メディアグランプリ

順風満帆コンプレックス


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記事:小林 遼香(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「自分はなんのために生きていくんや」
誕生日の前々日、ベロベロに酔っ払ったドキュメンタリー映画監督のおじさんに聞かれた。
この人が本当にドキュメンタリー映画監督なのかはわからない。しかし、飲み屋でたまたま隣になったわたしに鋭い質問をするところは、人間をカメラにおさめてきたのだろうと思わせた。
「適当に恋愛して、収入の高いやつと付き合うんやろ。みんなの羨む生活送るんやろ」
質問をされたあとに続けてぼそっと言われた。
彼がカメラを回していたのは、主に貧しい外国だったらしい。恐らくいろんな国籍の人と対峙し、感情をぶつけあってきたのだろう。貧しい国で健気に生きている人たちと比較するとわたしなんて「中身のなさそうな港区女子」に見えたのだろう。
それまでヘラヘラ笑っていたわたしも
「別に理想的な生活なんてない」
と冷たくあしらった。
 
なぜ人は貧しくて、悲しい生い立ちを経験した人をヒーローにさせたがるのだろう。
小学生の頃、割と文章は得意なほうだったので毎年読書感想文の学校代表に選出されていた。しかし、6年生だけは2番手になった。代表の座を手に入れた子は「父が死んだ」という涙なくしては読めないエピソードを書いていたのだ。
決して思うべきではないが、正直とても羨ましかった。不幸なエピソードが1ミリもないわたしがちっぽけな存在に思えた。そして同時に悔しさがこみ上げてきて、この世界に絶望した。
「不幸なエピソードがあれば、この世界は勝ちなの。別に幸せハッピーでもいいじゃない。じゃあ、わたしは今から不幸になればいいの」
「不幸になればいいってもんじゃないけど、たしかに波瀾万丈の人のほうが応援したくなるね」
「レオナルド・ディカプリオとか幼少期は苦しい生活してきて大成してるじゃん。ハングリー精神ってないとスターになれないわけ」
「苦しい生活送ってきた人のほうが気合いが違うかもね」
帰宅後、親に向かって想いを爆発させた。母はわたしの四方八方に歯向かう心をただ黙って受け止め、なだめてくれた。
 
28歳になったいまでも特別大きなアクシデントもなく、平穏に過ごしてきた人生にコンプレックスを抱いている。
「創作活動もそうだし、就活もそうだけど。なにか悲しいことがあっていま健気に頑張っているエピソード持っている人羨ましいんだけど。わたしそんな大きな悲しいことなくて」
「なんかそれって自分より不幸な人を馬鹿にしているんじゃない、あんま人に言わないほうがいいよ」
大学生の頃、友人に「お𠮟り」を受けたことをきっかけにコンプレックスは胸にしまい込むようになっていた。そんなわたしがライティングゼミを受講することで、コンプレックスに向き合わないといけなくなっている。
「読者は自分より低い人しか共感しないんですね。キングダム、ドラゴンボール、スターウォーズ、どの作品も生い立ちは孤児なんです。この法則を巧みに活用しているんですね」
焦った。自分の過去を振り返っても、もはやネタは尽きていた。
 
「起業のきっかけエピソードって波瀾万丈系多いやん、そういう不幸エピソードないと起業しちゃあかんのかって思わないの」
起業家の友人に自分の悩みと重ねて聞いてみた。
「わたしはびっくりするような不幸エピソードはないけど、不幸エピソードがないと上にいけないのだったら、ただ単に才能がないだけって思う」
そうか、あのとき読書感想文で代表に選ばれなかったのも「わたしに才能がない」だけだったのか。「不幸エピソードがない」ことを言い訳にして、自分自身に向き合おうとしていなかったのかもしれない。ただ単に「自分に自信がなかった」だけではないのか。
「そっか、そんな嘆いている場合じゃないって感じ」
「そうね。いや、共感はもちろん大事だけど、過去は変えられないから。自分独自の視点に目をむけて話せるようになることのほうが大事なんじゃないかな」
 
自分の人生に大きなアクシデントがなかったこと、それ自体を否定する必要はなかった。まず自分自身のストーリーを受け入れ、「なぜこの選択をしたのか」や「そのあとどうなったのか」などしっかり立ち止まって考えることが大事なのだ。
「自分はなんのために生きていくんや」
この問いを投げかけたドキュメンタリー監督はわたしに「適当に毎日を送らず、他人と比較せず自分の足で立って生きろ」と言いたかったのかもしれない。28歳になってやっと「順風満帆コンプレックス」に別れを告げることができた。
 
 
 
 
***
 
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2023-06-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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