長考すればいいってもんじゃないことを囲碁が教えてくれた
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:村人F (ライティング・ゼミ6月コース)
じっくり考えればいい物が生まれる。
これが普通の感覚だろう。
時間をかけて作ったのだから、質も比例して上がるはずだからだ。
これはプロの将棋や囲碁を見ていても感じる。
彼らは一手に対して1時間以上かけることも多いから。
そのため通っている天狼院書店の囲碁教室でも、私自身じっくり考えて打つようにしていた。
しかしある日、プロ棋士である先生の柳澤理志六段が言った。
「今日は素早く打ちましょう。考えなくていいです!」
この発言に至った理由は、皆が考えるため対局が終わらなかったからだ。
初心者同士なのに1時間やっても序盤ということもザラだった。
だからペースを上げて講義内に終わらせよう。
こういう意図の指示だった。
だが、これでは雑に打つクセが付き逆効果ではないか。
話を聞いたときはそう思った。
ちゃんと考えないと上達しないはずだが。
そう半信半疑で対局してみる。
普段と変わらなかった。
それどころか長考していたときより明らかに強くなっていた。
考えていないのに次の手が見えるのである。
時間をかけないと気付かないと思われる「あ、ここがチャンスだ」という発見もあった。
先生からも「早く打った方が遥かに良いですね」と言われる始末だ。
なぜこんなことになったのか。
それは、長考の内容を思い返すとすぐに理解できた。
「この手にしようかな」
「でもわかんないー」
「ただこれ以外思いつかないなー」
「でもわかんないー」
(以下繰り返し)
迷っているだけだった。
つまり考えているようで実際は全く考えていなかったのだ。
というかビビっているだけである。
だから弱気な心境になるため、勝負の場ではどんどん不利になってしまう。
攻めなければならない場面で尻込みするからだ。
そういう状況だから、考えない方が強いのは当たり前である。
むしろ早く打とうとするから、気持ちも自然にイケイケになり迷いがなくなる。
結果じっくり長考したときより質のいい手が生まれやすいのだ。
そのため、私のような初心者は考えないで打った方が正解といえるだろう。
しかし、ではプロはなぜ長い時間考えられるのか。
それは検証できるからである。
現段階での候補手を把握し、どのような展開に進むか予測する。
同時にAIを用いた事前研究との照らし合わせも行う。
このような分析が高い精度で可能だから、たくさん時間をかけて調べるのである。
そして力の源になっているのは、これまで得た知識と経験だ。
彼らの何千回、何万回と盤に前に座りながら、負けの悔しみに絶望してきた道があるからこそ、有意義な長考となる。
そうなると、まだ始めてから1年も経っていない初心者がやったところで無意味にきまっていた。
やはり、ビビらず素早く打ったほうが強くなりそうだ。
ただこれは、私にとって長考しなければならない場面もあることを示している。
例えば仕事で取引先にプレゼンをするとき。
ここの文言は考える必要があるだろう。
なぜなら得意分野の話だからだ。
そのため有意義な長考ができる条件が揃っている。
しかし残念ながら、普段はこういう場面こそ考えずにさっさと行っていた。
このせいでピントのズレた話をしてしまい、上司や顧客など様々な人から怒られまくる。
そういう残念なミスも頻出していた。
これを踏まえると自分が熟知している分野でなら、長考で質が上がる可能性が高くなるから行うべきだと言えよう。
だが、その際にもスピーディな囲碁で気付いた観点は忘れてはならない。
「本当に考えているのか、ビビっているだけではないか」
結局、長い時間かけたところで、迷うだけでは全く意味がないのである。
むしろ必要なのは、この弱気な心を奮い立たせる根拠だ。
それを探すためにプロは考えるのである。
これまでの成功体験で似たような場面はなかったか。
勉強してきた本の中に対策はあったか。
あくまで前に進むための理由を絞り出すために、彼らは本気で考えるのだ。
だからこそ私たちがする長考も、そうでなければならない。
逆に言うと初心者では時間をかけても無意味なのだ。
迷いを払う根拠を全く持ち合わせていないのだから。
そういう状況では、さっさと打って様々なパターンを覚えた方が得である。
長考とはなにか。
これについてじっくり考えずに、良いことだと決めつけていた。
しかし、それをしないことでデメリットとメリットの両方を発見できた。
つまり考えてもわからないことは、やってみたほうが遥かに理解できるのである。
ならば全然わからない囲碁の世界では、どんどん悩まず進んでいこうと思う。
なにせ通っている囲碁教室ではプロ棋士が案内役なのだ。
だから変な方向に向かっても先生が正してくださるのである。
この恵まれた環境を活かして、いずれは意義のある長考を囲碁で行えるようにしたい。
***
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