メディアグランプリ

私の代わりに肯定してくれた君へ。


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:岩間愛(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「良い写真撮るね」
それはとても些細な言葉だった。
思いがけないタイミングの褒め言葉には、意外と心地の良さがあった。実際、どこまで本音だったかもわからなかったし、ただのお世辞の可能性だってあるだろう。私はただシャッターを切っただけで、難しいことはしていない。何も考えずに撮っている、とも言える。
ただなんとなく、その場所を切り抜きたかったという動機だけ。
 
「どこが良い写真なの?」
 
それでもなんだか嬉しくなって、踏み込んで聞いてしまった。
これはかなり珍しいことだ。大抵「そんなことないよ〜」と笑って流して、ありがとうを添えてしまう。褒め言葉は毎回扱いに困る。自分で良いと思わないものは特に難しい。自信があったら、もっと嬉しく感じるものなのだろうか。喜んで、さらに創作意欲が湧くのだろうか。もうその感覚は遠い昔に置いてきてしまっていた。
 
私はずっと抱えているスランプがある。絵を描くことだ。
幼少期は、気づけば絵を描いていたし、ただひたすらに楽しかった。
「絵が上手だね〜」と褒められて育ってきたし、小学校に上がっても「将来は漫画家ですね」と言われて喜んでいた。授業中は先生の話を聞くよりも、机いっぱいに落書きを残すことに熱を入れていたくらいだ。上手に描き上げた自分の絵を眺める時間も好きだった。
 
今ではもう、微塵も楽しくない。
インターネットで外の世界と簡単に繋がれるこのご時世、手軽に素晴らしい作品たちに出会えてしまう。これは大変恐ろしいことである。自分が何もできないでいる間に、何十枚、何百枚も描いている人がいる現実をぶつけられる。欲しくても手に入らない才能たちが、ネット上で渋滞しているのだ。絵を観る目だけが肥えてしまい、スキルの無さや未熟さを自分で猛烈に指摘するようになっていった。
 
下手くそ、センスがない、練習しないからだろ、描くのが遅すぎる、勉強不足、今まで何してたの、周りはもっと先に行ってるよ、その程度でプロになろうと思ってたとか調子に乗りすぎ……止まらないセルフ罵倒に耐えられなくなって、いつも描くのを辞めてしまう。
何かイメージを持って描こうとしても、ペンを持った途端に魂が抜けていくようだった。
 
いよいよ自分のことが分からなくなっていく。
こんな極端にダメになるとは思わなかったし、自分の人生の半分を占めていた「絵を描くこと」を失ったことで、何かを好きになる感覚が迷子になっていた。このようにして、自己評価が低すぎる人間が出来上がったのだ。
 
だから余計に驚いた。
些細な言葉の力は、実は凄い威力を持っているのかもしれない。
頑固にこびり付いていた自己肯定感のなさを、写真という新しいジャンルはいとも簡単にすり抜けてきたのだ。些細というくらいだから、大袈裟ではない。取ってつけたような褒め言葉じゃないから本音っぽさが出る。そういう言葉は心に直接届いてしまう。いつもは頭で言い訳を準備して防ぐ褒め言葉を、心にダイレクトアタックされては逃げられない。
不意打ちに近いものがある。
 
「センスあるよ、切り取り方が上手いと思う」
 
防御力ゼロの顔は少しにやけていた。
そう言われても正直よくわからなかったが、その人はカメラに詳しい人で、だからこそ私は間に受けた。嬉しいという感情がじわじわと、何日経っても湧いてきて、私は新しくカメラを買うことに決めていた。不意打ちがすべて原動力になっていた。
 
褒めてもらって嬉しいという感情は、砂漠のオアシスのようにいくらでも心を潤してくれた。シャッターを切るだけで、絵を描けているような感覚が心地いい。私にかかればなんだって被写体になるし、自分自身の心さえも映せる気がした。自分が撮る写真はすべて好きになれた。いろいろと撮っていくうちに、自分の好きなものも見えてくるようにもなった。実に不思議だった。
 
あれから10年近く経つ。
今では、私の人生にカメラは寄り添うものとなっている。絵を描くことについてはまだ時間はかかりそうだけど、それに執着して変えられずにいた人生を塗り替えるくらいの力があった。あれだけセルフ罵倒が得意な人間にも効くのである。人を肯定する言葉は偉大だ。
 
私は未だにあの些細な言葉に支えられて生きている。
その言葉をくれた人は自己肯定感の低い人だった。対等に話ができるようになりたいと思ったし、彼が見ている世界を自分も理解できるようになりたいと素直に思えた。自分の欠けていたところを埋めてくれたように、何か返してあげたかった。それはもう叶わないのだけれど、もらったものは目の前の人にも渡していくことにしている。
些細な言葉で、相手の心に届くように。
 
 
 
 
***
 
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2023-05-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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