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『ポメ騎士の君』の効果と私 ※これは犬の話ではありません


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:むぅのすけ(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
いったい何のご褒美なのだろう。
自分がこんな場面に遭遇できるなんて、本当に生きていてよかった。
 
かの殿方は私の前で、騎士のように片膝をついている。
私の身体に触れるか触れないかの位置に手を添えて、私を見上げ、微笑みながら囁く。
 
『大丈夫。絶対に、貴女を倒れさせるようなことはしません』
 
その瞳は、今、私だけを見つめている。
私は頷き、騎士の君の肩に、そっと手を置く。
そして、勇気を出して、足元の平たいバランスクッションに片足を乗せていく……
 
 
 
ドジな私が階段を派手に踏み外して、全治6週間と言われた右足首の剥離骨折を患ってから、二ヶ月が過ぎる頃のことだった。
ギプスこそ免れたものの、シャワー時以外は装具でガチガチに固めて過ごすことを強いられていた。
とにかく、まだそーっと動いて生きていたのである。
 
確かにあれから、痛みも腫れも治まっているし、動かせるようになってきて、出来ることも増えている。
 
だがしかし、である。
素人の私が見ても、元通りには程遠い。
 
『全治』=怪我をする前のような元通りの状態?
怪我について、無知な私はそう思い込んでいたが、医師曰く、全治とはあくまでも骨がつくのにかかる期間であった。
元通りに近い状態になるためには、リハビリが必要だったのだ。
なるほど、私が考えていたのは、完治の方だったのかもしれない。
 
リハビリと聞いて、何を思い浮かべるか……
 
またしても無知な私は
ニッコリ笑ったスタッフさんに、痛い事とか怖い事とかを半ば強制されるんじゃないか、それを何度も繰り返さないとならないのか……と勘繰って怯えてしまった。
治るまでの道筋が、既に自分の認識と大きく違ったこともあり、とにかく思考が悪い方へ行ってしょぼくれていたのだった。
 
しかし、いざ、おっかなびっくりリハビリ施設に足を踏み入れた私は、ポーカーフェイスを装いながら、すぐにここは天国ではないかと感じていた。
 
広々とした清潔なフロアに、いくつもの機械や道具が置かれて、男女半々くらいのスタッフの方が立ち働いている。
みな若くて、明るいのだ。
明るく元気のいい若者が、密かに大好物であるアラフィフの私は、眺めているだけでも癒される。
 
スタッフは予約の時間枠の間、その一人の患者に優しく語りかけながら、その人に合った身体のケアをしていく。
患者はお年を召した方が大半だった。
多くの方が、ただ治療のためだけでないこの時間を、大切に思って通って来られているように私には見えた。
なんというか、全体的に優しい空気に包まれている、そんな居心地のいい空間だった。
 
 
例にもれず、私のリハビリ担当になった理学療法士の先生は、20代の男性だった。
少し小柄で、子どもの頃からのスポーツで引き締まったお体、お顔はマスクで目元しかわからないけれど、二重でちょっぴりタレ目なところがポメラニアンを連想させる。
そして物腰はとても柔らかく、紳士的だ。
 
知識に基づいた仮説から、私の患部を労わりつつ可動域を増やすべく、コミュニケーションを取りながら私を導いてくださる。
まさしくプロである。
 
そんな殿方に、冒頭のような扱いをされたら、もうその人が騎士のように思えてくる。
それも私だけの騎士である。予約している時間限定であるが。
いつしか私は、ポメラニアン騎士の君、略して『ポメ騎士の君』とあだ名をつけて、脳内で呼んでいた。
 
ポメ騎士の君は、優しい笑顔で挨拶が済むと、必ず始めに私の患部をマッサージしてくれる。
私の患部は、そう、右足首である。
 
診察台のベッドに腰を掛ける、20代男性ポメ騎士の君に、なんと裸足の右足首を預け、装具を付けて動かさないようにしているために固くなったところをほぐしてもらう。
そして私がリラックスできるようにと、気遣いの溢れるおしゃべりをしてくださる。
私はもう舞い上がって脳内にお花が咲いてしまう。
脳内が顔に漏れないように必死である。
 
 
これが私にとって天国ではない、はずがない。
そんなわけで、週に一度のリハビリがすっかり楽しみになっていた。
おかげで、今までになかった種類の潤いが、日常に感じられるようになった、ような気がしていたのだ。
 
……こうやって明かしてしまうと、ドン引きされるのは承知している。
どこまでも都合のいいことはわかっているのだ。
でも、調子に乗って余計なことを聞きまくったり、触りまくったりはしていない。
プロとしての先生に敬意を抱きつつ、傍でコッソリ喜んでいるだけなのだ。
どうか、罪のない、他愛のないこととお許しいただきたい。
 
だって、この日々は、期間限定だ。
右足首は順調に回復しているのだから、治療が済めば終わってしまう。
ポメ騎士の君のおかげだけれど、少しでもこの期間が長く続いて欲しい、と思ってしまうのは乙女心だろうか。
寂しい。
が、仕方ない。
ちゃんとわきまえている、から、だ、大丈夫だ。
 
もはやポメ騎士の君ロスは確定している。
それでも、来るその日まで、ポメ騎士の君を、私の五感と全身をもって、堪能させていただこう。
 
今日も私は、リハビリの時間にあったことを妄想を絡めながら思い出す。
次回に褒めてもらえるかもと期待しつつ、治りが早くなることへ若干の迷いもありつつ、ポメ騎士の君に教わった、家で出来るリハビリその①、足指ジャンケンに励んでいる私であった。
 
 
 
 
***
 
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2023-07-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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