Gメンアズ子の事件簿 事件はフロアでおきている!
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:アズマヤミワ (ライティング・ゼミ4月コース)
「入れました! 脇の下にハンバーグ!」
スタッフに緊張感が走る午後12時20分。
ここはスーパーマーケットやショッピングモールではない。
私も万引きGメンではない。
事件現場はデイサービス。
デイサービスとは昼間に日帰りで高齢者が利用できる通所介護施設のことである。
私はそこで通所してくる高齢者の健康管理をしている看護師である。
そんな私は看護師業務と一緒に行うことが「Gメン業務」である。
これもれっきとした「健康管理」である。
デイサービスでは昼食やおやつを提供する。おやつに関しては個包装されて未開封のものであれば持ち帰ることは可能であるが昼食や開封後の食べ残しは衛生管理上持ち帰ることは禁止している。
戦中戦後を生き抜いた高齢者の方々は食べ物や物をとても大切にする。
学ぶべき精神ではある。
だから昼食で「胃袋」に入りきれなかったものをあの手この手で持ち帰ろうとする
ツワモノのがいる。Aさんだ。
Aさんはすごい!
本当にツワモノだ!
我々スタッフはAさんによって「Gメン力」を鍛えさせて頂いている。ありがとう。
Aさんが持ち帰ろうとするものは「メイン料理」である。
魚であったり肉であったり。
その中でも得意とする分野は「揚げ物」である。
汁も出ないから持ち帰りやすいのであろう。
これは数々の彼女との死闘の結果辿り着いた結果である。
だから揚げ物の日は要注意でありスタッフ間に緊張が走る。
「今日は魚フライなんで多分、入れると思います。至近距離で見守ってください」
「隠しました。今、入れ歯の包んであるティッシュに一緒に入ってます!」
「あ、左ポケットに入れたみたいです」
「あ、今、カバンに手をやっていたのでカバンに移動したかもです」
とにかくスタッフは他の利用者が安全に食事を行えているかの見守りをしながら彼女へのGメン活動も並行しないといけないのだ。
とにかく回収せねばならない!
Aさんは独り暮らしのため持ち帰って食べてしまい食中毒にでもなっては大変である!
スタッフ一致団結しての大捕り物である。
Aさんがトイレなどで席を外した瞬間にスタッフがカバンから回収するのがいつもの流れであった。
冒頭の一文の事件。
今までで一番の難事件かつ珍事であったことは言わずもがなである。
いつもの流れならポケットからカバンへ入れるのが常であった。
しかも今日は揚げ物ではなかったので油断してしまった!
この日、Aさんが選んだ隠し場所は「脇の下」であった。
初だ! 脇の下を隠し場所にしたのは!
小脇にセカンドバックは昭和のおじさんの定番スタイルであったが、
小脇に「ハンバーグ」はいつの時代においても「珍事」というにふさわしい出来事だ。
さぁ、さぁ、どうする!
スタッフの腕の見せ所である!
「ダメでした」
スタッフ1人ずつAさんにチャレンジしては撃沈しては戻ってくる。
あの手この手を試すがなかなか脇の下からハンバーグを出すことはできなかった。
「回収できました!」
一人のスタッフからの耳を疑う一文が飛び出したのだ!
「えっっ! どうやって?」
「私の置いていたパン知りませんか?って言ったら出してくれました」
何人ものスタッフが工夫を凝らした声掛けを繰り広げ撃沈したのに。
まさかの「私のパン知りませんか?」と斜め上を突き抜けた尋問を彼女はAさんに
投げかけ回収に成功したのである。
デイサービスでは様々な高齢者が日々利用している。
生い立ちも違うし過ごしてきた環境、時代背景等も違う。
介護する際にそれぞれの高齢者の疾患や日常生活動作状況にバックボーン。
そしてその人の個性等を理解し、安心安全に過ごして貰えるようにサービスを提供しなければならない。
日々、スタッフ間で情報共有しながらどの対応がその方に合っているのかどんな声掛けであれば受け入れてもらえるなど話し合いながら行っている。
Aさんの脇の下で保温されていたハンバーグは「私のパン知りませんか?」という
ウイットに富んだ尋問で見事、我々スタッフ陣の元に帰ってきたのだ。
つい先日。
お楽しみ昼食として近くの喫茶店で注文した箱入りのサンドイッチが提供された。
高齢者には多い量であり全部を食べきれなかった人が大多数であった。
もちろん残念ながら持ち帰ることは不可である。
もちろん、Aさんも例外なく食べ残した一人である。
彼女は半分を持ち帰ろうとせっせとティッシュに隠しているのを私、Gメンアズ子は見逃さなかった。
私の作戦はこうだった。
「残している分は箱に入れてデイサービスの冷蔵庫で預かり帰りに渡しますね」と説明するというものであった。
もちろん帰りに渡すわけはなく申し訳ないが処分させて頂くのだが。
Gメンアズ子は近づき、その旨を伝える。
Aさんはまさか持ち帰っていいと言われるなんて思いもよらないし、
ましてや箱に入れて堂々と持ち帰っていいと言われるなんて夢にも思わなかったのだろう。
鳩が豆鉄砲食らったような表情で私を数秒みつめ、ティッシュに隠していたサンドイッチを箱に詰め直した。
「お預かりしますね」
「結構です。ここに入れときますで」
今度は私が豆鉄砲を食らった。
冷蔵庫に預かり破棄予定だったサンドイッチを自分のシルバーカー(高齢者用手押し車)のかごの中に入れたのだ。
Aさんは難聴だ。ましてや都合耳傾向もある。
都合耳とは自分の都合のいい部分しか聞こえないという高齢者の必殺技である。
「冷蔵庫で預かります」という部分が「必殺! 都合耳」でかき消されたようだ。
そちらが「必殺技! 都合耳」を使うならば、
こちらは「必殺! アクエリアス」でいこうではないか!
「Aさん、アクエリアス飲みませんか?」
とスタッフにAさんの大好きなアクエリアスで気を引いてもらい
「ありがとうね、ありがとうね」とアクエリアスに気が向いている間にAさんの背後にまわりシルバーカーからサンドイッチを無事回収!
これが最近Gメンアズ子が編み出した「必殺! アクエリアス」である。
この必殺技もAさんをしっかり観察して編み出した技である。
その後、Aさんは何度もシルバーカーの中を首をかしげながら開けては閉め開けては閉めを繰り返していた。
暑い夏がやってくる。
Gメンアズ子は今日も健康管理の一環として「食中毒撲滅」のためにGメン活動に勤しむのだ。
もちろん好きなテレビ番組は「警察24時」である。
***
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
お問い合わせ
■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム
■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
■天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)
■天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
■天狼院書店「京都天狼院」
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00
■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」
〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168
■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」
〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325