メディアグランプリ

先生も僕らと同じ感じだったことがわかる本


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記事:村人F (ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
そういえば先生が何を考えていたか、ちゃんと考えたことはなかった。
小・中・高といろんな先生がいたけど、ざっくりした印象は上から目線で偉そうに言ってくる感じで。
彼らのお説教を聞きながら内心では「じゃあ先生はどうなんだよ?」的な反抗態度を取っていたこともあった。
もちろん「出会えなかったら人生どうなっていたんだろう」って思うくらいお世話になった方もいる。
でも、先生たちがどんなことを思いながら僕らと接していたのか、しっかりと考えてはいなかった。
 
この先生の気持ちがよくわかる本、『学校するからだ』を読んだ。
本書は現役の国語教師である著者が、教える中で感じたことをいろいろ記した作品である。
偉そうな口ぶりで話している時に「謎の言葉を発している自分がおかしくておかしくて」って内心笑いながら喋っていたこと。
進路相談に来てくれた生徒に「よしわかった、パンクバンドを組め!」ってドヤ顔でアドバイスしたら、盛大にスベって死ぬほど恥ずかしい思いをしていたこと。
この本に書いてあるエピソードは、どれも先生のリアルだ。
 
これらを読んでいると、思っていた以上に先生は僕らと同じ感じだったんだって気付く。
指導の場では偉そうな態度を取っている。
でもそれは、教師と生徒という人間関係について考えるための必要な行為だからやっているわけで。
だから自分でも「偉そうだな」って思いながら「演技」をしている。
そういう心境を見ると、案外僕らと同じように悩んでいるんだなって思えた。
 
先生も本当は、友達に話しかける感じで好きなことについて語り倒したいのである。
だから雑談のタイミングでは、副業でライターをやるほど愛している音楽について熱くなるわけだ。
こういう先生ならではの距離感が本書には詰まっていた。
 
そして、文章全体から伝わってくる。
思っていた以上に、先生は僕たち生徒のことを考えてくれていたのだなと。
 
「パンクバンドを組め」発言でスベった時のことも、冷静かつ短い文章で書かれているのに後悔がメチャクチャ感じられた。
それくらい頼ってくれた生徒に答えを出せなかったことが悔しかったのだ。
 
もちろん「コロナ禍」で激変した学校生活に対する思いも書かれていた。
「外野」の人は好き勝手にどうたらこうたら言ってくる。
でも現在進行形で学校と関わっている先生、生徒にとっては人生を左右する大問題なのだ。
これらを誰よりも理解しているからこそ「言いたいけど言えないこと」を書いたのだろう。
 
「ネグレクトやDVといった問題に直面する子どもにとって、『ステイ・ホーム』とはなんという残酷な『要請』であることか」
「(コロナ禍で中止になった合唱コンクールに対し)『来年の合唱を楽しみにとっておいていただきたい』ではないのだ」(カッコ内筆者注)
 
これらの言葉は、無責任な部外者には決して出せない重みがあった。
 
しかし改めて考えてみると、今の僕はお世話になった先生方と同じくらいの年齢になっていた。
高校生くらいに年齢の離れた人ではないけれど、後輩指導という形で教える立場になることも増えてきた。
かつて先生が僕にしたように、僕も後輩へ偉そうに怒ることもある。
内心では「ちょっと前まで同じミスを僕もしていたなあ」なんて思っているのに。
気付いたら、あの時ぜんぜん考えていなかった先生と同じようなことをする必要がある立場になっていた。
 
だからこそ本書で学べる内容が刺さるのだ。
教えることの難しさ、人生のガイドとして導ける楽しさが詰まっているから。
この現役教師だからこそ書けるリアルな生活は、かつてあった学生時代の追体験だけに留まらず、今の自分がどう振る舞うべきかまでを僕に問いかける。
そういう最高の授業が『学校するからだ』で繰り広げられていた。
 
先生方は、今も教え方や生徒へのアドバイスをどうすればいいか、誰よりも本気で考えていることだろう。
そして僕たちも、彼らと違うようで似ている人間関係について悩み、答えを求めている。
こんな感じで毎日を必死に過ごしているのは、生徒も先生も会社員も、みんな同じだ。
 
ただ僕がやっていることなんて、先生に比べたら10%もできていないのだろう。
だから本書を読んで、もっと勉強したい。
人生を変えなければならない立場にある者の振る舞い方を。
本気で相手を思っているからこそ導き出せる言葉の力を。
 
誰かに教えないといけないのは僕も同じだから。
その覚悟と勇気を、先生を見習って強く持ちたい。
 
・紹介した本
題:『学校するからだ』
著者:矢野利裕
出版社:晶文社
 
 
 
 
***
 
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2023-07-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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