メディアグランプリ

ダメ男と聡明な女の間に生まれてきた子どもは幸せになるのか


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記事:イモトアヤコ (ライティングゼミ4月コース)
 
 
私の父はダメ男である。
近年親ガチャなどの言葉も耳にするようになったが、子どもから見て、
親がハズレなことをガチャに外れたとか言うらしい。
 
もう一度言う。私の父はダメ男であり、ダメな夫であり、ダメな父である。
普段は温厚で良い人なのだが、お酒を飲むと人が変わる。
小さい頃はお酒を飲んで帰ってきて大きい声を出したりする父を怖いと思っていたが、
中学生ぐらいになると恐怖はなくなり、滑稽に見えた。
もはやマンガを読んでいるぐらいの感覚で、父のことを傍観していた。
 
普段、温厚で気が弱い分お酒を飲むと気が大きくなって人に対して偉そうになったりして嫌われる。お酒を飲みだすと帰るタイミングをなくし、朝になる。お金がなくなってもツケで飲んでしまう。飲みすぎて二日酔いで仕事ができない。お酒が人をダメにする典型的なパターンだ。
 
ある日の朝、ジリリリリリンと電話がなった。
『警察です車が放置されているので取りにきてもらってもいいですか?』
『どこですか? すぐ行きます』と言って私は家を出た。
徒歩3分ぐらいのところに、運転席のドアがあけっぱなしの、うちの家の車らしきものが住宅街の道路の真ん中に捨ててあった。
私は捨てられた車を家に連れて帰ってきた。
父に『あんた車乗り捨ててきてたで』と言うと、
ケロッとして『えー覚えてへんなぁ』と言っていた。
 
父は帯の問屋の会社で働いていたがリストラされて、自営で着物や帯を売っていた。
自分で商売をするには車は絶対必需品だったが、いとも簡単にそれを捨てて帰ってくる人だった。
 
そして数日後、夜中に電話が鳴る。
『警察です事故現場まで来てください』
私と母は夜中、事故現場までかけつけた。こないだ路上に捨てられていた車は、電柱に激突してフロントガラスが割れていた。その割れたフロントガラスに血と髪の毛がへばりついていた。
『死んだな』と母がボソっと言った。
『次は病院に行ってください』と警察に言われて病院へ向かった。
包帯を頭にグルグル巻きにした父親らしき人がフラフラと向こうから歩いてきた。
『生きてたな』と私が言った。
『病院においてかえろ』と母。
 
看護師さんに今日1日だけでも病院においてもらえないかと頼んでみたが、本人がどうしても家に帰りたいというので連れて帰ることにした。
 
その日連れて帰って座布団を並べた上に放置しておいたが、朝になって血まみれの座布団の上で目を覚ました父は何が起こったか全く覚えていなかった。
車は廃車になっていた。
 
落ち着いたころに昨日の事件の一部始終を父に説明し、車は廃車になったと伝えた。
うちの家は車が2台あった。母の車と父の車だ。母の車を借りて仕事をするしかない父は車を貸してほしいとお願いしていたが、母は一枚上手だった。
なんと夕方には新車が納車されいてた。
そこで一言。
『一生働いて車代返してや』と父に言い放った。
私は心の中でどこにそんなお金がうちにあったんだろうと不思議だったが、母は現金で車を買っていた。
 
うちの家は家計が別々で父と母のお金の管理が全く別になっていた。
父は借金まみれ、母は車を現金で買えるぐらいの貯金があった。そしてまた車1台分の父の借金が増えていく。
 
私は父に『仕事もせんとプラプラ飲んでばっかりで普通の奥さんやったらとっくにあんたなんか捨てられて路頭に迷ってのたれ死んでるで!』と言ったことがある。
すると『お父さんそんな人選ばへんもん』と返ってきた。
なかなか生粋のヒモである。
 
母にも私が高校生ぐらいの頃、『私がいるから離婚できないのなら申し訳ない離婚してもいいよ』と言ったことがある。するとものすごく冷静に、
『あんたに言われる筋合いはない』
『自分の選んだ人を最後までみようと思っているだけであんたが決めることじゃない』と言われた。全くおっしゃる通りで、ぐうの根もでなかった。
 
男と女って、夫婦って不思議だなぁと思っていた。
責任感だけで一緒にいられるものなのかなぁと高校生だった私は考えていたが、子どもにはわからない2人の絆みたいなものがあったんだろう。
 
そして数十年後父は非常に父らしい亡くなり方で人生の幕を閉じる。
 
朝までお酒を飲んで風呂で沈んで亡くなっていた。
その日、母は実家の三重県に帰っていて家にいなかった。私も友達と飲みにでていて帰ってきたのは朝方だった。家に入ると父の服が床にちらばっていて、小銭もばらまかれてあった。おかしいなと思って風呂場を開けると父親が湯舟に沈んでいた。
 
心不全だった。
母に電話をかけて父が亡くなったことを伝えると
『ウソみたいな話やなぁ。今から帰るから』と電話口の母は冷静な口調だった。
 
母は家に帰ってきてからも一滴も涙を流さなかった。お通夜の時も。
親戚の人に対しても気丈にふるまい、いそいそと動き回っていた。
そんな母を見ながらかっこいい女だなぁと思っていた。
 
よく考えたら母の泣いた姿を今まで一度もみたことがなかった。
しんどいとか辛いとかの言葉も一度も聞いたことがなかった。
 
そんな母が火葬場で、紙パックの鬼殺しをおもむろに開けて、
『よく燃えるやろう最後に飲ましてあげよ』と言って日本酒を遺体にかけはじめた。
その時母は初めて涙を流していた。穏やかな表情で泣いているか泣いてないか周りの人からはわからないくらいの涙の流し方だった。
 
後にも先にもこの時以外に母が泣いたところを見たことがない。
 
父が母にありがとうと言っているところを私は聞いたことがなかった。
できれば最後に言ってほしかったと思っていたが、そんなことを母は一切気にしていなかった。
 
ただただ自分の選んだ人を最後まで看取ったというだけだ。
自分の人生の幸せは誰かにもらうものじゃないと彼女は思っている。
 
聡明な女に最後まで看取られるダメ男も実はカッコいいのである。
 
ダメな男と聡明な女の間に生まれた私は心からここに生まれてきて良かったと
思っている。
 
2人が出逢ってくれたから今の私は存在する。
凸凹だらけの世の中で必要な人に出逢えることは偶然じゃなくて必然だ。
 
今おかげさまで私は幸せに生きています。
 
ダメな父と聡明な母に感謝を込めて。
 
 
 
 
***
 
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2023-07-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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