メディアグランプリ

お墓参りは、同期会である


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記事:岩田 真治(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「もう10年になるのか……」と3人で口を揃えて言った。
私は、親友のH君、M君とお墓参りに来ていた。
10年前に、くも膜下出血で亡くなった心友のT君を偲んで。
 
H君、M君、T君、そして私の4人は、新卒で入った会社の同期だった。
23年前、4人とも製薬会社の営業、MR職で採用された。
「20世紀最後の新入社員」と期待されての入社だった。
しかし、その会社を最初に辞めたのはT君だった。
入社3年目の初夏だった。
その3年後、H君、M君、私も立て続けに退職した。
 
縁あって、私とT君は、再び同じ会社で働く機会があった。
T君からの誘いで、私が2回目の転職を決めたからだ。
しかし、同じ釜の飯を食う関係も、2年しか続かなかった。
10年前の7月、自宅で倒れたT君は、そのまま帰らぬ人となってしまった。
T君が、親友から心友になった瞬間でもあった。
 
それ以来、毎年7月、T君のお墓参りに、私たちが3人で集まることが通例になった。
お墓参りという名の同期会を毎年7月に開催している。
10年も経つと、T君を失った悲しい気持ちは出てこない。
それよりも、T君の個性的なエピソードが思い出されてくる。
 
「T君って、現金でマンションを一括購入するつもりだったよね」と言ったのはM君だった。
その話、私も聞いたことがあった。
確か、会社の同僚に反対され、結局、ローンを組んでマンションを購入した。
T君が、住宅ローン控除を知らなかったことに、私は驚いた。
しかし、それ以上に驚いたことがあった。
東京都心のマンションを一括購入できるくらい現金を持っていることに。
 
T君は資産家の一人息子だった。
ある時、薬剤師の資格を持っているH君が夢を語った。
「自分の調剤薬局を経営したい!」と。
それを聞いた、T君はすかさず言った。
「俺、H君に投資しようかな!」と。
T君は、資産家で友達思いだった。
だから、自分が働く製薬会社に、私を誘ってくれたのだ。
 
T君の思い出話が終わると、お互いの健康の話になる。
同期会、同窓会の鉄板ネタだ。
「自分の体力は落ちていくけど、子供はだんだん体力がついてくるよ」
「だから、今のうちに運動して体力だけは、つけておいた方が良いよ」
というのが、子供のいるH君とM君が、私に送ってくれる助言だった。
 
「そうえば、全然タバコ吸わなくなったよ」と言い出したのはH君だった。
確かに、若いころのH君はスモーカーだった。
新入社員時代、休み時間になると、H君はいつもタバコを吸っていた。
しかし、ここ10年くらいタバコを吸っているH君の姿を見たことが無い。
今は、調剤薬局で働くH君は、タバコで健康を害した人を何名も知っているのだろう。
 
「俺は、血圧、血糖値、尿酸値を下げる薬、全部飲んでるよ」と言ったのはM君だった。
M君は20代のころから生活習慣病のデパートだった。
生活習慣病薬の専門MRのM君のことだから、何か考えがあって飲んでいるのだろう。
「今は有効性、安全性ともに高い薬があるから、飲み続けた方が健康を維持できる」
とM君は考えそうだ。
そして、一時期に比べたら、食事やお酒の量も減って、かなりスリムなっている。
 
そういう私は、10年前と体型が変わっていない。
「やや肥満」のままである。しかし、運動は続けている。
M君と同じくお酒を飲む量は減った。更に野菜を摂る量は増えた。
毎年の人間ドックに加え、2年に1回のペースで脳ドックも受けている。
脳ドックを受けるきっかけは、やはりくも膜下出血で亡くなったT君だ。
 
この10年間、三者三様で健康に気を配るようになった。
確かに、3人とも年齢を重ね、家庭を持ち、守るものができたからかもしれない。
MR、薬剤師という仕事柄、病気や健康に対する知識が、他の人よりあるのかもしれない。
しかし、私たち3人が健康を意識するのは、心友のT君が40歳の若さで急死したことが影響している。
 
T君は亡くなる3日前まで元気だった。
休みの日は、山に登る、海に潜る、お嬢さんとプールに行く、と活動的だった。
いつも動いている、というイメージがあった。
そのため、亡くなったことが、暫く信じられなかった。
 
私たち3人にとって、まだまだ先に延ばさなくてはならないことがある。
それは、T君を入れて4人揃っての同期会である。
T君が教えてくれたのは、優しさと健康の大切さであった。
いつまでも健康でいて、毎年7月のお墓参りと同期会を継続するのが、私たち3名の使命であり、T君に対する優しさの示し方である。
 
 
 
 
***
 
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2023-07-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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