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本物の人たらしとは、こういうものか


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記事:ネナムラ(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
人たらし。
 
本来、「人をたらす」とは、甘言や色仕掛けで人をだますことを意味するそうだけれども、ここで言いたいのは、そこまで悪い意味じゃなく。
人のふところに入るのが上手で、他人の力を借りて本人の実力や労力にふさわしくない成果を手にしてしまう人。
やっかみ半分に、「あいつは、人たらしだからね」と言いたくなってしまうタイプのことだ。
 
そういう「人たらし」には、これまで何人か出会ってきた。
たとえば、会社には、私のことを「ねぇさん」と呼んで調子よく頼ってくる後輩がいた。
身近なところでは、ユーモアを交えつつ、やたらと頼みごとをする夫がいる。
 
「人たらし」は、人を頼ることに抵抗がないようだ。
私は人を頼るのが苦手で、何でも自分でやるほうが気楽だと思ってしまう性格だから、気軽に人を頼れるという感覚は理解が難しい。
 
でも、「人たらし」たちは共通して、ふだん一緒にいて気持ちがいい人たちだ。
外向的でコミュニケーション上手。私が大したおしゃべりができなくても、楽しく会話を盛り上げてくれる。
一緒にいると明るい気持ちになれる。
 
だから私は、ずるい人だなぁと思いながらも、ついつい頼みごとを聞いてしまう。
うれしそうに「ありがとう」って言われたら、悪い気はしないし。
とはいえ、あんまり頼られると「図々しいな……」と感じてしまうこともある。
 
しかし、つい先日のこと。
私は本物の「人たらし」に会ってしまった。
 
その人はアジア某国のアラサー男性。私はアラフィフなので、約20歳も年下だ。
彼とはあるプロジェクトを一緒に進めている仲間同士なのだけど、これまでのやりとりはメールやチャットが主だった。
プロジェクト開始当初に短時間の顔合わせはしたが、それからパンデミックになってしまい、行き来ができなかったからだ。
 
彼に対して、実はあんまり好感を持っていなかった。
自分の仕事を人にやらせてしまうことが度々あり、それが気になった。
たぶん一種の「人たらし」なんだろうと想像はしていたが、それにしても人を頼り過ぎているように思えて、なんだかな……とモヤついていたのだ。
 
その彼が久しぶりに日本へ来たので直接会い、はじめてしっかりと話ができた。
そして、思ったのだ。
これは本物の「人たらし」だ、と。
 
今では私も、彼の頼みなら図々しいと思わずに聞き入れてしまいそうだ。
プロジェクトでの今後の彼の活躍に期待しているし、プロジェクト外でも力になれることがあれば進んで協力したいという気持ちになっている。
 
 
なぜ私はここまで懐柔されてしまったんだろう?
 
彼もまた、私が今まで会った「人たらし」たちと同じく、人を頼ることに抵抗がなくて、一緒にいて気持ちのいい人だ。
しかし、それだけじゃない気がする。何だろう……?
そう考えるうち、彼にしかない特徴が2つあると思い至った。
 
 
第一の特徴として、彼は会話中に目をそらさない。
私が今まで会った誰と比べても、彼と出身国が同じ人たちと比べても、抜群に目が泳がないのだ。
 
どんな話題になっても、その眼差しは揺るがない。
たとえ、私が彼に対して厳しいことを言ってしまったとしても、こちらをしっかり見たまま、「そうだね、よく分かる」と言ってくれる。
それから反論に転じることもあるが、それでもやっぱり目はそらさない。
 
やたらとニコニコするわけではない。
ただ目をずっと見てくれるだけなのだけど、しっかりと受け入れてもらえている気がする。
彼のほうが年下なのに、私よりずっと年上の人に話を聞いてもらっているような、安心して何でも話せる包容力を感じた。
 
誰かに受け入れてもらいたいと思っている人は、私だけじゃなく、どこにでもたくさんいるだろう。
これは効くな……と思った。
 
 
そして、第二の特徴。彼は服装が個性的だ。
服装が「人たらし」とどう関係があるのかと思われるかもしれない。
 
彼が変わった服を好んで着ることは、SNSで見て知っていた。
いつも、どこかの民族衣装らしきものとか、ショーでしか見ないようなブッとんだデザインものとかを着ている。
○○風とか○○スタイルといった既存の名前がないようなファッションだ。
 
今回、「めずらしい服を着てるよね」と突っ込んでみた。
すると彼は、服にかける情熱を語ってくれた。
古着屋で見つけてくるそうだ。流行やブランドなどは気にせず、奇をてらうでもなく、純粋にそのデザインや布地が大好きで身に着けているらしい。
あらためて彼を見ると、人の評価に流されず自分の感性だけで選んだ服をまとって堂々と立つ姿には迫力があり、彼自身が特別な人物に見えた。
 
私も特別な人間でありたいと思っているけれど、そこまで自分に自信がない。
だから、特別な人とお近づきになれると、自分もちょっと特別になれた気がして、うれしかったりする……。
虎の威を借る狐みたいで、おはずかしい話だけれども。
私みたいな人って意外と多いと思うのだが、どうだろうか。
 
 
こんなふうに彼は、人がひそかに持つ「受け入れて欲しい」「特別な人間でありたい」という願望をかなえているんだなと思った。
一緒に来日していた彼の友人は、彼のことを「カリスマがある」と言っていたが、確かにそう言っていいかもしれない。
彼がよく人を頼っていたのは事実だが、実際には周囲の人たちが彼にすすんで手を差しのべているという側面もあったのだろう、と納得した。
 
著名な成功者でも「人たらし」と言われる人がいる。
そういう人たちに対して、私はあんまり良いイメージを持っていなかった。
調子のいいことを言って、人のことを利用してばかりいるんじゃないか、と。
でも、今はそうは思わない。
きっと彼のように、実際に会わないと分からない魅力を持っているんだろう……。
 
世の中のカラクリを1つ、知れた気がした。
 
 
 
 
***
 
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2023-06-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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