アート作品に埋め込まれた『鍵』
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:スズキ ヤスヒロ(ライティング・ゼミ6月コース)
窓のない大きな礼拝場のような部屋に入ると、階段の上に、巨大な球体があった。
教会ならば、ちょうど祭壇にあたる部分に、
磨き込まれた巨大な黒曜石の球体が静置してある。
陽光が天窓を白く輝かせ、その光が球体に吸い込まれていく。
ここは、瀬戸内海にある『地中美術館』。
ウォルター・デ・マリア作 “タイム/タイムレス/ノー・タイム”の展示室だ。
彼の作品は、作られたモノのみで成立しない。
そのモノの置かれた空間・場所と一体化することで作品となる。
例えば彼の代表作、“ザ ライトニング フィールド”は、ニューメキシコの砂漠に
幅1マイル(1.6km)横1キロメートルにわたり、二メートルおきに建てられた、
高さ6メートルの細い鉄柱で構成されている。
「いったい、それのどこが作品なの?」
まぁ…… そう思うだろう。
ニューメキシコの砂漠は、夕方になると雷雨になることも多い。
そんなところに、細い鉄柱をたくさん建てたら、『落雷』を誘発することになる。
その“稲妻”が作品なのである。
インターネット上で、この“作品”への落雷の写真を、たくさん見ることができる。
身の回りにある鉄柱でも、置かれた空間・場所と一体化することで作品となるのだ。
地中美術館の展示室に戻ろう。
「さて…… この目の前の巨大な球体はなんだろう?」
展示室には柵などはなく、この“球体”に歩いて近づくことができる。
だが…… うっかり近づくと、跳ね飛ばされてしまいそうな存在感がある。
そうなってくると、抑えつけられると、跳ね除けたくなる厄介な私の性分が、
メラメラと燃え上がってきた。
「ただの石のくせに…… なんだなんだ! 負けてたまるもんか!」
どんなテンションの上げ方だよ…… と思いつつも、
この球体に戦いを挑むように、睨みつけながらながらジリジリと近づいてく。
「……」
「ま、大きな丸い石なわけで、なにも語るわけもない…… か」
少し冷静になって……
展示室のほかのお客さまの邪魔にならないように、
離れたとこから視線をふっと、緩めてみた。
「あっ……」
その巨大な黒い球体のなかに、もう一つの“部屋”が見える。
球体の表面はきれいに磨き込まれ、巨大な球面状の鏡になっている。
だから、魚眼レンズの映像のように、天井から床までの展示室全体が映り込んでいる。
まるで、この球体のなかに、もう一つの部屋が閉じ込められているかのようだった。
それからは、この球体の横を歩き回りながら、
映り込んでいる自分の姿や展示室を眺めながら、しばし楽しんだ。
「…… 作品だけをみていたら、みえないものがあるんだ」
自分はこれまで美術館で、モノをみようとしてきた。
絵画、彫刻、映像など、展示されているモノを当たり前のように見てきた。
この作品は、巨大な球体をモノとして“見ている”かぎりは、作品を『観る』ことができない。
このモノだけでは作品として成立しないし、このモノがなければただの展示室だ。
巨大な球体を、巨大な球面鏡として観ることが、まるでこの作品を解くための『鍵』のようだった。
この『鍵』を使うと、『なぜ、展示室に窓がないのか?』、『展示室の天井高と奥行きの意味』など、いろんなことがわかってきた。
「まるで、映画・“ダビンチコード”での謎解きみたいだな……」
この作品で出会うまでアート作品に『鍵』が潜んでいるなんて、考えたこともなかった。
それから、アート作品に出会うたびに、『鍵』を探すようになり、
作品とそれまでと違った付き合い方ができるようになってきた。
私は学生の頃から現代アート(モダンアート)が好きだ。
例えば…… 『なにもない展示室に対角線に張られたワイヤーが1本』、ただそれだけ。
わざわざアートギャラリーに出向いていったら、作品に思いっきり突き放される。
「なんじゃこりゃ!」
そんな、“とりつく島のなさ”が好きだった。
社会人になり、アーティストの方々と知り合うようになってみて、
それまで『なんだこれは!』と思ってきたような作品を、
命を削るようにして制作していることを知るようになってきた。
そして、彼らの作品とは存在をかけた表現であり、
つくりだされる作品は、ほかの何かで表現しなおすことができない。
それは、彼らと長い間つきあってきて痛感してきた。
もし、コトバで表現できるならば、絵画にも彫刻にもする必要がないのだ。
だから、作品を制作するのだ。
だからもし、私が作品に強く突き放されたとしても、
作家は、制作した作品の指し示すなにかを、コトバで語ることはできない。
それが精一杯の表現なのだから。
そうなると、鑑賞する私たちが、その作品と向き合ってそれを“解く”しかない。
『鍵』とは、作品のなかに込められたモノコトを取り出すための、鍵なのだとおもう。
どんなアート作品でもいい。
もし、自分の気になるものがあったら、
「この作品の“鍵”はなんだろう?」
と、少し角度を変えて、謎解きをするように作品をみることをおすすめする。
うまく“鍵”をみつけることができると、その作品についていろんなことがわかってくる。
この記事についてのイメージ写真は、岡本太郎 作「こどもの樹」だ。
東京・青山にある国連大学のすぐ横に設置されているパブリックアートで、
24時間いつでも無料で観ることができる。
実はこの作品にも、あっと驚く『鍵』が隠されている。
私がこの『鍵』に気づいたのは数年前だ。
なんとなくこの作品が気になって、ぼけっと眺めている時に『鍵』の存在に気付いた。
それから、ここを通りかかると時間の許す限り、ずっとその『鍵』をつかって、
こどもの樹を眺めている。
***
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