メディアグランプリ

ものを買うことは、自分選び


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:とみづか みほ(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
ギャラリーのドアを開けると、いつもの店主が接客をしてくれた。
訪れたのは、夏の服を集めた特別展だ。
 
「この作り手さんの服はね、見ている時と着てみた時で印象が全然違うの。
だからどんどん試着してみて」
 
そう言われて、少し照れながらも着てみる。
股下の深いサルエルパンツは、軽いし動きやすい。合わせて着させてもらったグレーのシャツによく合う。
 
「形が既製品と違うのよね。誰が着ても、その人らしく素敵になるのよ」
 
店主はそう言ってくれた。
 
Instagramで目をつけていたピンクのパンツ、想像以上に目を引く色で一瞬迷ったけれど、この着心地の良さは他にはない。
 
思い切って購入を決めた。
 
 
今年の初め頃、夫の地元県に古民家を購入して移住してきた。
 
移り住む前や直後は、夫の要請もあり、DIYのような作業も多少やっていた。その時必要なのは、作業着や、作業に使う道具だった。首元を日差しから守れる帽子、長靴、草刈り機や高圧洗浄機などだ。
これらのおかげで助かることも山ほどあるのだが、そう思えるようになったのはつい最近。買った当時の私は、買うこと自体にはほとんどときめいていなかった。片付けで有名なこんまりさんのセオリーで言うと、きっと後で捨てる可能性が高い、買うべきではないものだっただろう。
 
季節が巡り、辺りの田んぼに稲がそよそよ揺れ始める5月頃、意識が少し変わった。
 
それまで、必要な物は必要なので買っていたが、必要なもの「だけ」を買っていった結果、心がしぼんでいくような感じに襲われたのだ。
要は、物欲が収まらなかっただけなのだが。
 
「このままでは何だか楽しくない。ちゃんと心がときめくものを買おう」
 
 
そう思い始めた。
ただ買い方は、東京にいた頃と少し変わったかもしれない。
どうせ買うなら、今の家に合うものを、自分がちゃんと好きになれたものを、長く使えるものを買おうと、より思うようになった。
 
行ったことのあるお店や、小さなこだわりの店で、作家の作った服や器などを買う。
そういうものは丁寧に作られていて、長く使える。使っていて気持ちがいい。買うときにその品について会話がある。
 
もちろんネット経由で買うこともあるが、必要最低限になった。
 
 
どうしてこういう買い方をするようになったのだろう。
もしかしたら、手に入れるものや手に入れる場所に、何かの「ストーリー」を求めているのかもしれない。
作るのに何か珍しい技法を使っているとか、輸入するのに苦労したとか、どこで制作しているとか、私が手に取るまでにその品にあった背景を知りたい。パッと見ただけでは感じきれない魅力を、教えてくれるお店から買いたい。
 
本来私はひどくコミュ障なので、できればあまり会話をしないで買い物をしたいと思うのだが、良いものがありそうと分かれば、足を運べる。
 
そして不思議なもので、良いものは繋がっていたりする。
1つ店を見つけると、数珠つなぎのように、興味をそそられる作り手やイベントが見つかるのだ。
 
あるギャラリーでイベントのお知らせをもらった。近く開催される陶芸作家の個展と、2つ隣の駅にある雑貨店のイベントだった。
この夏を乗り切るため(という口実で)、その2つをハシゴした。
陶芸作家の個展では、湯飲みにも蕎麦猪口にも使えるフリーカップを、雑貨店では竹のざるを買った。
 
フリーカップの作り手について、こんな話を聞いた。
 
「工房のある地域では人気がありすぎて、作品を購入するのが難しいくらい人気のある方なんです。この県に来たのは22年ぶりで、個展の初日は行列ができていましたよ」
 
偶然この個展が開かれるのを知り、気に入るものに出会えたことが、奇跡のように思えて急に嬉しくなった。
 
また、竹ざるにはこんな背景があった。
 
「原料の竹に、なんでも数百年に一度の花が咲いてしまったらしいんです。
竹ざるは若い竹から作るんですけど、一度花が咲いてしまうと、何年も材料が取れなくなる。今は材料不足と作り手の高齢化も進んで、いつまで作れるか分からないそうなので、貴重ですよ」
 
竹のざるは使い込むと色が深く変わっていくらしい。深い色になるまで、大事に使っていきたいな、と思わされた。
 
こういう話をウェブで読んでもいいのだが、店に足を運んで聞くと、そのストーリーも含めて「手に入れた」実感がわいてくる。
 
 
カップを買ったギャラリーの店主曰く、作り手がこだわって作ったものは、どこか「力がある」。私は霊が見えたりする質ではないけれど、確かに、存在感が強い気がする。
私がストーリーのあるものに心を動かされるのは、そういうものを近くに置いて、平凡な自分の人生を彩りたいからだ。
ストーリーのあるものを使うことで、その品の良い空気を自分に取り込みたいとか、気分を上げたいという気持ちがある。
 
だから今の私にとって、ものを買うことはストーリー選びだし、好きな自分でいるための「自分選び」なのだ。
最近SNSで、環境に負荷の少ないものを選んで使う人の投稿を、目にすることが増えた。これも、その人がどう在りたいかを選んだ「自分選び」の結果かもしれない。
 
難しい話はさておき、私はこの夏、ピンクのパンツで人に会い、とっておきの蕎麦猪口とざるで蕎麦をすするのだ。いつ使おうかな。夏が俄然、楽しくなってきた。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2023-07-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事