「人質」ならぬ「椅子質」事件 そして旦那は裁判所で「囁き女将」になった
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記事:アズマヤミワ (ライティング・ゼミ4月コース)
ブルーインパルスが医療従事者への敬意を表して飛んだ日。
私は「椅子質」事件で地方裁判所にいた。
私の人生において椅子が「人質」ならぬ「椅子質」として捕らわれる日が来るなんて。
事の発端は、私の財産と言っても過言ではないビンテージ物の椅子の修理を依頼したことから事件は起こった。
私が大事にしていたイームズの椅子が2脚、修理が必要な瀕死状態に陥り修理業者を探した。
購入して20年。
しかもビンテージで購入した椅子のため、椅子年齢でいえばかなりの高齢だと推測される。
ネジが何度閉めても緩む椅子、
座面のヒビが少しずつ拡大している椅子。
人間で例えるなら、
高齢で排泄機能が低下し失禁を繰り返す椅子と
圧迫骨折をそのままにしていて骨折状況に陥り始めた椅子だろう。
ネットで検索し、修理してくれそうな業者を発見しコンタクトをとる。
椅子も自宅まで引き取りに来てくれ修理も2脚とも可能だろうということで依頼する。
1か月位経過した頃、修理に関する連絡がなかなか来ないため業者に連絡する。
そこから私は人生初の「訴状」をもらうという前代未聞の事件の当事者になっていったのだ。
椅子の修理の進捗状況を知りたく連絡したところ業者から以下の内容のメールが送られてきた。
メールで連絡を何度も行っているのに返信がない
修理は済んでおり倉庫で管理しているため管理費が発生している
業者からまさかの「管理費」という名目の高額な費用を請求された。
椅子1脚につき2000円×2脚×14日分=56000円!
全く意味が分からない。
椅子の修理の進捗状況をメールしたら高額な管理費を請求されたのだから。
その後、メールで業者とやり取りを行うが全くと言っていいほど聞き耳を持たない。
迷惑メールホルダーにも業者からのメールは見つからなかった。
管理費については迅速に納品を想定しているため見積もりに含まれていない
安定しないメールシステムで仕事のやり取りをしているのは無理がある
メールに返信がないのは亡くなっている場合もあり得ると思っています
77000円の入金が確認できない限り納品はしません
電話で話しを聞きたいと連絡すると
電話は使っていません。(持っていません)
と自分で安定しないメールシステムと言っているのにまさかの電話を持ってないなんて。しかも返信なき場合は死んでいると思うと。
私はパラレルワールドに突然、迷い込んだのかと思ってしまう返答が来た。
もうパニックだ。
椅子が「人質」状況になってしまっている。
消費者センターや弁護士の無料相談に電話する。
皆、口を揃えて言う。
「払う義務はないです」
と。
どう考えてもおかしいよ。
管理費なんて発生するなら毎日でもメールして進捗状況確認しますよ!
しかし残念ながら彼に「払う義務はない」というこの言葉の意味は
理解してもらえなかった。
旦那に
「椅子が人質に取られました」
と連絡。
すぐに連絡がきて状況を説明する。
旦那がこの事件の指揮官になったことは言うまでもない。
そして、私は知るのである。
旦那を絶対に敵に回してはいけないことをこの事件を機に思い知らされるのである。
旦那の捜査はすごかった。
直ぐに電話番号を見つけ出し、
Googleのストリートビューで場所を確認し、管理倉庫なるものが存在するのかどうか確認していた。
「すごいのどかな田舎だし最新システムで管理してくれてるような倉庫もないね。もしかしたら蔵で管理されてるかもよ、あはは」
と笑い飛ばされた。
その後の業者とのやり取りはすべて指揮官に意見を求めて行う流れとなった。
やり取りに疲れ果て、
「もういいよ。お金全額払って返してもらう」
と泣き言を言ったとき
「絶対に払うな! 払うと相手の思うつぼだし払う必要はない!」
と業者より怖いメールが帰って来るのである。
業者から少し揺れるような返信があると
「いいねぇ、いいねぇ。ちょっと揺れてきたね」
と楽しんでいるような返答も見られ、私は中間管理職のサラリーマンになった気分で
板挟み状態で言われるがままにメールのやり取りを行った。
遂に、業者から「訴状」が届いた。
とても簡素な訴状でこんな内容でも訴状は受理されるんだなぁと感心したのを憶えている。
さて、反対に我が家の司令官はとんでもない資料を準備してきたのである。
業者の住む地域のワンルームマンシャン~戸建ての家、事務所などの店舗物件の家賃相場。
椅子の送料に関する各運送会社の資料
そして今までの業者とのメールのやり取りをすべてプリントアウトしてファイリングしていた。
そして同じ内容のものを業者への資料提供として準備し送った。
凄い味方がいて安心した半面、
いつの日か敵に回してしまったら私は破滅すると本気で震え上がったのは言うまでもない。
椅子は司令官の指示のもと、修理費と椅子の大体の送料、手間賃として3000円ほど上乗せをし裁判の前に業者との合意のもと「解放」され私のもとに戻ってきたのである。
そして
2020年5月29日。ブルーインパルスが飛んだ日。
夫婦で呼び出された地方裁判所へ出向いた。
裁判官からいくつか質問を双方にされる。
私は業者に「私の大事な椅子を椅子質に取りやがってぇ~」と
念を飛ばしており質問に気付かずにいた。
その時だった。
傍聴席にいる旦那が開いたファイルを私の方に見せ、ペンで
「ここ、ここ」と口パクで必死に何かを伝えてきているではないか!
しかし、ペンが薄くて私の眼鏡の視力では全く見えず、
「何? 何?」
とこちらも口パクで返答するしかない。
しかし、彼は私以上に全力でこの裁判に臨んでくれていたので
小さな声で囁き始めた。
何を囁いてくれたのかはもう思い出せない。
しかし、旦那が1人しかいない傍聴席からやや身を乗り出し私に囁いてくれている状況が数年前にワイドショーで見た「船〇吉〇」の謝罪会見とシンクロし笑いをこらえるのに必死だった。
裁判官からは相手の提示金額は高すぎるがここは示談金として数千円払って終わりにしませんか? というようなことを提案された。
そして旦那からも自宅がばれているから子供に危害を加えられたりしても困るから安全確保のための示談金と思って払おう! と言われ渋々、5000円の示談金を支払った。
せめてもの抵抗で握りしめてしわくちゃにした5000円を渡した。
未だに納得はいっていない。
絶対に「勝訴」と思い自分で作成した「勝訴」の巻物。
不服そうな顔で記念写真だけでも撮って帰ろうと巻物を出して写真撮影をしようとしたところ
「裁判所内の敷地内での撮影は禁止ですよ~」
と40代の夫婦は怒られた。
ブルーインパルスが飛んだ日、
旦那が囁き女将になって
夫婦で怒られたそんな日だった。
***
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