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パラボーイって何ですか?


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記事:上田まゆみ(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
3年ほど前から、日本語の先生をしている。生徒はだいたい英語が母国語か、英語を公用語にしている人たちだ。意外に思われるかもしれないが、彼らはカタカナ英語が苦手だ。例えばテキストに「サッカー」とカタカナで表記されていると、たいていの日本語学習初級の生徒はきょとんとした顔をしている。そもそも日本語学習者はカタカナを読むのが苦手だ。私が「英語ですよ。” soccer” ってテキストに書いてありますよ」と言うと、ようやくわかったという表情をする。そして、次に日本語風にサッカーと発音するのに苦労する。自分たちの母国語なのに、日本語風にアレンジされた発音の練習をさせられるのは、ちょっと気の毒な気もする。私は、日本語を教え始めた当初は、日本にはカタカナ英語が溢れかえっているから、英語話者は日本語を覚えなくてすむし、ラッキーではないかと思っていたが、そうでもないらしい。
そもそも、英語より日本語のほうが圧倒的に音が少ない。日本語は100音程度、英語はなんと1800音程度もある。英語の音をすべてカタカナに置き換えるのは無理だ。おまけに、自分の母国語が外国で妙な発音とアクセントにアレンジされていたら、聞き取れないし、余計に混乱する。
私にも、逆パターンの経験があるので、気持ちは理解できる。10年ほど前、私が日本語の先生になる前の話だ。アメリカ人の知人と、英語と日本語をごちゃまぜにして世間話をしていた。彼は奥さんが日本人で、日本に7年ぐらい住んでいたことがあったので、日本語が話せた。
彼と何について話していたのかは忘れてしまったが、彼が唐突に「……ほらほら、スーカンパニーだよ。日本のスーのカンパニーの名前、なんだったっけ? うーん、思い出せない」と言い出した。
そのとき、私の脳裏には「スー(sue)」という英単語が思い浮かんだ。「sue(訴える) のカンパニーだから、弁護士事務所のことかな」と頭の中で考えた。
「弁護士が働いている会社? 弁護士事務所?」と彼に聞いた。今にして思うとアメリカ人なら弁護士事務所を「law firm」 と英語で言ったと思うのだが、私は「スー」に気を取られ過ぎてしまっていた。
「ちがう、ちがう。……えーっと、思い出した!ミ〇カンだ!」
「お酢の会社のことだったの! それは、“スー”じゃなくて“ス”だよ!」
今なら解る。英語話者は長母音と短母音の区別が苦手なのだ。彼らが「地図」と「チーズ」の区別がつきづらいのは、日本語教師の間ではよく知られた話だ。
ところで、カタカナ英語が苦手な人は、英語話者の日本語学習者以外にも私の身近にいるのであった。高齢の母だ。コロナ禍が始まった当初、東京都知事が英語を使いすぎるのではないかという批判が少なからずあったように思う。「クラスター」や「オーバーシュート」などは、高齢者にはわかりづらいという意見が多かった。ところが、当時の私は、新型コロナ自体が未体験なうえ、急速に事態が深刻化してしまったので、医者や専門家も、適切な日本語の対訳を考えている時間がないのだろう、と思っていた。個人的には、まあ、非常事態だし、しょうがないかぐらいの気持ちだった。日本人は、普段カタカナ英語ばかり使っているくせに、こういう時は文句言うんだな、とさえ思っていた。
そんなコロナ禍の最中、外出できずに退屈している母が電話をかけてきた。やることがないのでテレビのワイドショーばかり見ていたらしく、その当時大騒ぎになっていたプリンセス眞子の結婚について、ひとしきり何らかの見解を述べたてていた。
私が「あ、そうなの。へぇ、そうなの」と上の空で適当に相槌をうっていたら、突然、母が言った。
「小室さんは、パラボーイじゃないの?」
その一言で急に眼が醒めた。そして、私の脳裏に浮かんだ絵はディスコでパラパラを踊る小室圭さんだった。そんな動画流出していたかしら? しかし、母がYouTubeを見ているとも思えない。
「お母さん、パラボーイって何?」 と恐る恐る聞いてみた。
「だって、小室さんは男の人でしょう。女の人だったら、パラガールだけど……男の人だからパラボーイでしょ!」 と母は堂々と言い放った。その瞬間、母が何を勘違いしているのか解ってしまった。
「……お母さん、パラガールじゃなくて、パラリーガル。ガールじゃなくて、リーガルだよ!」
「えっそうなの? で、パラリーガルって何?」
なんだか、堂々巡りだった。その後、延々とパラリーガルとは何かを説明するはめになった。そういえば、パラリーガルには「法律事務員」という立派な対訳があるではないか。が、そもそも聞き間違えていたのでは、調べることもできない。
今更ですが、都知事、やっぱりカタカナ英語の使用は控えめにしたほうがいいみたいですよ。
 
 
 
 
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2023-05-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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