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20歳年下の、私の友人の話


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:清水優未(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「もっと子どもと一緒になって遊ばなきゃ」
 
この1年間で何回言われたことだろう。
 
長野県のこども園で保育士として働いていたのだが、その園では長期休みになると、県外を含む小中学生を対象にキャンプを開催していた。
 
園長先生曰く、
 
「1週間過ごすキャンプで、小中学生の子どもが何かあった時に相談したいと思える人ってどんな人だと思う?」
 
「幼児だったらお世話してくれる大人という点も大事かもしれない」
 
「だけど小中学生にとっては、年の離れた友人であることが大事だよ」
 
「そのためにまずは、子どもと一緒になって遊ぶこと!」
 
とのことだった。
 
園長先生の「年の離れた友人」理論に、私は賛成していた。
 
というのも、社会人になってから10年近く経つ私は、その間ずっと子どもに関わる仕事をしてきたのだが、新卒で働いた学習塾を除いて、私の呼び名はずっと「ゆみちゃん」。
あえて、一般的な学校の、教師と生徒のような上下関係ではなく、対子どもでも出来る限りフラットであれる職場を選んでいた。
 
ただ、年の離れた友人になるために、子どもと遊ぶには、”今”を全力で楽しむことが必要だ。大人になるにつれ、先のことを考えたり(体力もつかなあ……)、リスクヘッジしたり(木の枝を使って遊んだら危ないのでは?)等、「今」に集中しづらくなっていく。
 
子どもと遊ぶことは実は簡単なことではない、ということを、私は実感していた。
 
キャンプが終わるたびに、自問した。
「果たしてこの子たちに私は、年の離れた友人と思ってもらえただろうか?」
 
そしてその度に、思った。
「スタッフと子ども、という関係性から抜け切れていないような気がする……」
 
 
しかし、一人の女の子に出会った。
 
園長先生の方針を知ってか知らずか、私が初めて参加したキャンプで、
「ほら、オセロで〇〇ちゃんと一緒に遊びなよ」と子どもたちの輪の中に入れてくれたことが印象に残っている。
 
彼女は11歳、私は31歳。年の差なんと20歳。
 
こうやって書いてみて初めて気がつく。
自分の子どもの年齢だとしても、別におかしくないのか……。
 
そのこども園は小学生も通えたので、彼女とはキャンプだけでなく、日々の保育でも一緒に過ごした。つまり1年間、長期休みや土日を除いて、ほぼ毎日一緒に過ごしていたことになる。
 
私の方が人生の先輩ではあったが、そのこども園の歴は彼女の方が長く、小さい子の扱いにも慣れており、本当に色んなことによく気が付くので、私は彼女のことをたまに「〇〇(名前)姉さん」と呼んでいたくらいだ。
 
そもそも不器用なのに加えて、慣れない土地でさらにまごまごしている私を、よく助けてくれた。
 
こうやって書くと、少しませた女の子を想像するだろうか。
 
実際は違う。
 
木登りが好きで、カナヘビを捕まえるのが上手で、縫い物が得意で、大きな板や台を使って家や温泉、神社等、様々なものを創ることに長けていた。
 
大掃除で天井の布を外した時、室内で声が響くことに「開放感ある〜!」と何故かテンションが上がっていた。
 
木の根元に大きな穴があるのを見て、私が「別の世界に通じているかも」と言うと、目を輝かせながら、話に乗ってくれた。
 
本が大好きで、私が小学生の時に大好きだった本を紹介すると、すぐに読んでいた。
 
今この瞬間をめいっぱい味わえる人。
 
その意味で私とは真逆で、でも何だか”良いな”と感じる点は通ずるものがあった。
 
約1年間、彼女を含め、子どもたちと豊かな時間を共有したのち、私は結婚を機に退職することになった。
 
退職前日、保育としては最終日。
いつも通り、午前中の保育は森を散歩していた。
移動中、彼女はずっと私の手を握っていた。
普段は、小さい子たちに多くを譲る彼女だが、その日はさりげなく阻止していた(笑)。
 
おそらく、彼女は私が退職することを少し前から知っていたのだと思う。
しかし私から発表しないことを考慮したのか、彼女からは決して聞いてこなかった。
 
最終日、いつものように会話して歩きつつも、なんだか二人して何をしたら良いのか分からなくなっていた気がする。
 
そうこうしている間に、いつも遊んでいる麦畑に着いた。
小学校の校庭の半分くらいの広さの原っぱだ。
どちらが言い出したかは忘れてしまったが、
 
「かけっこしよう! 裸足で!」
 
と言って、カエルがあちこちでぴょんぴょん跳んでいる原っぱで、私たちは靴を脱いでかけっこすることになった。
 
長野県の4月といっても、その日は快晴。
青空の下、タンクトップ姿になっている子達もいるくらい暑い日だった。
 
何度本気で走っても、私は僅差で彼女に勝てなかった。
少しでも速く走れるよう、私はスカートからズボンへ履き替え、最後にはエプロンまで脱ぎ捨てた。
どんどん軽くなっていく身体で、風を受けながら、素足で走る大地は本当に気持ちがいい。
 
「もっと練習して次は勝てるように……」と言いかけて、とまった。
 
次は……、次に、私たちがかけっこできるのは、一体いつなんだろう。
 
 
翌日は、保護者も参加する、こども園の行事の日。
退職することについて、保護者には1か月前に伝えてあったが、子どもたちに正式に伝えるのはこの日が初めてだった。
 
別れの時。
小さい子たちが、結婚のお祝いに、と周辺に咲くお花を摘んで、集まってきた。
その先に、帽子のつばを目深にかぶり、肩を震わせて泣く彼女の姿があった。
その姿を目にした瞬間、私たちはもう、「スタッフと子ども」という関係性ではなくなっていることに気付いた。
ただただ、これから彼女と毎日会えなくなることが寂しくて、涙が溢れた。
 
私にとって彼女は間違いなく、年の離れた友人だ。
1年間、一緒に“今”を楽しみ、遊んだ時間がそうさせてくれた。
たとえ出会う場所や時代が違ったとしても、必ず友達になれた、そんな風に思えるような友人だ。
 
 
 
 
***
 
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2023-05-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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