メディアグランプリ

突然降り掛かった理不尽を誠意で切り抜けてみた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:イシヤマ(ライティング・ゼミスピード通信コース)
 
 
「なんかコラ、やんのかァ!」
「ええええ?」
場所は学童保育所が契約している駐車場。私は息子をスポーツ教室に連れていくために迎えに来たところだった。先を急いでいたのだ。そんなときに。
 
話を数分前に戻す。
保育所の敷地内にある駐車場が満車だった。少し離れた契約駐車場にクルマを移動させた。
停められる枠は敷地の入口横と、奥まったところの2つ。いつも奥の方に停めるのだが、この日は他の利用者がいた。私は入口横の枠にクルマを停めた。
息子をスムーズに乗せられるよう、後部座席のドアを開けて荷物を整理する。
 
荷物の整理を終え、駐車場に面した道路へ出て施設までの坂道を登ろうとしたところで、叫び声が聞こえた。少し周りを見回すが、どこからなのかわからない。
先を急いでいた。スポーツ教室の開始までに送り届けることはできるが、ジャストのタイミングだった。だから、叫び声も気に留めることもなく坂を登った。
 
坂の中ほどで、声の主が駐車場の中からとわかった。
シルバーの古いセダンに乗った運転手がクルマのマドを開けて、こちらに向かって何かを叫んでいた。
「なんかコラ!」
「やんのか!」
明らかに私に向けられていた。理由はわからない。
突然向けられた敵意だが、こちらは何もないしやる気もない。
 
「なんですかー?」
大きな声で聞き返した。声は通る方だ。相手にも聞こえたようだ。
クルマを停めて降りてきた。短い髪を金色に染めた細身の老人だった。
「なんかコラ!」
「やんのか!」
これしか言わない。よくわからないが、身の危険を感じて心臓の鼓動が高鳴るのがわかる。しかし、こちらは坂の上、相手は坂の下で道路のガードレールで隔てられていた。ここで少し冷静になれた。
 
思い返すと、クルマの後部座席を整理していたときにシルバーのクルマが視界に入っていた。どうもこのクルマらしい。
 
しかし、なぜこの金髪爺さんは怒っているのか? それがわからない。
「お前はそこの学童の利用者か!」
おっと、保育所に矛先が向かおうとしている。それはご迷惑だからやめてほしい。
私はそこに答えず
「何かご迷惑だったでしょうか? そうだったんなら謝ります」
「やるんかコラ!」
おおう、ニホンゴツウジマセン……。
「ご迷惑だったのなら申し訳ありません。以後気をつけますので」
「そこの学童だな!」
だから謝ってんじゃないですか。わけは知らんけど。
私もやや血の気が多い人間なので段々と身体中の血液が沸き立ってくるのを感じた。
しかし、できればやり過ごしたい。
それから数度の押し問答があったが、金髪爺さんがクルマに乗り込んだので
「すみませんでしたー!」
と言葉をかけて先を急いだ。背後ではセダンがエンジンを空ぶかししていた。
 
学童に到着して、園長に今あったことを報告した。園長は驚いた様子もなく
「あの人ですね……よく苦情を言ってくるんですよ」と眉をひそめた。
いつものこと、そんな口ぶりだった。今度絡まれたら駐車場の大家さんを呼ぶように指示された。
 
しかし、爺さんは既に保育所に怒鳴り込んでいて、駐車場では男性支援員が話をしていた。
別の支援員から行かない方がいいと言われ、保育所で待機していると男性支援員が戻ってきた。
 
金髪爺さんの言い分はこうだ。駐車場に入ろうとしたら私のクルマが後部座席のドアを開けていて邪魔だった。そのとき、私に睨まれたのだという。
 
クルマの出入りには十分な通路があった。幅4~6mのスペースがあったので、これが通れないのなら金髪爺さんは免許を返納すべきではないか。
 
また「睨まれた」というが、視界に入った覚えすら無い。ただ、私を横から見たときに目つきが悪く見えることがあるらしく、学生時代にヤンキーに絡まれた経験はある。
だから、園長に
「流し目のイケメンで申し訳ない」
と詫びた。園長は笑わなかった。
 
「大家さんも来たから、話をしてきます」
園長は駐車場に向かった。いつものことなのだろう。私と息子は保育所で待機することになった。スポーツ教室はもう間に合わない。息子も嘆いている。
 
20分ほど経ったころ、園長が戻ってきた。
「イシヤマさん、お詫びしてもらっていいですか?」
園長はあきらめたような口調で私に告げた。
私は謝っても構わないが、言い掛かりに謝っても通じるのか不安だった。
「もしものときは110番してもいいですか?」
万が一のことを考えて確認する。
「それは……はい」
なんで言い掛かりつけてきたジジイに頭下げにゃならんのだ。ああムカつく。
私たちは駐車場に向かった。
 
近づく駐車場、むかつく私。金髪爺さんが見えてきた。
ここで一発かましてやる。
 
「本当に申し訳ありませんでしたー! 何のボタンの掛け違いかわかりませんが、ご迷惑をかけて本当に申し訳ない」
 
私は頭を下げ、膝を折り、雪崩うつように金髪爺さんの前に行き、駐車場に響き渡る大声で、しかし大げさなくらい申し訳なさそうにした。
爺さんはキョトンとしている。なにか言い返されると思ったのだろう。あっさり平謝りされたので次の言葉が出てこない。私は私で、「ボタンの掛け違い」に「俺に非はない」ことをにじませた。
少し間があって、爺さんが口を開く。
「最初からそうすればいいのに。クルマが邪魔だった」
くどくどと話す爺さんの言葉を聞きながら言葉が途切れるのを待って
「本当に申し訳ございませんでした」
同じ言葉を元気よく繰り返す。3度繰り返したところで
「な、そうやって悪いことをしたときは謝る、人として当たり前のことやろ」
人の道を説く爺さん。ムカついたが、ここがタイミングだろう。
「本当に申し訳ございませんでした。これでご放免願えないでしょうか」
あえて「もう帰してくれ」と言ってみた。これで続くなら110番だ。
「……子どもが待ってるんだろ、いいよ」
「ありがとうございます。それでは失礼いたします」
間髪入れずに礼を述べてクルマに乗り込む。
 
保育所に引き返して、息子を呼ぶ。
支援員の皆さんにはご迷惑をかけたことをお詫びしつつ、
「誠意のない平謝りをしてきました。あ、ここでお詫びしてるのは本心ですけど」
とおどけると支援員さんたちも笑って応えてくれたので、私はほんの少しだけ溜飲を下げたのだった。
 
 
 
 
***
 
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2023-05-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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