メディアグランプリ

朗読のために芝居をしていると思っていた自分こそが、既に女優であった。


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:むぅのすけ(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
気が付いてしまった。
私はいつしか女優であった。
演者は私で、演目も私だ。
 
いや、正確に言うと演目は
妻である私
母である私
嫁である私
娘である私
とでも言おうか。
何のことはない、ただ生きていることが私を女優にしていたのだ。
 
芸能界や演劇界で、観客に向けて役を演じて芝居をする女性のことを『女優』と定義するなら、私の今言った『女優』とは、決して人様に観て頂く価値を持つものではない。
それなのに、あえて女優とするのは、妻・母・嫁・娘である自分をその対象ごとに創って見せていることが確かであるからだ。
そのことを、趣味となった朗読に取り組んでいる中で、知ってしまったのだった。
 
 
私は昨年、ひょんなことから朗読を通信で学び始めた。
 
そこでの受講生は、約二ヶ月間、毎週決まった〆切までに課題を動画にて提出する。
全国の受講生が、皆それぞれの場所で、それぞれに選んだ5分~10分程の題材を、朗読といえども顔出しで定点録画するのだ。
そして講師である先生が、またそれぞれの受講生にたっぷりとフィードバックを下さる。
 
フィードバックは通信で生中継され、先生のお顔を拝見しながら他の方へのお言葉を聞きつつ、自分の番を待つのだ。
最終提出したものは、編集されて音声のみ動画サイトYouTubeにアップされるという。
 
 
私に課題動画なんて撮れるのかしら……?
初めは見切り発車の如く、おっかなびっくりスタートした。
でも思い切ってやってみると、先生のフィードバックが嬉しくて、すっかりハマってしまった。
すぐに講座も先生も大好きになっていた。
 
 
エッセイやモノローグの作品を経て3期目となる今回、私は初めてセリフの多い男女の物語を選んだ。
佐藤春夫作 あじさい である。
セリフのある登場人物は、男、女、女の子供の3人で、皆、名前はない。
そして今は亡き女の夫のことを、3人ともとても意識しながら話は進んでいく。
 
ほとんど知らない大正時代の作品だ。
当時の文化や慣習、常識など、読んだことのある本やドラマの時代背景が似ているものを頭に浮かべながら、思いを馳せていった。
 
考えて思いを馳せることはとても楽しかった。
作品の大筋から大きく離れていなければ、先生はどんなイメージも肯定してくださるのだ。
同じ作品を複数の受講生が取組むと、必ず違いがあることをこれまでの受講時に知っていた私は、思いっきり自分の考察で作品の世界を創ろうとしていた。
 
 
あじさい という作品は、男女間だけでなく、全ての関係性がハッキリしないまま結末を迎えるストーリーだ。
そこがまた良いのだろうけれど、聞き手に向けて朗読するからには、何かしらの在り様を決めて表現していかねばならない。
 
このセリフはどういうつもりで言ってんのかしら……?
え? この二人の関係って、もしかして……
いや、結局どういうことなのさぁ……わからん!
 
何度も思考が袋小路に入っては、わからんワカランと迷うことを繰り返した。
それなのに、私はその時間をも、幸せだと感じていたのだった。
 
ひたすら登場人物に思いを馳せ、声の表現の仕方を考えること。
週ごとの先生のフィードバックから、自分の足りないところや、考えが全く及んでいなかった部分を意識すること。
これらを何度もイメージしては、なんか違うかも? と繰り返した。
このトライアンドエラーの繰り返しは、私にとって至極の時間であった。
 
声のみで芝居をすることは楽しい。
本気でそう思うようになったが、一つだけ問題が生じていた。
 
家族がいると、出来ないのだ。
 
我が家はコンパクトな造りのマンションの一室なので、声を張って話すと家中に筒抜けてしまう。
だから朗読の課題は、家族の留守の時間を狙って録画していた。
いつもなんとか家族の帰宅までに終わらせるのだが、先日は最終課題を提出するのに、どうしても都合のいい時間が取れなかった。
 
私は悩んだ末に、家族が起きて来ない時間にやってみようとした。
少しばかり声が聞こえても、なんとかなるやろー、いけるいける! と根拠のないまま翌朝に録画チャレンジすることにしたのだった。
 
だがしかし、である。
結果は全くできなかった。
 
家族が起きてくる気配はない。
時間もある。
だというのに、私は全く朗読の世界に入れないのだ。
つまり、思うように芝居ができなかったのだ。
 
ここで私は気づいてしまった。
 
家に家族がいるから朗読ができなかった理由は、声が筒抜けて恥ずかしいとか迷惑をかけてしまうという次元のことではなかった。
 
家族の気配が近くにあるから、芝居ができなかったのだと。
朗読の世界に入り込んで表現していくのは、妻でも母でもない私にしかできないのだ。
なんの役割も担うことのない、ありのままの私にだけ、朗読の芝居ができるのだった。
 
 
運も味方してその後なんとか録画を終えたのだが、それもこれも、きっと私が未熟であるが故のことだろう。
でもここまで思いいたって、ふと考えた。
 
朗読をする自分をありのままの私とするなら、役割を担っている普段の自分は、ありのままとは言えないということだろうか。
妻・母、そして嫁・娘である私
全て対象に向けてそれぞれの私を演じていたんじゃないかしら……?
 
 
 
深刻になりかけたが、気づいたからと言って、だからなんだということもない。
世の人は、一つの立場のみで生きている人はごく稀であろう。
概ね、いくつもの役割を担い、いくつもの顔をいい意味で自然に使い分けているはずなのだから。
 
こう考えると
私は、既に女優だったのかもしれない。
でも、ただ自分を生きているだけで、他の誰に観てもらうわけでもない。
演者は私で、演目も私。
そしてきっと観客も私である。
私の生き様は、他ならぬ私が観ている。
だったら、誰に言わずとも、役割を持つ自分に自信をもって、堂々と演じてみせたくなった。
 
軽い気持ちで始めた朗読は、多くの新しいことを私に教えてくれた気がする。
 
 
 
 
***
 
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2023-07-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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