安心できるといいなと思い、
 
「もちろん、遠慮なく頼って」
 
と返事をした。引っ越しの時にこちらに来るから、娘さんとの顔合わせもかねて会おう、ということになった。
 
「ところで娘ちゃんは、就職するの? それとも学生さん?」
 
「そうだな……就職っていうことになるのかな」
 
友達の返信が妙に歯切れが悪いのがなんとなく引っかかっていたのだけど、その理由は、会ってからわかった。
 
約束した日は、デパートの上階にあるレストランで待ち合わせをした。約30年ぶりに会った友人は高校生のころと変わっていなくて、気持ちだけ高校生に戻った気分になり、思わずはしゃいだ声を上げてしまった。
 
彼女は、2人の娘さんを連れていて、上のYちゃんが広島に住むんだと紹介してくれた。髪の毛は腰くらいまでのストレートで天使の輪が光っている。さすがについ最近までJKだっただけあって若い。顔も小さくてマスクをつけていない部分のほとんどが目なんじゃないかというくらいぱっちりとしていて、こちらを静かに見つめていた。
 
お人形さんみたいな子だな……。そう思いながら自己紹介をした。
 
「この間は、はっきりと言えなくてごめんね、情報解禁日があって」
 
友人が唐突に聞きなれないことを言うので、思わず「情報解禁日?」と聞き返した。
 
「そうなの、うちの子アイドルになることになって」
 
「……へえー」
 
なんだか、エライ間の抜けた返事をしてしまい、恥ずかしくなる。どうりで、お人形さんみたいにかわいらしいし、きちんと手入れしているんだな。
 
まじまじと見るのも申し訳ないけれど、とにかくアイドルを近くに見たことがないから、好奇心の方が勝ってしまって、そこからは、Yちゃんを質問攻めにしてしまった。
 
「どうしてアイドルになろうと思ったの?」「アイドルってどうやったらなれるの?」「これから、毎日何をするの?」「デビューはいつ?」
 
まだ、ちゃんと活動をしていない時だったから、よくわからない、ということも多かったけれど、ひとつひとつに丁寧に答えてくれて、とても好感がもてた。
 
また会おうねとYちゃんと約束して、友人には、彼女が心細い時には駆けつけるから大丈夫だよ、と声をかけてその日は別れた。
 
春休みでバタバタしていたのがひと段落すると、Yちゃんのことが気になった。仕事だからしょっちゅう誘うって言うのも迷惑だろうけど、寂しくしてないだろうかと連絡してみたら、たまたま次の日がお休みだという。
 
じゃあ、おでかけしようか、と誘って、広島の観光地宮島に一緒に行くことにした。
 
我が家の子ども達を連れて行くと、Yちゃんは小さい子が好きらしく3人が姉妹のように仲良く歩いているのを見て、こちらもほっこりした。
 
「ねえ、なんで、アイドルになったの? 他に得意なことはなかったの?」
 
長女がそんな風に聞くと、Yちゃんは、
 
「絵を描くのが好きだよ。でもね、アイドルはいつでも辞められるの。だからやれることはやっておきたいなって思って」
 
と答える。私も思わず、
 
「やりたいことをやれるのって素敵だね。私もね、小説書きたくて今でも書いているんだ」
 
と言った。するとYちゃんは、
 
「やりたいことがあったら、やれるときからやった方がいいって思ってます。だから、年齢とか関係なくやりたいことしているのっていいですね」
 
そんな風に返してくれた。線も細くて頼りなさげに見える目の奥に強い光を感じた。
 
私が20歳前後の頃ってそんな風に思えなかったので心から羨ましかった。いつも間違えのない答えばかり探していた気がするなあ、私。やりたいことよりも、できること、堅実そうなことばかり探していたからいつだってなんだか物足りなかった。
 
今でこそ好きな小説も書いていたりするけど、その当時は、小説を書くなんて小説家になれるわけでもないのに、と決めつけてしまって、ハナから逃げ出していた。だから、Yちゃんの言葉はとてもすがすがしかった。
 
アイドルだって簡単な世界ではない。きっと一握りしか大成しないだろうから無駄なんじゃないか……ついそんな風に見てしまうけれど、単身広島にやってきて、できるところまでやってみようとチャレンジするYちゃんは強い。友人の子どもだからではなく、心から応援したいな、と思った瞬間だった。
 
人生一度きりしかない。私はいつから安定ばかり求めて、やりたいことよりもできることを優先させるようになってしまったんだろう。それが悪いというわけではもちろんないけど、これからはできることだけでなく、チャレンジもしていけるといいな。
 
Yちゃんのひたすら前を向いて進もうとしている姿がとてもまぶしくカッコよくみえた。
 
 
 
 
***
 
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2023-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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