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見習い修行僧、3年ぶりのホットヨガで「無」を感じる


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:花 橋子(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
先日、3年ぶりにホットヨガに行った。新型コロナウィルスが蔓延する前に通っていたスポーツジムに、再入会したのだ。
 
再入会の一番大きな理由は、健康維持だ。30代のときならば、痩せたいだの肌をきれいにしたいだの思っていたが、40代の今は、大切なのはとにかく健康。40代に入ってから、疲れは取れにくくなったし、身体は重いし、慢性的に腰は痛いし、いろいろな変化を感じている。100歳まで生きるを目標にしているわたしとしては、忌々しき状況なのだ。
 
再開初日。ホットヨガクラスの時間よりだいぶ早めにスポーツジムに到着。入り口をくぐると、いかにも「トレーニングしてます!」という感じの人がさっそうと館内を歩いていた。夏だということもあり、トレーニングウェアのまま、外から入ってくる人も多い。がっつりロングスカートのわたしは、なかなかのビギナー感を出していた。
 
ロッカールームで、そそくさと着替える。ホットヨガは、バスタオルと1リットル以上の水を持参することが参加条件となっているため、忘れないようにそれをしっかりと抱えて、ロッカーにカギをかける。……フェイスタオル忘れた。ロッカーを開ける。閉める。あ、ポカリスエット買いたい。開ける。閉める。お風呂用のタオル、どこに入れたっけ? 開ける。閉める。久々すぎて、まごつくことこの上ない。
 
はたから見たら、あの人何やってるんだろうと思われるくらい無駄にロッカーを開け閉めしたあと、ホットヨガスタジオに向かった。
 
クラス開始までは少し時間があったので、スタジオの前で待ちながら、トレーニングルームを眺めた。バーベルなどのおなじみの器具もあれば、階段をひたすら上がっていく、エスカレーターみたいな器具もあっておもしろい。
 
機械が回るモーター音、器具同士が重なる金属音、ランニングマシンで走る足音と、さまざまな音が混ざるトレーニングルーム。だけれど、人の声は一切しない。騒音の中に静寂を感じるという、不思議な空間だ。
 
その中で、みんな一心不乱に身体を動かしている。どんなことを考えながら、身体を動かしているのだろう。「身体を鍛える」、ただその目的のためだけに、景色の変わらない道、頂上に着かない山を登っている姿はまるで修行僧だ。
 
わたしも今から修行僧になるのだろうか。なれるのだろうか。
 
時間が来て、ホットヨガスタジオに入る。むっとした暑さが身を包むが、これを求めてきているので不快にはならず、むしろ「キタキタ!」と思ってしまう。
 
ヨガマットを敷いたり、水を飲んだりしてふと前を見ると、なかなかに丸々とした体型の自分が目に入る。なぜ、ホットヨガのスタジオは3面に鏡があるのだ。己を見よということか。修行僧への道は険しい。
 
現実の自分の姿にほんのり落ち込みながら、周りを見る。かなり引き締まって、すでに何年も修行を続けたような高僧のような姿の人もいれば、「一緒にがんばろうね!」と声をかけたくなる見習い修行僧もいる。
 
ふいに、「久しぶり」と声をかけられて、顔を上げると、以前一緒に仕事をしていた男性がいた。
 
「やだ!」
 
思わずそんな声が出る。
 
ホットヨガで汗をだらだら流している姿なんて、友人にもあまり見られたくないのに、かつての仕事仲間の男性に見られるのはしんどい。これも、修行の一環か。
 
手を振りながら自分のマットに戻って行く彼の姿を見ていると、クラスが始まった。
 
ぼんやりとしたヒーリング音楽の中で、座禅をしながら、目を閉じて、呼吸を整える。ポーズを変える指示が出るが、久しぶりでよくわからない。ちょっぴり薄目で前の人の動きをカンニングしながら、ゆるゆると身体を動かす。なかなかに気持ちがいい。
 
「自分の呼吸を聞きましょう」
 
そうだよなあ。普段、自分の呼吸って聞かないよなあ。
 
自分との対話が始まる。こうやって、自分の身体と心と向き合いながら、トレーニングってするのね。少し高尚な気持ちになりそうだ。
 
目を開けるように指示され、座っているポーズから、立ちポーズに変わる。片足を高く上げたり、身体を大きく傾けたりと、動きも激しくなってきた。
 
暑さも手伝って、息が上がってくる。汗もぽたぽた落ちる。先ほどの元仕事仲間の男性の死角に入るよう、動きを微調整する注意も怠れない。
 
徐々に残り時間が気になり初め、ビールもちょっぴり脳裏に浮かぶ。先ほどの高尚な思いはどこかへ飛んでいき、煩悩に支配されそうだ。
 
「はい、これで最後のポーズです」
 
天の声が聞こえて、仰向けになって、再び目を閉じる。手のひらを上に向けて、呼吸を整えていく。くたくたになりすぎて、先ほどの煩悩もどこかへ行き、ひたすら無になっている自分に気が付いた。そして、クラスは終わった。
 
 
久々のホットヨガは楽しかった。わたしはいつも寝落ちするまでスマホを見たり、何かを考えたりしているので、何も考えられないくらい身体をくたくたにして、「無」になるのは気持ちがよかった。大人は、何を考えないのにも工夫が必要なのだ。
 
そして、あのトレーニングマシンで修行をする人々。休日のひと時を、自分を鍛えるために費やすというのは、休日は動きたくないわたしにとって、衝撃だった。わたしがゴロゴロしている間にも時間は流れているのね、という至極当然のことを、彼らの姿を見て感じたのだ。
 
 
ホットヨガはまだ再開したばかり。まだまだ見習いだが、数々の煩悩に負けず、修行にいそしんでいきたい。
 
 
 
 
***
 
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2023-07-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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