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陰キャラでぶっ飛んだ彼を好きになったワケ


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記事:平井 理心(ライティング実践教室)
 
 
彼の第一印象は、地味、根暗。そのうえ奇怪な行動をする変な人。お友だちにはなれないタイプだと思った。その彼の名は、宮沢賢治。
 
彼との出会いは、私が小学生の頃。自宅の本棚にあった彼の伝記を読んだ。農業をしながら、多くの童話や詩を残した人。その作品は世界中で翻訳されているとのこと。でも彼は、父親と喧嘩し、実家を継がず、家出するし、仕事辞めるし、ニートになるし……。なんか、偉人って感じじゃない。さらに、お経を大声で唱えながら近所を歩きまわったり、月夜の晩に「ホホホホ―」と叫んでいたりというエピソードもあった。なんかハチャメチャな人だなぁ。小学生の私には理解不能な生き様だった。
 
そして、伝記の最後には詩『雨ニモマケズ』の全文が掲載されていた。
 
雨ニモマケズ
風ニモマケズ
(中略)
ホメラレモセズ
クニモサレズ
サウイフモノニ
ワタシハナリタイ
 
なんか暗い。そして重い。正直好きだとは思わなかった。この時は。
 
はじめての出会いからしばらくして、学校の図書室に宮沢賢治コーナーがあるのに目に入った。あの陰キャラでぶっ飛んだ人かぁと、思いながら彼の本を手に取った。『やまなし』という本だった。
 
クラムボンはわらったよ。
クラムボンはかぷかぷわらったよ。
クラムボンは跳ねてわらったよ。
クラムボンはかぷかぷわらったよ。
 
何これ? めっちゃ可愛いんですけど! 「クラムボン」という響きから、私はまんまるな蟹のような生物を想像した。本を読み終わってからも、しばらく私の頭の中はクラムボンが繁殖していた。
次は『風の又三郎』。冒頭が強烈だった。
 
どっどど どどうど どどうど どどう、
青いくるみもふきとばせ
すっぱいかりんも吹きとばせ
どっどど どどうど どどうど どどう
 
何これ? ヤバいんですけど! 音(オン)と鼓動が共鳴した。その日から、「どっどど どどうど」は、頭の中で鬼リピしていた。彼の言葉には中毒性があった。
 
さらに彼の作品を手に取った。電信柱が行進するユニークなお話もあったし、鉄道が宇宙を走る壮大なお話もあった。今思えば、イヤだと思った人の新たな一面が見られて、ギャップ萌えしていたんだなと思う。ひとりの作家の作品を続けて読むことは、それまでなかった。彼が初めてだった。
 
ある時、国語の授業で彼のことがでてきた。先生の「宮沢賢治の作品読んだことがある人は手をあげてください」に、私は左手をまっすぐあげた。あてられても臆することなく、私は彼の作品名をいくつもいくつもすらすら言った。それを受けての先生の言葉は、私の予想外だった。
「賢治のこと、好きなんですね」
えっ? 私、彼のこと好きなの? 最初の印象は最悪だったのに……。
その感情をなかなか認められなかった。彼は暗いし、変わり者だし。それに彼は私の友だちの中では知名度は低かった。その時の私は、なんだか彼を好きというのが恥ずかしかった。だから、私は友だちと話があう漫画とか小説を読むようになった。こうして、私の初恋はフェードアウトしていった。
 
そんな彼との再会は、10年以上たってから。20代で出産・子育ての真っ最中だった。
保育所に通う息子と娘は元気いっぱい。自宅でも騒がしかった。そんな子どもたちをおとなしくさせる為に、NHK教育テレビの子ども番組をつけていた。そこから流れてきた朗読は、懐かしい言葉だった。
 
どっどど どどうど どどうど どどう
 
子どもたちはきゃっきゃ言いながらおもしろがってその朗読を聞いていた。私は、胸をドキドキさせながら聞いていた。まるで小学校の同窓会で初恋の人に再開したように心臓が高鳴った。
それから、また彼の作品を読むようになった。子どもたちに読み聞かせをする形で。彼の作品はたくさん絵本になっていた。子どもたちは、目と耳と心を大きく開いて彼の世界に浸っていることが分かった。我が子と推し活を共有できることは至極の楽しみとなった。
 
また、彼にまつわる書籍もたくさん読んだ。
彼の人生をなぞりながら、自分の人生と合わせてみた。私も親に進路で喧嘩したこともあった。実家が嫌で大学進学を口実に家をでた。にもかかわらず親にはたくさん迷惑をかけた。なんだ、彼と変わらないじゃないか。彼のことを身近に感じた。
それに、子育ても仕事も、なかなか思いどおりにいかないことばかり。そんなとき、彼みたいに大声でお経を唱えたり、月夜の晩に叫んだりできたら、スカッとするのになぁと思った。彼が羨ましくなった。
 
私の人生経験が彼に追いついたのかな。ようやく、彼の事、わかるようになったのかな。
 
子育てをして、社会にでて、楽しいこともたくさんあるけど、悔しい思いもたくさんあった。人よりうまく子育てができなかったり、周りより成果を出すのが遅かったり……。小学生では経験しなかったことを、星の数ほど味わった。そしてこれからも味わっていくことを、知っている。
 
そんな私が、再び、『雨ニモマケズ』を読んでみた。
 
雨ニモマケズ
風ニモマケズ
 
あくまでも「マケズ」。勝つのではなく、負けない。ずぶぬれになってもいい。風に吹かれてもいい。まわりから、評価されなくてもいいんだよ。最後に負けなければいいじゃないか。したたかに生きようぜ。というメッセージに聞こえてきた。
……なんだ、カッコいいじゃないか。
 
今では、彼の作品を手に届く場所にたくさん置いてある。時間があれば読み返している。
そして私は、また彼に恋をする。
 
 
 
 
***
 
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