メディアグランプリ

AIに絶望させられ、真珠のように輝く青年に救われた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ネナムラ(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
今年の2月、私は長い鬱状態に陥っていた。
話題になりつつあった生成系AIの代表格、ChatGPTに初めて触れたせいだ。
 
私は30代で会社を辞め、それから十数年にわたりフリーランスとして在宅で働いてきた。
しかし私の仕事は、機械学習やAIといった、コンピューターに人間の頭脳の肩代わりをさせる技術と相性がとても良い。
実際に業界では、そうした技術を活用した自動化ツールの開発が進んでおり、ツールが実用レベルに達したら、人間は仕事を奪われると言われていた。
私にも危機感はあったものの、そうなるのはまだ先のことだと思ってきたのだが……。
 
興味半分でChatGPTを使ってみたとき、感嘆すると同時に絶望した。
技術はこんなに進歩してしまったのか、と。
この様子だと、業界のツールだって5年もかからず実用レベルに達するだろう。そして、私は失業する……。
それは確定事項に思われた。
 
かといって、どうしたらいい?
別の技能を身に付けて、ほかの仕事に就く? どんな仕事に?
進むべき方向が分からない。
 
対面コミュニケーションが求められる仕事は残るだろうと考えると、オフィスや店舗に勤めることになりそうは気はする。
ところが、会社員時代、私は職場の人間関係が苦手だったのだ。
在宅フリーランスになってからは、家にこもって人に会わない時間が増え、気楽で良かった。
それなのに、また人と一緒に仕事をしなければならないのか……。
 
こういうことを毎日ぐるぐると考えて、鬱状態になってしまった。
食欲が出ず、何をする気も起きず、涙が出る。
1か月ほどたったとき、ふと思い出したのが以前に見かけた「人生を変えるライティング教室」というフレーズだった。
とりあえず、何か動いてみよう。
こうして、私は天狼院の受講生になった。
 
 
文章を書くことは予想以上に楽しく、毎月2回の講義へ通い、毎週2000字の文章を書くという課題を夢中でこなした。
幸いにも夢中になれるものができたことで、鬱状態からは脱することができた。
かといって、将来どう働いていくかという問題に答えが出たわけではない。
ふとしたときに、うつろな気持ちで宙を見つめてしまうことはあった。
 
そんな中で小さな変化が訪れたのは、じつに小さな出来事がきっかけだった。
 
あるとき、ライティング教室の東京会場が別の場所に変更となった。
それまでの会場は、池袋の住宅街の近くという落ち着いた立地だった。
ところが今度の会場は、若者でにぎわう渋谷駅のすぐ近く。2020年に開業したばかりのミヤシタパークという商業施設内にある。
 
渋谷なんて行くのは何年ぶりだろう?
私はひどい方向音痴だ。おまけに渋谷駅みたいに立体交差が多いと、地図を見ながら歩いても、自分のいる場所が分からなくなる。
案の定、私はミヤシタパークではなく、ハチ公の前にたどり着いてしまった。
これはもう、誰かに道を聞くしかないだろう。
 
ハチ公前は待ち合わせのメッカなので人は大勢いるが、誰に聞く?
自分と同世代の人が気楽だけど、ミヤシタパークなんて新しい施設、若い人じゃなきゃ知らないだろう。(……と思った。実際はそんなことない。)
ワイワイと楽しそうにしていた、20代と思しきグループが目に入った。
話しかけづらいが、開講が10分後に迫っていたので、心を決める。
 
「すみません!」
すると、私に背を向けていた男の子が振り返ってくれた。
その子の顔を見て、私はびっくりした。肌色をしていない……!
白っぽく輝いており、ごく淡いピンク・グリーン・パープルを全部混ぜたような、なんとも綺麗な色をしていたのだ。
真珠みたいだった。パール系の化粧品を使っているんだろう。そういえば、韓流アイドルもこんな顔色をしている。
 
驚きとともに、不安がこみ上げた。
こんな今どきな子、私なんかに道を教えてくれるだろうか?
ところが、その子はイヤな顔ひとつせず、明るい口調で道順を教えてくれた。
しかも、「分かります? 一緒に行きましょうか?」とまで!
いえいえ、十分に分かりやすかったから大丈夫。それより、皆さんの楽しい時間を邪魔しちゃってごめんね。
そう思って、丁重にお礼を言い、ミヤシタパークへ向かった。
 
後方から、雑談を再開した若者たちの声が聞こえてきた。
「すごい親切に教えてたね」
「うちのお母さんみたいだったから」
私の聞き間違えじゃなかったら、そんなことを言っているように聞こえたのだ。
 
お母さん! たしかに、私は彼らの母親くらいの年齢だ。
ハッとしてしまった。
 
私が戻ろうとしている世界は、会社を辞めたあの頃と同じじゃないのだ。
現代の職場では、私よりずっと年下の、彼らのような世代が活躍している。
彼らから見たら、お母さんのような私。私に求められる振る舞いは、あの頃とは違っているだろう。
ならば、職場での人間関係に対する苦手意識は、もうリセットしていいんじゃないだろうか?
 
思いがけなく、私は小さな希望を見いだすことができた。
 
 
その日は講義を受けながら、ハチ公前での出来事を何度となく思い返してしまった。
講義を受けに来ただけなのに、真珠のように輝く青年に遭遇し、しかも希望を与えてもらえるなんて。
いつもと違う場所に来ると、予想外なことが起きるものだ……。
 
そして講義後には初めて、講師の方と話すチャンスにも恵まれた。
詳細は伏せるが、私はここで将来へのヒントとなる言葉をいただいた。
青年がくれた勇気にも背中を押され、未来へ向けて進んでいけそうな気持ちになれた日だった。
 
家でパソコンに向かっているだけでは、入ってくるのは自ら求めた情報と、広告や宣伝ばかりだ。予想のつかない未来への対処を考える材料としては、物足りない。
それよりも、知らない場所に行き、知らない人に会えば、期待もしていなかったものに巡り会えることがある。
 
AIが普及していく世界で自分がどう働くべきなのか、正直まだ見えてはいない。
でも、そのときの最善を尽くしながら、こうやって思いがけない出会いを重ねていけば、さほど悪くない人生が送れそうな気がする。
 
外に出て、歩いていこうじゃないか。
 
 
 
 
***
 
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2023-07-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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