メディアグランプリ

アイシングクッキーを贈られる側ではなく、贈る側になってみて気づいたこと。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:kana(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
「アイシングクッキーは、禅だ」
 
なに言ってんだこの人と思ったあなた、ページを移動しないで! もう少し聞いて!
アイシングクッキーって、可愛い女の子がキャピキャピ作るお菓子というイメージがある。
私も以前はそう思っていた。
 
話は、数年前に遡る。
私の誕生日に、いつもはクールな親友が少し照れながら渡してくれた銀色の缶。
開けた瞬間、どうしようもなく心が華やいだ。
「HAPPY BIRTHDAY」
綺麗なパステルカラーで描かれた文字を、立体的なお花とキラキラのアラザンが縁取る。
手作りのアイシングクッキーのプレゼントだった。
ウサギが好きなことを覚えてくれていたようで、ピンクと白のウサギのカップルも仲良く缶に入っていた。
 
「ああ、ずっと眺めていたい」
うっとりした気持ちで、思わず呟いた。
「手作りだから早めに食べてね」という親友の気遣いも、無視したくなるほどだ。
実際にそのあと数日間は飾ってしまい、気が済むまで写真を撮ってから美味しくいただいた。
 
「アイシングクッキーを作れるより、毎日一汁三菜を作れる方が、有能でしょ?」
正直に言うと、アイシングクッキーなんて、可愛いだけで実利のないお菓子だと思っていた。
そんなスレた心は、この日銀色の缶を開けた瞬間に、いっぺんに籠絡されたのであった。
 
「贈ってもらうとこんなに嬉しいなんて知らなかった……!」
「アイシングクッキー作りは人を幸せにする技術だ」
 
そう確信した私は、自分でもやりたいと思いたち、早速材料をネットで揃えた。
「可愛いの作るぞ〜!」
意気揚々とクッキー作りを始めた私は、この時まだ気づいていなかった。
「アイシングクッキー作りは禅だ」という結論に辿り着くことに。
 
手始めに、小さい三角のビニールシートを丸めて先を尖らせる。
そこにアイシングの液を流し込み、「コルネ」と呼ばれる絞り袋を作成する。
そして、切った絞り袋の先端からアイシング液を少しずつ出して、クッキーの上に線を描いていく。
 
ルンルンとした気分で線を描き始めた私。
ところが、びっくりするぐらい、線がよじれてしまった。
「もっと簡単だと思ってた……」
 
一定の細さの線を綺麗にまっすぐ引くためには、アイシングを絞り出す力を一定にしながら、ゆっくり慎重に運ぶ必要がある。
信じられないほど「深い集中力」を要するのだ。
 
そして時間が経つほどに、絞り袋の先端には段々とアイシングが固まってきて、細さが不安定になる。
「さっきまで綺麗に描けていたのに……」
線の細さと連動して、私の気持ちも心細く不安定になった。
「ふぅ〜」
集中するに伴って、知らず知らずのうちに息を詰めていた。
このまま続けても埒が明かないため、固まったアイシングを取り除き、再び描き始める。
 
しばらくもがいた後で、ようやくまともに線を引けるようになった。
しかし、すぐ次なる壁にぶち当たった。
鳥の羽の毛流れを立体的に描くところを想像してほしい。
鳥の輪郭を塗りつぶしたアイシングの、うっすら乾き始めた表面をみて、もういいかな、と思って毛流れを描き始めた。
「あっ……」
みるみるうちに、毛流れを描いた線は、体を塗りつぶしたアイシングに吸い込まれていった。
十分に固まっていないうちに、上にアイシングを追加すると、融合してしまうのだ。
「焦らず待つこと」がとても大事だと悟った瞬間だった。
 
なんとか数枚を仕上げたが、次のクッキーのデザインがなかなか思い浮かばない。
そこで、デザインを参考にしようと思って、スマホで「アイシングクッキー」と検索をかけてみた。
 
画像を見始めた途端、すぐに心が折れた。
どうやらネットの海には、アイシングクッキーのプロフェッショナルがウヨウヨいる。
しかも、物撮りの技術まで持っている人たちは最悪だ。
「映え」としか言いようのない美しいクッキーたちに、高みから見下ろされて、私は地面に膝をついた。
 
「くっ……!」
歯を食いしばって立ち上がる。
「自己クッキー肯定感」を下げてくるクッキーモンスターたちに、ここで屈してはいけないと、自分を奮い立たせた。
ネット上の美しいクッキーを眺めているだけでは、自分の技術は全く上達しないのだ。
ひたすら線を引いて、引いて、塗って、重ねて……経験を積むことでしか、技術は身につかない。
「人と比べて落ち込まないこと」を心に刻んだ私は、続きのクッキー作りに再び向き合い始めた。
  
3時間かかり、やっとこさ10枚程度のアイシングクッキーを仕上げた。
失敗作は自分で食べて隠滅したため、本日の摂取カロリーは完全にオーバーである。
まずは母親にプレゼントしてみようと思い、いそいそと梱包し郵便局で実家に送付した。
「母の好きなミモザの柄、喜んでくれるかな」
「もっと上達したら親友に贈ろう」
こう思いながら夕焼けの中を歩いて帰宅していると、深い充足感がそこにはあった。
「アイシングクッキーを贈りたい」「あげたらどんな顔をするかな」と想える人がいることは素敵だな、と思った。
アイシングクッキーを人に贈ってみたら、思いの外「満たされていること」を実感したのであった。
 
一連のアイシングクッキー作りを終えて、私は気づいてしまった。
「アイシングクッキー作りって、実は深いのでは……」
集中力を保つこと、焦らず待つこと、人と比べないこと、満たされていると気づくこと。
まるで、静かなお寺の縁側で座禅を組んだ時のような効用がある。
 
社会人になってからというもの、人と比べては落ち込み、もがくことが多かった。
入社後、先輩社員から十分に面倒を見てもらえる環境になく、早々に独り立ちを余儀なくされた。
先輩と一緒に大きなプロジェクトを担っている同期を横目で見ながら、ひとりで試行錯誤を重ねる日々の中で、「どうして私だけこんなに苦しいのだろう」という思いがどんどん溜まっていった。
家に帰っても、つい仕事のことを考えてしまう割には、なんの解決策も浮かばなかった。
 
そんな状態の私だったが、週末にたびたびアイシングクッキーに向き合う中で、
「人と比べてもしょうがない、自分のやるべきことをコツコツやるだけだ」
「面倒見てくれる先輩はいないけど、ちょっと相談できる先輩は周りにたくさんいる」
こういう思いが芽生えてきた。
アイシングクッキーのおかげで、なんだか地に足がついた気がする。
 
そして「文章を書くこと」もまた、アイシングクッキーと同じだと思った。
ネット上には上手い文章がたくさん存在し、読むたび羨ましい気持ちでじれったくなる。
しかし、羨ましがっているだけでは文章は上手くならない。
コツコツと言葉を紡いでいくしかないのだ。
まるで「アイシングクッキーを贈られたときのような感動」を、読み手に与えることを目指して。
 
「アイシングクッキーは、禅だ」
 
つい焦ってしまう、人と比べてしまう、仕事のことばかり考えてしまう……
こんな悩みを持っている人こそ、ぜひアイシングクッキーに挑戦してみてほしい。
一枚一枚丁寧にクッキーを仕上げているうちに、不思議と心が整うから。
 
私の座禅修行はまだまだ続く。
 
 
 
 
***
 
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2023-07-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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